カレイドスコープ・オブ・ケオス＃3

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【この物語は】 電子ネットワークとサイバネティクス改造が一般化したネオサイタマが今、未曾有の危機に晒されている。北米カナダのネザー京から世界に宣戦布告して「天下布武」を打ち出した明智光秀が、ネオサイタマを始めとする４都市に大陸間弾道矢を撃ち、ポータルを開いて侵略を開始したのだ。

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【登場人物】 マスラダ・カイ：ニンジャスレイヤー タキ：情報屋 アズール：49マグナムを武器とする放浪者。ネザーキョウで人を探す アナイアレイター：ニンジャ六騎士の一人「フマー・ニンジャ」のソウルを宿し、凄まじいジツを使う放浪者。ネザーキョウでニンジャスレイヤーを探す

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「……知ってるか」急にアナイアレイターが言った。「何を？」アズールは空色の目でアナイアレイターを見た。彼は少し笑った。「この街の別名だ。……インターネット最終処分場、だとよ。インターネットの力で鋼を鍛え、カタナやヤリを作るらしいぜ。物騒な名前だと思わねえか」 0

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【カレイドスコープ・オブ・ケオス】#3 pic.twitter.com/Fx3Yy148tg

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ゴーン、ゴン、ガゴーン、ゴン……ゴン……ゴン。ネザーキョウの東域の境に存在するくろがねの街ナガシノを満たすのは、休まず稼働し続けるシリンダーや歯車の轟音であり、激しい金属音に埋もれながら、市街で職人が奮うハンマーの槌音が聴こえてくる。男たちはみな屈強で半裸、筋骨隆々であった。　1

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打ちひしがれた物乞いがブリキ缶を置いて座り込み、通行人を見上げる。商店には物資が乏しく、皆、煤で薄汚れており、表情は暗かった。時折カゴや馬で通り過ぎるゲニントルーパー達はふんぞり返って上機嫌だ。「どこも同じだ。新しい街に入るたび、うんざりするぜ」アナイアレイターが言った。　2

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「においは違う」と、アズール。「それから、ハンマーの音」「商売のタネはな」アナイアレイターは頷いた。２人はフードを目深に被り、人目につかぬよう、道の端を進んでいた。ゲニン達の目は光っており、カラテが充実していた。異常な空と「天下布武」の宣言が関係している事は明白だった。　3

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「それらしい奴らはいるか？お前が探しているような……LAN端子持ちはよ」「ここにはいない」彼らは表通りを進む。通りの先には黒くわだかまる影がある。ケオサキや99マイルズベイの廃墟で見るような重苦しい建造物。「順当に考えりゃ、あれが例のインターネット最終処分場って奴だろうな」　4

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チューニンに率いられたゲニンの一団が、銅鑼を鳴らしながら通り過ぎる。２人は遭遇を嫌い、路地に入り込んだ。ムッとする熱気が彼らを迎える。ただごとでない熱源の正体はすぐにわかった。このナガシノに張り巡らされた水道……否、溶鉄の管だ。バンブーを割ったような管である。　5

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それらは黒煙を煙突から吐き出すバラック建築物に枝分かれしてゆく。建築物の中からはハンマーの音が聴こえてくる。「号外！号外！惰弱４都市がカラテの炎に沈んだぞ！ネザーキョウはますます豊かに！」道端ではカワラバンを配る者。「アンタ、どうドス」道オイラン。金色の目に怯む。　6

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熱気は気温だけではない。アナイアレイターはカワラバンを斜め読みした。NYを始めとする４都市にタイクーンが矢を撃ち込み、自ら出陣しては、文明諸国の兵器を直接仕留め、ゲニンが送り込まれるという。街は巨大建築物を中心に上り坂を形成しており、溶鉄管の源はそこだ。二人は坂を上がっていく。　7

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カーン！カーン！カーン！カーン！路地に接したバラックの中が垣間見える。鍛冶師がハンマーを振るい、流れ込んできた溶鉄を鍛え、カタナに変えて積み上げていた。別の建物では、鍛冶師は鋳型に流し込まれた星型の鉄……スリケンを、ランナーから切り離す作業に没頭していた。　8

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「大増産」「ノルマ達成」「すごい力に生まれ変わる」などの勇ましい文言がショドーされ、壁に張られている。弁当売りが軒先から声をかける。「オジサン！そろそろ昼飯にしないか。弁当買わないかね」「やれやれ、そりゃイイな。もらおうか」「マイドアリ！儲かってるみたいだな」「そりゃあもう」　9

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鍛冶屋は笑顔になり、ネザーマイのオニギリを齧った。「戦線がどんどん広がって、作れば作っただけカネになる。タイクーンさまさまよ。濡れ手に泡だ」「そいつは良かったな」「精強な皆さんだからな。南方戦線も順調らしいや」「インヴェイン＝サンが楽勝でトオヤマから敵を追い出したってな」　10

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「ヘヘエ！南方戦線にゃ、武器の大量の買いつけがあるぜ。誇らしいやな……」「クワドリガ＝サンの筋肉、俺は直接見たことがあるんだ。カラテの化身、カラテの山脈だぜ」「そいつは結構だねェ！インヴェイン＝サンの噂はどうだろうね？」「あれか。仮面の下……」「水もしたたる美剣士らしいや」　11

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「たまらねえなあ」「とにかく、華々しくイクサしてくれりゃ鼻が高えし、ワシらのハンマーにもキアイが入らあな……ン？」鍛冶屋はアナイアレイター達に目を留めた。「なにか御用で？どちらさんで？」眩しそうに見る。「トルーパーの皆さんと違うナリだが……」「傭兵だ。仕事を探して、最近な」　12

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「ホホオ？」アナイアレイターは表情を変えずに嘘をついた。「ナガシノっていやあ、強い武具。そういう話を聞いてきたんだよ」「そりゃ、当たり前だ！見ていきな？」鍛冶屋は店の壁に飾られた陳列刀を示した。「自由に見てくれや」「ああ」壁からひとつ取り、刃を確かめる。「どうだね」　13

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鍛冶屋は誇らしげだった。「凄い刃だろ、持っただけでわかるだろ。なにしろ、ナガシノの鉄は他と違うんだ」「というと？」「街中を巡る導管が見えたろ。アレはよ、ありがてえインターネット最終処分場から流れてる。インターネットを潰してジャンクを溶かし、最高の鉄にする」「インターネットを？」14

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「まあ、他所の人にゃわからねえか」弁当売りが苦笑した。鍛冶屋は説明した。「アレよ。インターネットの機械をな、インターネット師が真っ赤ッ赤になるまで動かしてよ。爆発させれば、オヒガンの力が籠もるッてわけでな。それを溶かせば最高のネザーアイアンになるッて寸法だ。処分場でそれをやる」15

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「インターネット師ッてのは何だ」「そりゃお前、LAN端子でインターネットにつながる惰弱な連中に決まっとろうが。国中からナガシノに運ばれてくるよ。罪を犯した連中やら、文明都市からさらわれてきた連中やら。アワレだが、あそこで特別な仕事をやれるんだから本望じゃろて」「……成る程な」　16

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アナイアレイターとアズールは無言で視線をかわした。なかなか物騒な話が待っていると思われた。「ありがとうよ」アナイアレイターは刃を鞘におさめ、壁に戻した。鍛冶師が尋ねた。「どうだね、カタナは」「帰りに暇があれば、よく見に来るぜ」「……どうぞご贔屓に」　17

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アナイアレイターとアズールは店を出た。そして坂を上がってゆく。「何の帰りだろうね？」弁当屋が思い出したように鍛冶師に尋ねた。鍛冶師は肩をすくめて首を振り、笑った。２人は足を早める。決断的に。　18

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サウスダコタ州、エルスワース空軍基地！かつて地球規模攻撃軍団の要衝であったその滑走路はいまや荒れ果て、「バカ」「スゴイ」「FUCK」などと書かれた巨大なグラフィティ・カンバスと化し、見る影もない。だがそれは実際、ここが無価値な場所であると思わせるための偽装工作である。　20