ストレイトロード：ルート140（49周目）
-
Rista_Bakeya
- 880
- 0
- 0
- 0
-
- いいね！0
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
整列したカートが合図を受けて一斉に走り出した。藍は発進直後から果敢に攻めている。熾烈な先頭争いを観客席で追っていたら、泣きながら叫ぶ人に気づいた。「お願い、最後までちゃんと走って」車体に不安でもあるのだろうか。「予選通ってくれたら、実績できたら飽きてもいいから」親の苦労も様々だ。
2020-05-24 18:50:09
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
貰った本を暇潰しに開いたら落丁を見つけた。難解な文体の自慢話が急に不自然な文章になったから驚いた。「その本面白い？」ドレスに着替えた藍が私の手元を覗いてきた。内容を簡潔に説明して不備の件も伝えると、旨い話を拾った顔をされた。「その人にもう一度会いたかったの、いい口実をありがとう」
2020-05-25 19:34:12
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
体調不良の原因は怪物の毒よりむしろ過労らしい。医師から暫しの療養を勧められ、次の旅先は決まった。問題は休むべき私が自ら運転しなければならないことか。「わたしがそんな無茶言うと思った？」藍は実家の使用人を呼びつけていた。車の鍵を受け取った彼が笑った。「お嬢様こそ休むべき？同感です」
2020-05-26 18:48:38
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「これのどこが前と同じ？」久々に訪れた喫茶店の変わりように藍は驚き呆れた。ビルの二階なのは同じ、床も椅子も見覚えあるものだが、天井と壁がほぼなかった。「どうしても店を続けたかったんだ」上階が吹き飛ばされた建物を守ったと店主は胸を張るが。「でもルーフトップと呼ぶのは無理あるでしょ」
2020-05-27 19:39:48
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
ただ道を訊くはずだった。藍に話しかけられた男は怯えた様子で空き缶を投げつけ、すぐ逃げた。幸い当たらなかったが、中に溜まった水が私の顔にかかった。「あの人知ってる」私が顔を拭う間に藍が言った。「何かのパーティーで会った」今の身なりと結びつかない。零落した姿を見られたくなかったのか。
2020-05-28 19:15:19
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
病院の建物には修復の跡が目立つ。近くの街の鐘楼を怪物が崩した話を聞いたので、ここに何が起きたかも想像がつく。「でも庭は昔のままよ」藍がひと暴れしたら倒れそうな老木をわざわざ残した理由は何か。車に戻ってから振り向いた時ようやく理解した。宝物を守る巨大な竜の姿が私の目にも一瞬見えた。
2020-05-29 18:47:33
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「脇役でもいい、お前の舞台に立たせてくれ」スターに負けた役者の懇願ではない。怪物を狩り損ねた猟師は余程諦めきれないのだろう、遂に藍の前で頭を下げた。「で？」自分の技術と経験なら勝てると断言し、私達の妨害までしていた相手だ。藍の目は冷たい。「わたしの舞台で踊るって意味わかってる？」
2020-05-30 19:20:21
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
強い風が屋根を揺らす音に人々は身を竦めた。窓の外には暗澹たる雲行きしか見えない。何人かが手を合わせ決まり文句を呟く中、藍は自信満々に山の方向を指した。「風があっちから来てることくらいわかるでしょ？」相槌を打てたのは私だけだった。「あの辺には何もない。暴れる子も雷も。だから大丈夫」
2020-05-31 19:22:13
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
空路を怪物に奪われた人類が次に向かう開拓地は深海、との話は一時期よく聞いた。通りかかった港に積まれた物体が引き上げられた船の残骸と知り、かつて出会った誰かの荒唐無稽な夢を思い出した。「宝の山があるからいずれ開発競争になるはずだと」「海賊じゃなくて科学者の話？」藍が何故か落胆した。
2020-06-01 18:55:13
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、2446。深海。 提供: @raaaaaaaaaaaa14 空を飛ぶのとはまた違う、厳しい世界。
2020-06-01 18:55:14
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
今やどこにも繋がらないトンネルに無数の水槽が並ぶ。その昔、地上に降り立った怪物がビル群をなぎ倒す間、人々はここに身を潜めていたという。「そんな場所を水族館に？」藍が水槽を覗くと、水中に沈んでいるダクトの部品からウツボが顔を出した。ただ崩れ落ちた物を放置したわけではなかったらしい。
2020-06-02 19:12:42
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
「宇宙から来たものだったらどうするの」遠い昔に打ち上げられた探査衛星の話を、藍は流れるように語ってみせた。未知の文明へメッセージを送ったのは人類だけとは限らない。今も地球は調べられているかもしれない。「鑑定させて。もし本物なら追加で払う」根負けした業者は謎の金属部品を藍に売った。
2020-06-03 18:48:27
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、2448。探査衛星。 提供: @middlechronica 新しく打ち上げるのが難しい世界でも、過去の成功は伝えられている。
2020-06-03 18:48:27
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
部下が持ってきた新しい事業スキーム、との説明だけで藍は重要性など理解できないだろう。だが父親の仕事の邪魔とは悟ったのか、静かに資料を返すと出ていった。「娘には寂しい思いをさせているだろうね」ビデオ会議に臨む横顔にこそ親の本音がにじむ。「あればかりは綿密な計画も役に立たない問題だ」
2020-06-04 18:49:45
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
140文字で描く練習、2449。スキーム。 提供: @Ku_373 指定が「（カタカナ語としての）スキーム」だった。目標に向けて具体的な構想や計画を練ることを指すビジネス用語、として使うことを意識……縁のない藍ちゃんとの結びつけ方に悩み、結局こうなりました。
2020-06-04 18:49:45
Rista(化屋月華堂)
@Rista_Bakeya
車の冷房の調子が悪い。だが次の目的地までに直せる見込みはない。協議の末、移動中の暑さ対策は各自でと決めた。「大丈夫ってさっき言ってたけど、汗まみれじゃない」私が首に巻いたタオルが入れ替える間もなく乾いていく一方、藍は小型の扇風機を自分に向け続けていた。魔女の力は温存したいらしい。
2020-06-05 18:46:33