ジュール・ヴェルヌの「20世紀のパリ」作中での内燃機関の予想
- R_Tachigawa
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まぁ、いまの世界がいわゆるスチパン世界みたいにならなかったの、実は単純な理由で、「熱交換器がクソ重いから」です。
2020-05-21 20:57:30これに関しては、ジュール・ヴェルヌが「20世紀のパリ(1863)」の中ですっごい面白い未来予測をしています。以下、引用しますね。
2020-05-21 21:29:36「実際、大通りの車道に行き交う無数の車は、大部分が馬をつけずに走っていた。ガスの燃焼によって膨張した空気によってエンジンを動かすという、目に見えない原動力で動いていた。これがつまり、輸送手段に応用されたルノワールの動力というものだった。」
2020-05-21 21:31:27「この1859年に発明された動力の第一の長所は、ボイラーや炉や石炭を使わないですむところにあった。必要なのは少量の照明用のガスだけで、これを空気と混ぜ合わせたものをピストンの下に送り込み、電気の火花で点火させて動力を生むのである。」
2020-05-21 21:32:58「あちこちの車の停留所に設けられたガス栓から必要な炭化水素が供給されていた。しかも、新たな改良によって、昔はエンジンのシリンダーを冷却するのに使用された水を使わなくてすむことになった」
2020-05-21 21:33:52「従って、このエンジンは仕組みも簡単で扱いやすい。運転者は座席に座ってハンドルを操作する。ペダルは足元にあり、これを使って車の速度を即座に変えることができる。」
2020-05-21 21:34:42「このようなエンジンの馬力によって走る車の一日にかかる費用は、馬を使う場合の八分の一に過ぎなかった。ガスの消費は、確実な方法で制御されていたから、車一台に必要な有効エネルギーを計算することができ、従って、運輸会社は昔のように業者にだまされることがなくなった。」
2020-05-21 21:36:12(中略)「このルノワール方式にはまた、車を休ませている間はガスを少しも消費しないという長所があった。これに比べると、蒸気機関では消費を節約することは不可能だった。蒸気機関車は休止中も燃料を食ったからである」(引用終わり)
2020-05-21 21:37:40ここらへん、車の操作方法までピタリと当てているので「後世に書き足されたのか?」なんてことも思ってしまうレベルではあります。実際この「20世紀のパリ」はヴェルヌが書いたは良いものの、お蔵入りになっていた作品で、100年以上経過して金庫の中から発見されたという作品でもあります。
2020-05-21 21:39:25引用した部分からも分かる通り、ヴェルヌはスチームパンクの人と見られることが多いですが、実態はまったくスチーム推しではありません。ノーチラス号も電気だし。20世紀のパリでは内燃機関すごいぜ!という描き方。
2020-05-21 21:41:28ちなみに、ガソリンエンジンができたのはこの作品の後(1876)なんですね。なんと、10年以上後。ヴェルヌの描写では「炭化水素のガス」という書き方をしているので、この時代にガソリンの原型のガス動力の機関があって、それを参考にしたっぽい。
2020-05-21 21:43:49有名な話なんですが、実はガソリンエンジン自動車より電気自動車の方が普及は早かったんです。バッテリーが重いんですが(鉛蓄電池をそのまま使っているので)NYではバッテリーを都度交換するタイプの車が運用されていたと。
2020-05-21 21:47:16ただ、航続距離に難があるのと、原油精製が当たってガソリンが安く手に入ったことにより、我々の文明はガソリン中心に発達しましたが……
2020-05-21 21:48:09ガソリンは地面から湧いてくる石油から大量に作れるので普及しましたけれど、じゃあ初期の内燃機関はどうやって使われることを考えていたかというと、アルコールなんですね。もし何らかの理由で石油が発見されなかったら我々酵母で作ったエタノールや木の乾留で作ったメタノールで戦ってたかも。
2020-05-21 21:51:00なので、車のエンジンにアルコールを入れても一応動作はする……のですが、燃焼が変わるので排ガス的にはあまりよくない(でも混ぜ込んだやつは売られている)
2020-05-21 21:51:36ジュール・ヴェルヌの「20世紀のパリ」私はとても好きなんですけれど、面白いか?人に薦められるか?というと非常に返事に困る作品でもあります。「気球に乗って五週間」で一発当てたヴェルヌが次回作としてこれを持ってきた所、編集に止められてお蔵入りになった……のも頷ける感じではあります。
2020-05-21 21:54:42何が問題かって、とにかく暗いんです。科学が全てを支配する20世紀のパリ。人々は高度なテクノロジーに酔いしれ空前絶後の黄金期を楽しんでいた。しかし、この世界では文学や芸術というものは「役に立たないもの」として捨てられてしまっているのだ。その世界で文学を愛する主人公ミシェルは……という
2020-05-21 21:56:57主人公は昔ながらの文学や愛こそが素晴らしいと信じて生きるのだけれど、高度に発達した文明社会でそれが報われることはない。仕事を失い、収入も失い、大寒波の中パリをさまようミシェル。と、なんとそこで終わってしまう。主人公敗北エンド。
2020-05-21 21:58:30@R_Tachigawa 最後のパンではなく花を買うシーンがまた良いんですよね、20世紀のパリ。やはり当時の技術礼賛信仰とは一線を画す「抑圧されるヒト・モノへの眼差し」の原点が描かれている気がします。
2020-05-21 21:59:43ただ、最終的に「石炭で作ったパン」を買うのを諦めて恋人のために花を買うシーンは、文明に対するせめてもの抵抗って感じですし、すごい良いんですよね。
2020-05-21 22:01:46てか、今気がついたけれど、「20世紀のパリ」の最終章が「塵に帰りなさい。あなたは塵から生まれたのだから(エト・イン・プルヴェルム・レヴェルテリス)」なのめちゃくちゃパンクだな。
2020-05-21 22:04:50