誤った知見に基づいて検査の要否を語るのは、防疫の面でも臨床の面でも有害無益であり、科学の徒を自認する者ならば、慎むべき #PCR検査 #新型コロナウイルス (2020.6.5作成)

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suna @sunasaji

日本では、PCR検査は感度が低い、CTの方が感度が高い、といった言説も良く見られます。しかし論文をよく読むと、PCR以外の検査感度はたいていPCRの陽性者を分母にしています。言い換えれば、PCRの感度を100%としたときの相対的な感度になっているのです。

2020-06-02 10:02:30
suna @sunasaji

たとえばこちらではCT感度94%PCR感度89%と報告されていますが、RT-PCR as reference standard、つまりRT-PCRで1回は陽性となった人を分母にしています。ちなみに有病率が10%以下の国では陽性的中率はCTよりPCRの方が10倍以上高いだろうと言っており陰性的中率は99%以上です。 pubs.rsna.org/doi/10.1148/ra…

2020-06-02 10:03:39
suna @sunasaji

こちらは51名のCOVID-19患者の初回の検査感度はCT98%、PCR71%だと言っていますが、RT-PCR remains the standard of referenceとも言っています。つまりPCR陰性の3割もどこかでPCR陽性となっています。結論は、CTの使用、特に「PCR陰性者」への適用を支持すると言っています。 pubs.rsna.org/doi/full/10.11…

2020-06-02 10:04:27
suna @sunasaji

pubs.rsna.org/doi/10.1148/ra… こちらの論文でも、based on positive RT-PCR resultsという文言があり、1014名中601名がPCR陽性でそのうち580人がCT陽性だったため、感度は97%だと言っています。ただし60%-93%は初期にPCR陰性でもCT陽性だったとも言っており、見逃しを減らすためにはCTも使えます。

2020-06-02 10:05:18
suna @sunasaji

結局、PCR検査の感度は、検査のタイミングの影響も受けますし一律に同じ値にはならないですが、70%程あると考えて良いと思います。日本で喧伝されていた30-50%や30-60%等の値はデマと見た方が良いでしょう。3月に @iina_kobe さんが検証して下さっています。 twitter.com/iina_kobe/stat…

2020-06-02 10:06:36
suna @sunasaji

結論として、PCR検査の特異度は100%に近い高い値で、感度も定義上100%になります。 仮に5月のNZの陽性者が全例偽陽性であったとしても特異度99.97%、1回だけ検査したとしても感度70%はあると見てもよいでしょう。実際には全例偽陽性ではなく、複数回検査するでしょうから更に高い値となるでしょう。

2020-06-02 10:07:28
suna @sunasaji

ところで、特異度と感度が高い検査でも、有病率が低い場合は結果が必ずしも信頼できない場合があります。これについて数値を変えつつ見てみることにします。 日本では疑似症数も不明で市中感染率の推測も難しいですが、まずは4月の東京の抗体検査の0.6%を使うことにします。 keisan.casio.jp/exec/user/1347… pic.twitter.com/mQjxYOvfcz

2020-06-02 10:09:08
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suna @sunasaji

まず、一時期言われていた感度40%、特異度90%とすると、有病率0.6%では、陽性的中率2.4%、陰性的中率99.6%となります。検査対象の1割程が陽性となりますが、陽性者の97%が偽陽性ということになり、この仮定では偽陽性が大量に発生してほとんどの陽性者を無意味に隔離することになります。

2020-06-02 10:13:16
suna @sunasaji

つぎにコロナ専門家有志の会の資料の値を参考に、感度70%、特異度99%を仮定すると、有病率0.6%では、陽性的中率29.7%、陰性的中率99.8%となり、陽性者1.4%のうち7割も偽陽性が出ます。ただし数値のネタ元は神奈川県医師会のサイトで、学術的に根拠のあるものではありません。 note.stopcovid19.jp/n/n39ce45e14481 pic.twitter.com/DLwVSlFX7z

2020-06-02 10:17:13
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suna @sunasaji

ではニュージーランドの検査の陽性者が全て偽陽性としたときの控えめな見積り値である99.97%を特異度として、感度70%有病率0.6%とするとどうでしょうか。 陽性的中率は93.4%、陰性的中率は99.8%となります。偽陽性は陽性者の7%にまで下がります。検査陽性率は0.42%、偽陽性率は0.03%となります。

2020-06-02 10:21:13

⬆ 数値訂正
検査陽性率は、検査対象全体に対する、真の陽性と偽陽性を合わせた率 0.45%
(=0.420%+0.0298%)

suna @sunasaji

このとき、検査対象の0.18%が偽陰性となります。 偽陰性者が動き回って感染拡大させるから検査するべきではないという言説もあります。しかしそれは、検査せずに有症者の10割が動き回って感染拡大する場合と比べるべきです。感度分の7割を発見し隔離したほうが、感染拡大は抑えられます。

2020-06-02 10:35:24
suna @sunasaji

また、ある患者がCOVID-19陽性である可能性は、検査前が0.6%であるのに対して、検査陽性者では93.4%、検査陰性者では0.2%になります。見逃しは0%ではないので警戒しなくて良いことにはなりませんが、全員を感染者として扱うよりは、はるかに合理的な感染対策ができるのではないでしょうか。

2020-06-02 10:36:28
suna @sunasaji

検査してもしなくても全員を陽性者として警戒すれば良いといった言説も見かけますが、残念ながら日本ではN95マスクや防護服すら不足している状況でもあり、全員を個室隔離できるわけでもありません。目に見えないウイルスを見つける有力な手段を放棄して、医療資源を浪費して良い状況ではないのです。

2020-06-02 10:37:26
suna @sunasaji

なお、感染研の検体採取・輸送マニュアルでは、基本的に下気道と鼻咽頭ぬぐい液の複数検体を採取することになっているので、感度は更に上がると考えられます。 niid.go.jp/niid/ja/diseas…

2020-06-02 10:38:27
suna @sunasaji

以上より、実績値を元に検討しても市中感染率が低い状況でもPCRの活用は有用であることがわかります。それでも完璧ではありませんが、なにごともコストに対して得られるメリットを比較検討する必要があります。限られた医療資源で感染拡大を抑えるために、PCRは使えるに越したことはないのです。

2020-06-02 10:39:37
suna @sunasaji

PCRの感度特異度が100%でないという言い方をする人もいますが、それはそもそもどんな検査でもそうです。それでも敢えてPCR検査の感度特異度を批判したいならば、PCRよりも簡便で感度特異度も高い検査を見つけてからにすれば良いと思います。世界中で使われるでしょうし、ノーベル賞も取れるでしょう。

2020-06-02 10:41:14
suna @sunasaji

さて、PCRは原理的にも定義的にも実用的にも特異度や感度が高いことがわかりましたが、これは昨日今日はじまったことではないのです。PCR法は1983年に発明されて以来、生物学や医学では欠かせない技術でした。しかし日本では専門家からも正確でない情報発信が相次ぎ、活用が遅れたことは残念です。

2020-06-02 10:42:37
suna @sunasaji

最も、基本的な原理を知らなかったり、知っていても実際の数値を知らなかったり、英語や論文が読めなかったりするのは、専門家に限った話ではありません。あえて言うならば日本でそういったことが重視されてこなかったことが問題なのであって、誰かを責めれば解決する話ではないと思います。

2020-06-02 10:43:42
suna @sunasaji

ただ、私も含めて誰もが過ちをおかすもので、無謬性を標榜することほど大きな過ちはありません。それは政府や専門家であってもそうです。ただし良心または責任感があるならば、その時点での知見に基づいて過去の過ちを訂正し、より正しい情報発信をすることは、信頼の基礎となるものだと思います。

2020-06-02 10:45:12
suna @sunasaji

つまり、この期に及んでPCRの特異度が99%であるとか、PCR検査は特異度感度に問題があるため偽陽性偽陰性が大量に出るなどの、誤った知見に基づいて検査の要否を語るのは、防疫の面でも臨床の面でも有害無益としかいいようがなく、科学の徒を自認する者ならば、慎むべきです。

2020-06-02 10:48:42
suna @sunasaji

スまとめにも、まとめていただきました。ありがとうございます。 twitter.com/matomesu/statu…

2020-06-03 19:11:31
すまとめ @matomesu

@aula531 こんにちは!sunaさんの「日本では、PCR検査は精度が低く、高確率で偽陽性偽陰性が発生...」に関するスレッドまとめを作成しました。 sumatome.com/su/12676164229…

2020-06-03 00:48:19
リンク sumatome.com 「日本では、PCR検査は精度が低く、高確率で偽陽性偽陰性が発生...」、@sunasaji さんからのスレッド - まとめbotのすまとめ sunaさんから「日本では、PCR検査は精度が低く、高確率で偽陽性偽陰性が発生する、と盛んに喧伝されています。しかし実際は、PCR検査は特異度が非常に高く、感度も高い検査です。それはなぜか、原理から説明してみることにします。 PCR法とは、あるDNAに特異的に反応するプライマーと... 1
suna @sunasaji

なお、こちらのツイートで、検査陽性率を0.42%と言っていますが、正しくは偽陽性率の0.0298%を加えた0.45%が正しいです。すみません。ご指摘ありがとうございます。 twitter.com/yorozuya_2020/…

2020-06-03 19:12:20
源兵衛 @yorozuya_2020

@sunasaji いつも有益な情報と解析をありがとうございます。 もしかしたら、なのですが 検査陽性率は、検査対象全体に対する、真の陽性と偽陽性を合わせた率としますと 0.45%となりましょうか? (=0.420%+0.0298%)

2020-06-02 23:09:13
suna @sunasaji

PCR検査に関するよくある誤解についての解説は、こちらに続きます。 ・死んだウイルスで偽陽性? ・全員検査で感染拡大? ・日本にはCTがあるから効率良く陽性者が見つかっている? ・スクリーニングにPCRは使えない? twitter.com/sunasaji/statu…

2020-06-03 20:03:50
suna @sunasaji

さて、これまでのスレッドで、PCR検査の感度特異度は十分高く、理論的にも実績上も有用であり、精度を口実にPCR検査抑制を主張するのは妥当ではないことを説明しました。 引き続き、PCRに関するよくある誤解について解説していきます。 twitter.com/sunasaji/statu…

2020-06-03 19:14:20