『富士総合火力演習反省会』 ぷりめ文書

富士総合火力演習で自衛隊が的に負けたことから始まる混乱の話です。
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@ぷりめ @prime46502218

富士総合火力演習で自衛隊側が敗北するという前代未聞の事態に、防衛省は衝撃に包まれた。そのショックは三矢研究事件や三島事件、ベレンコ中尉亡命事件を超えた。中継を見ていた職員たちはざわめき、本当に負けたのか、ここから盛り返す筋書きじゃないのかとわが目を疑った。しかし、反撃はなかった。

2020-05-23 12:23:14
@ぷりめ @prime46502218

混乱する官僚や高級幹部たちのもとに、首相官邸で中継を見ていた防衛大臣がやってきて、「まさか負けたの、これ?」と首相が確認してきたといい、疑惑はパニックに変った。大至急、原因究明と再発防止に向けた調査委員会が設置され、大臣自らその委員長に任じられた。事態はかくも重大であったのである

2020-05-23 12:27:13
@ぷりめ @prime46502218

調査は急がれた。さいわい、マスコミも野党も市民団体も、自衛隊が的に負けたことにまだ気づいてなかった。軍事に疎かったのである。しかし軍事専門誌やミリクラは騒然とし、1945年8月15日以来の事態に沸き、早くも祭りと化していた。厄介な連中がかぎつけるのは時間の問題だった。

2020-05-23 12:30:20
@ぷりめ @prime46502218

委員会は関係者から聞き取り調査を始めた。現場の隊員は訓練通りに働いただけだとすぐわかった。ならば運用が不味かったのか。しかし、運用側にも落ち度はなかった。運用幹部たちも本省や幕僚監部と策定した計画通りに事を進めていた。ならば、必然的に計画が不味かったことになる。

2020-05-23 12:34:45
@ぷりめ @prime46502218

計画の手順は何度か変更されていた。一つ一つは些細な点だが、全体を通してみるとかなり変わっており、もし伝達ミスなどがあれば、たしかに軍事的にまずい結果を引き起こしかねなかった。委員会は計画段階での連絡ミスの可能性に絞って調査したが、計画立案を担当した幕僚は憤然と抗議した。

2020-05-23 12:38:24
@ぷりめ @prime46502218

幕僚は、自分は防衛省の担当者、萩原陸将に書面とメールで何度も相談し、指示を仰いだ。最終計画案も書面とメールで送って裁可を得た、と言った。 しかし、萩原陸将は知らないといった。連絡は来たり来なかったりで稚拙極まりなかったと。 調査委員会の場は言った言わないの水掛け論になった。

2020-05-23 12:42:08
@ぷりめ @prime46502218

そのとき、気まずげに立ち上がる者があった。荻原陸将であった。

2020-05-23 12:43:37
@ぷりめ @prime46502218

調査の結果、幕僚を含む計画立案責任者や現場担当者、さらに一部の事務方の防衛省職員までが、萩原陸将と荻原陸将を混同しており、指示を求める書類やメールはその時々によってあっちに行ったりこっちに行ったりしていたと分かった。防衛大臣訓示の送り先が間違えられたことも二度あった。

2020-05-23 12:47:30
@ぷりめ @prime46502218

まずいことに、二人の陸将はどちらも陸幕監部所属、年齢も同じ、経歴もほぼ同じ、出身地は横浜市、さらに角刈りに丸顔にメガネに口ひげと容姿も瓜二つだったのである。 省内の半数近くがメガネに口ひげの陸将は一人だけだと思っていたのだ。もう一方に会うと今日は雰囲気違うなと思っていたのである。

2020-05-23 12:54:39
@ぷりめ @prime46502218

調査委員会の会議室は、お通夜のような雰囲気に包まれた。完全に防衛省側の落ち度である。しかも絵にならない落ち度である。防衛大臣が辞任したくらいでは収まらないかもしれない。関係者全員の進退が危うい。 そのとき、幕僚が言った。再発防止策を素人目にわかるほど徹底すれば、あるいは、と。

2020-05-23 13:00:01
@ぷりめ @prime46502218

関係者はわらにもすがる思いでこれを容れた。自衛隊内で紛らわしいものを洗い出すのだ。 さっそく全国で隊員名簿を調べさせたところ、自衛隊が思いのほかそっくりさんの巣窟であると判明した。ある駐屯地には佐藤が6人、鈴木が8人いた。いっそ全員佐藤なら間違わないのにと大臣が呟いた。

2020-05-23 13:04:40
@ぷりめ @prime46502218

委員会は佐藤たちと鈴木たちを区別することにした。しかし、区別するといってもどうするのか。いきなり大臣命令で改名しろと言ったら、それこそ人権問題になる。 その時、委員の一人だった防衛大学の歴史学の教授が提案した。官位を贈ればいい。江戸時代まであった左馬之助とかいうあれである。

2020-05-23 13:11:39
@ぷりめ @prime46502218

委員会の者が法律を調べたところ、官位を与えるのは憲法14条にひっかかるといった。華族その他の貴族の制度は、これを認めないのである。教授は百官名ならどうだ、その辺の侍が子分に勝手にやっていた偽官位である。名誉はとくにないといった。法律担当者は、行けるかもしれない、と言った。

2020-05-23 13:16:13
@ぷりめ @prime46502218

かくして、全国の駐屯地に佐藤戦車守、鈴木ヘリ佐などの隊員があふれかえった。彼らは人に会うと官職名まで名乗った。紛らわしいからである。教授はまさか自分が生きて武人が堂々官職を名乗る時代を見ることになろうとは滂沱の涙を流した。 このことが国会で問題となり、内閣は総辞職した(了

2020-05-23 13:21:32
@ぷりめ @prime46502218

百官名のところ間違えました。正しくは東百官です。

2020-05-23 13:29:28
@ぷりめ @prime46502218

ある方から「荻原陸将が一番かわいそう」との感想をいただいて、その通りだなと思いました。

2020-05-23 14:23:15