剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話6(#えるどれ)

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まとめ 【目次】エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話(#えるどれ) 人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる家系があるといいよね。 という大長編ヨタ話の目次です。 Wikiを作ってもらいました! https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 21781 pv 167 2 users

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まとめ 剣と魔法の世界で奇祭「風雲あざらし祭り」が行われる話5(#えるどれ) ミチビキボシ。出すとすぐ暴走するからな。 3796 pv 4

以下本編

帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ この物語はエルフの女奴隷が解放されて騎士となり復讐を遂げるヒロイックファンタジー #えるどれ 奴隷時代のまとめは以下からどうぞ togetter.com/li/1479531

2020-05-31 20:00:10
帽子男 @alkali_acid

さて今の舞台はエルフとはあまり関係なく、古(いにしえ)の歌姫・白銀后を崇める邪教「白銀后親衛隊」が海辺の街で執り行う奇祭「風雲あざらし祭り」。 祭りの二日目は無事終了。 ちょっとした事故として、夜に親衛隊の一派である燃波(モエルナミ)派の花火打ち上げ船が転覆したが。

2020-05-31 20:03:04
帽子男 @alkali_acid

なぜか全員岸に打ち上げられて無事だった。 陸で待っていた仲間はもちろん、いつもは本尊の白銀后をめぐる解釈で対立する親衛隊のほかの派の面々も無事を讃え、祝った。 「いや船が沈んでも君らが助かったのは不幸中の幸いだ」 「それに危険を冒すだけの価値はあったな!」

2020-05-31 20:05:53
帽子男 @alkali_acid

「本当に今回の"灼熱紅蓮あざらし爆発四散大花火"は過去にない華々しさだった」 「途中から花火っていうか雷?みたいだったし」 「水平線が全部稲妻みたいな光で埋め尽くされたときはもうこの世の終わりかって感じで」 「いったいどんな花火を使ったんだ?」

2020-05-31 20:08:05
帽子男 @alkali_acid

しかし打ち上げ船に乗り組んだ燃波派は、頭領である花火師のゲンゼド、通称ゲンさんをはじめ、全員がぼんやりした表情だった。 「海を…機関車が…爆走して」 「俺達はそれに乗ったんだ…」 「やどかりから亀、亀から空飛ぶ轆轤(ろくろ)に変身する怪物がいた…」

2020-05-31 20:11:05
帽子男 @alkali_acid

強烈な信仰体験をしたものにありがちな要領の得ない返答を繰り返す。 陸で待っていた連中は、どうも今はあまり刺激しない方がよさそうだと、実行委員会の救護班を待つことにした。だが一人がはっとなってまた口を開く。 「白銀侍女は?クレノニジちゃんはどこだ?」 「そうだ…まさか…」

2020-05-31 20:12:36
帽子男 @alkali_acid

ゲンさんはおもむろに便箋を差し出す。やや古風だが流麗な筆跡で書き置きがしてある。 岸辺の男女は明かりを手に一斉に集まった。 「明日の準備があるので宿に戻ります…か…華奢そうなのに強健だなあ!」 「字も綺麗だ!さすが白銀后の側仕え!」 「学問の都にいた女学生だって聞いたぞ」

2020-05-31 20:16:43
帽子男 @alkali_acid

わいわいと一同が賑やかに語らうなか、また別の誰かが我に返って呼びかける。 「みんな。これ以上岸辺で騒ぐのは危険だ。イルカが襲ってくるかもしれないからな」 「そうだった…徹夜組のようにイルカに食われてしまう」 「イルカは避けねば…」 ぞろぞろと白銀后親衛隊は退却していく。

2020-05-31 20:19:02
帽子男 @alkali_acid

人気の絶えた浜に、しばらくして杖をついた媼(おうな)がやってくる。 「くるぞええ…くるぞええ…怪物どもが群をなしてくるぞええ…なんじゃ…誰もおらんではないか…つまらんわい…」 ぶつぶつと独り言ちたきり、すぐ寂しげに引き上げていくのだった。

2020-05-31 20:20:37
帽子男 @alkali_acid

さて所は変わって、海辺の街の、あまり目立たないが上等な宿の続き部屋。 油洋燈の明かりが作り出す陰影のもとで、頭巾をまぶかにかぶった暗い肌の少年が、枕を抱えたまま寝台の上で縮こまっていた。 目の前には焦茶の肌をした丈の高い女が立っている。

2020-05-31 20:24:24
帽子男 @alkali_acid

巻布をかぶり、ゆったりした洋袴を履き、はるか南方にある暑き香料の地の武人の如きいでたちだ。双眸も鋭い。 「派手に暴れたようだな」 ぼそりと呟いた言葉はしかし、この海辺の街が位置する世界の北西に住む人々が話す西方語のひとつ。戦斧の共和国の共通語だ。

2020-05-31 20:29:30
帽子男 @alkali_acid

「なにも…なかったです」 ぼそぼそと少年は返事をする。女はにこりともしない。 「財団の監視は節穴ではないぞ」 「…ちょっと…と、通り雨が」 「私が受け取った報告では、この湾の内外の気圧が急変し、雷が雨のように降り注ぐのも見えたと」

2020-05-31 20:33:26
帽子男 @alkali_acid

「よく…わからない…です」 「さらに雷が降る範囲は次第に広がりつつあったが、五つ半前後を境に消失した…とな」 「…はえ」 「方位磁石や機械類にも甚大な影響が出た。街の電信施設にも」 「…えっと…えー…ねても…いいですか」 「話すつもりはないと」

2020-05-31 20:38:43
帽子男 @alkali_acid

頭巾の子は枕を抱いたままいっそう小さくなる。女は腕組みをしたまま目を細めた。 「“遺物”だな」 「…えう…」 「我々財団が人類にとっての脅威と見なして確保、収容、防護する超常の存在、遺物と遭遇した」 「うぇぅ…」

2020-05-31 20:42:25
帽子男 @alkali_acid

「そして同じく遺物であるお前、黒の乗り手の持つあのでたらめな、"魔法"とやらで強引に出くわした遺物を収容…ないし無力化した」 「…ひとちがい…です」 少年がぼそぼそと答えると、武人は片眉を上げ、腕を解いて後ろに組み、ゆるやかに寝台の横を歩く。 「…そうか」

2020-05-31 20:44:57
帽子男 @alkali_acid

「はえ」 「財団は…遺物の収容を責務としているが、あくまで人間を中心にした組織だ。遺物はことごとく、人間に関係し、干渉する存在として扱っている…遺物同士が人間を無視して絶え間なく理解を超えた闘争を続ける世界は想定していない」

2020-05-31 20:47:48
帽子男 @alkali_acid

「あの…ただの…通り雨…」 「相争う遺物が、せめて…人間を駒として操るとか、餌食にするとか、何らかの形で興味や関心を示さなければ、財団は観測も介入も困難となり、存在価値すら危ぶまれる」 「ごめんなさ…」 「…が、あざらし祭りの開催は守られた。今はそこが最も重要だな」

2020-05-31 20:51:15
帽子男 @alkali_acid

人類を超常の脅威、遺物から守る秘密結社「財団」の最高戦力、機動部隊「終端の騎士団」の第五番、潜水艦長ナモはそうまとめた。 財団が追う遺物のうち最も危険な「王冠」と分類を受ける「黒の乗り手」ウィストはぽかんと口を開けるしかない。

2020-05-31 21:00:23
帽子男 @alkali_acid

「今日は白銀侍女の代役としてよく激務をこなした。歌唱は満点と言っていい」 潜水艦長ナモ、しかしてもう一つの顔は白銀后親衛隊共和国海外県第十七支部に属する血旋派のダカーラは、白銀侍女代理を務めた少年に力強く頷きかけた。 「声量も上がっていた。舞踏と演技は課題だが…」

2020-05-31 21:04:54
帽子男 @alkali_acid

「はえ…」 「歌唱の際、決め仕草が一つあるだけでかなり補えるだろう」 「決め仕草…」 「そうだ。例えば白銀侍女クレノニジの常に帰りたそうな表情から不意に見せる輝かしい笑顔と…志を同じくするほかの隊員への愛嬌…そういうものが一瞬で表現できれば…お前はさらに化ける」 「え…」

2020-05-31 21:06:43
帽子男 @alkali_acid

「疲れているところ悪いが…案をいくつかまとめておいた」 ダカーラは画帳を取り出して、すっと寝台のそばの側机の上に置く。 「余裕があるなら目を通しておいてくれ。私が侍女に選ばれた際に使おうと思ったものもあるが…もし生かしてもらえれば…これほどの誉れはない…では…明日も期待している」

2020-05-31 21:09:14
帽子男 @alkali_acid

言うだけ言って、さっそうと立ち去る武人を見送ってから、小柄な旅人はぶるっと肩を震わせ、やがて恐る恐る画帳を開いた。 貝殻と珊瑚のほとんど紐のような水着をまとった少女が、正確な筆致で描き取ってあり、決め仕草の候補と思しき表情や手の動きが幾つか解りやすく図示してあった。

2020-05-31 21:11:11
帽子男 @alkali_acid

「なん…」 ウィストは絶句し、首をやや後ろに引き、半分目をつぶって恐る恐る次へ次へと画用紙をめくっていく。 「うう…」 腰をひねり、両腕を高く上げてから、力瘤を作る姿勢。 あるいは両の拳を臍の下あたりでくっつけるようにしながら、前屈みになって肩の筋肉を盛り上げる姿勢。

2020-05-31 21:13:45
帽子男 @alkali_acid

いずれも鍛えぬいた潜水艦長の恵体だからこそ繰り出せる雄大な決め仕草だ。 「むり…」 さらにめくっていくと、ひょろひょろちんくしゃでもできそうな無難なものもあって安堵する。ほっと息を吐いてから、不意に瞬きする。 「いや、しない…」

2020-05-31 21:15:44
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