リキシャー・ディセント・アルゴリズム #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2011-06-18 14:02:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第2部「キョート殺伐都市」より 「リキシャー・ディセント・アルゴリズム」#3

2011-06-18 16:19:38
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(あらすじ:舞台は地下階層都市アンダー・ガイオン。妻とともに中産階級へと這い上がってきた若きリキシャー・ドライバーのアナカは、偶然にもヨロシサン製薬の邪悪な陰謀を収めたフロッピーディスクを入手。大金の匂いを感じた彼は、既知のツテである私立探偵ガンドーの事務所を訪れるのだった……)

2011-06-18 16:28:00
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ガンドー探偵事務所は、応接室と奥にある小さな電脳部屋だけという、簡素な作りだった。壁には「探偵」と書かれたショドーが数枚、スモトリの手形色紙、骨董レコードなどがいくらか飾られている程度。基盤や書類や瓶の類がそこかしこに堆く積まれ、タヌキオブジェの上には、うっすらと埃が被っていた。

2011-06-18 16:35:18
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薄暗い電脳部屋に通されたアナカは、煙草の灰まみれの革張りソファに座っている。薄汚いテーブルを挟んでタカギ・ガンドーが座り、粗悪なスピリットを呷っていた。彼の背後と左側面には、緑色の光を放つ巨大なUNIXが聳え立ち、床は足の踏み場も無いほどのLANケーブルで覆われている。

2011-06-18 16:49:08
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ガンドーは190センチ近い偉丈夫で、短く刈り込んだ髪はズバリ中毒の影響と思われる完全な白。若干くたびれた肉体は、それでもよく鍛え上げられている。眠そうな目蓋が印象的な顔は、30代なのか40代なのかはっきりしない。ネイティブ・アメリカンの酋長めいたほう齢線が、頬に深く刻まれている。

2011-06-18 16:53:06
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「さて、いつものやつだよ、ガンドー=サン」アナカは自宅の机の引き出しから持ってきた、高純度ズバリのアンプルと、1グラムごとに分包された純白の中トロ粉末を取り出す。リキシャー・ドライバーたちの暴君であるタジモトから課されている、今月分の販売ノルマだ。

2011-06-18 17:01:20
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粉と液体を小指で採ってぺろりと舐めると、ガンドーは頷き、色褪せた茶色いダスターコートのポケットから、輪ゴムでぞんざいに巻かれたくしゃくしゃのオールド・イェンの束を取り出して机の上に置いた。オールド・イェンはキョートの通貨だ。「ちょっと待った、ガンドー=サン。今回は、金は要らない」

2011-06-18 17:03:14
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「要らないって?」ガンドーはおどけた様子で札の図案を指差す「セイント・ニチレン=サンが、恋しそうにアナカ=サンを見つめてるぜ?」。声は笑っているが、ガンドーの目は明らかに曇る。警告じみた様子だ。関係を持って二年になるが、それはあくまでもドライな関係である。アナカは少々気圧された。

2011-06-18 17:15:43
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だが、ここで一歩踏み出さねば、大金は掴めない。妻と、やがて生まれるであろう子を連れて、地上に行きたい。ディジタルな夜空ではなく、本物の夜空を仰がせたい。アナカは、ブルゾンからフロッピーを取り出して机の上に置いた。「その金を依頼料にしたいんだ。こいつを解読して大金をせしめるための」

2011-06-18 17:21:46
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「オイオイ……こりゃ、フロッピーじゃないか。ハッカーがよく使う」ガンドーは、そのフロッピーを様々な角度から眺めながら言う。興味をひくことにはまず成功だ、とアナカは思った。ガンドーが依頼を請け負う基準は金額の大小ではない。彼自身が興味を持つかどうかが、最も大きな要素なのだ。

2011-06-18 17:24:02
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「見な。入念に、上書き禁止タブまでONになってやがる。しかも相手は、あの暗黒メガコーポ、ヨロシサン製薬ときたもんだ」「暗黒メガコーポ?」アナカが問う。アナカは堅気の人間であり、裏社会の事情には疎い。「ああ、何でもない」ガンドーはフロッピーをUNIXの一台にスロットインした。

2011-06-18 17:30:49
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側面のモニタのひとつに向かい合ってから、ガンドーはウイスキーで割ったズバリを煽る。遥かに良い。開いたコートの奥、胸元に吊ったホルスターの二丁拳銃が、UNIXの画面に照らされて鈍い照り返しを見せた。「依頼を受けるかどうか、軽く内容を見てから決める。いいかい?」「ハイ、ヨロコンデー」

2011-06-18 17:41:20
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ガンドーはタノシイハッキング・キーボードと向かい合い、スゴイ級ハッカー並のタイピング速度でフロッピーの内容を解読しにかかった。トミーガンが連射されるかのような凄まじい打鍵音が、一瞬たりとも鳴り止まない。タツジン!さらにガンドーは足の裏でペダルを踏み、スピーカーのスイッチを入れる。

2011-06-18 18:22:12
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ズズズンズズンズズズズンイヨーッ!ズズズンズズンズズズズンイッイヨーッ!歪んだスピーカー音とともに、レトロなテクノが流れ出す。伝説のヨコヅナ「アンダーハンダー」が入場テーマとして使っていた有名な曲だ。「ハッハー!」薬物と音楽がニューロンを刺激し、ガンドーのテンションは上がる。

2011-06-18 18:57:46
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だがその時!ブガー!ブガー!ブガー!ブガー!UNIXの上に設置されたマッポサイレンが回転し、モニタの一台にアスキーアートで大きく「重点」の文字が映し出された!「オイオイ!何だ!?マッタナシか!?」ガンドーは物理タイピングを止め、モニタに見入る。アナカは静かに失禁していた。

2011-06-18 19:02:29
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モニタ上に『大変危険な』とメッセージが現れ、フロッピーの中から断片的にGREPされた大変危険な行が表示された!……『ヨロシサン製薬、アンダー・ガイオン、違法に金を払う、ザイバツ・シャドーギルド』……「オイオイオイオイ!やばいな!ザイバツ絡みかよ!」ガンドーが頭をかきむしる!

2011-06-18 19:16:54
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さらにその時!『オコシヤス』と電子マイコ音声が鳴った!来客だ!ガンドーは自動解読プログラムを走らせたまま、落ち着かない様子で応接室へ向かおうとし……ショウジ戸に手をかけ振り返った。「かなり危険なデータだ。キーボードに触るなよ」ショウジ戸を開け、もう一度振り返る「爆発するからな」

2011-06-18 20:18:21
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ガンドーが応接室に入ると、そこには薄汚いトレンチコートを羽織り、ハンチング帽を目深に被った男が立っていた。背中にはバックパックを背負っている。旅行者か?「オイオイオイオイ!どこの惑星から来たんだ!?」「ドーモ、タカギ・ガンドー=サン。イチロー・モリタです」「ドーモ、ガンドーです」

2011-06-18 20:22:54
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「俺の名前を知っているってことは、ただの旅行者じゃないな、依頼者だ。そうに違いない」ガンドーは落ち着かない様子で部屋の中を歩き回り、イチロー・モリタの肩を押して、外に追い出そうとした。「でもな、今別件で仕事中。それに、俺は紹介者無しじゃ依頼を受けん主義だ」「……ナンシー・リー」

2011-06-18 20:26:51
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その名を出した途端、ガンドーの態度が一変した。新しい玩具を見つけた鴉のように。彼のニューロンはマルチタスクに向いていない。「ナンシー・リーだと?あのヤバイ級ハッカー、ナンシー・リー=サンか?!」この半年間のうちに彼女の名は、一部のハッカー達の間で伝説的なまでの名声を得ていたのだ。

2011-06-18 20:30:35
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……一方、電脳部屋では、独り残されたアナカがぼんやりと十数個のUNIXディスプレイを見つめていた。洪水のように流れる緑色の文字列、テクノのビート、そして急性バリキ中毒によるハイテンションが混じり、神経が昂ぶる。自分の心臓音が異様に大きく聞こえ始め、テクノビートと入り混じった。

2011-06-18 20:35:52
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「ザイバツとか何とか言ってたが、何のことだろう」アナカは心の中で呟いているつもりが口に出していた。「あのガンドー=サンが取り乱す所をみると、よほどヤバイ情報だな。いいぞ、いいぞ。こんなチャンスはおそらく生涯一度だ。これでリキシャー仕事ともサヨナラ!ヨモコを地上に連れてってやれる」

2011-06-18 20:40:45
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テクノのビートに乗って、ソファに座った体が自然と跳ねる。莫大なカネを手に入れて、地上へ……そしてどうする?……具体的なイメージは何も湧かないが、カネさえあればどうにでもなる。この世界はそうやって動いてる。まるで王になって玉座に座っている気分だ。こらえようとしても笑いが止まらない。

2011-06-18 20:44:28