ベートーヴェンのピアノ曲分析

ベートーヴェンの生誕250周年記念に、ベートーヴェンのピアノ曲を弾いてみての感想・分析。
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Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

今年はベートーヴェン生誕250周年なのでピアノソナタ全32曲を弾いてみようと思い立ち、取り敢えずOp.2の3曲を弾いてみた。後に彼が発展させるネタやアイディアをあれこれ詰め込んで力技でまとめ上げられている。後年の彼はここからネタを選んで精練させる方向に進むことになる。

2020-01-26 17:20:50
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンOp.10の3つのピアノソナタは、Op.2やOp.7と比べると、ネタを絞った引き締まった構造になっている。主題間、楽章間の曲調のコントラストを上げながら、推移のしなやかさもあり、バランスもいい。

2020-02-11 00:36:53
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタ『悲愴』Op.13は、基本的にOp.10で確立したスタイルを踏襲しているが、大規模な序奏を付けて早くも崩しに入っている。後年のベートーヴェンに特徴的な減七和音の劇的使用も目立ってきたが、まだ初期の滑らかな和声や転調と共存している。

2020-02-16 00:40:29
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンOp.14の2つのピアノソナタは両曲とも、第1楽章のソナタ形式、第3楽章のロンド形式が標準的に整っている感じだ。晩年『大フーガ』でも使われる三連符とシンコペーションの組み合わせは、Op.14, No.1の第3楽章がベートーヴェン初出だろうか。

2020-02-22 22:33:17
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのピアノソナタOp.22は、大枠で劇的な表現の開発に進んだ作曲者の自信作であったが、一方で初期の迸る曲想を小回りにねじ込むグリップが緩まるようで、個人的に乗れないところもある。変ロ長調の大ソナタでは『ハンマークラヴィーア』Op.106という上位互換もあるし。

2020-02-24 01:34:57
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

Op.22で正統派ピアノソナタ路線に満足したか行き詰まったかで、その後ベートーヴェンは変わり種ソナタを3曲書いた。Op.26はソナタ形式楽章を欠き、Op.14, No.2でも試した変奏曲、そして行進曲を含む。セクション毎に性格を持たせ、各セクション内での細かい曲想の変化は抑えられる。

2020-02-29 19:55:35
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのピアノソナタOp.27, No.1のスケルツォ的楽章は旋律の断片化により和声的遊戯が際立つ。Op.26やOp.27, No.2のスケルツォ的楽章にも同種の趣向が見られる。

2020-03-01 20:39:58
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの2つのピアノソナタOp.27『幻想曲風ソナタ』の幻想曲風の意味は、動機間の対比や緊張を抑えセクション内で均質の曲想を持たせることだと思う。第2曲ソナタ『月光』の両端楽章は実質ソナタ形式であるが、全体を通して分散和音を維持して統一のムードを作っている(特に第1楽章)。

2020-03-07 23:12:57
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタ『田園』Op.28でベートーヴェンは曲想を細かく推移展開させる伝統的形式に回帰するが、保続バス音や伴奏音形保持などでの長めの曲想の維持および主題の断片化抽象化など作品番号的に先立つ3つの変革的ピアノソナタの特徴も取り入れられている。

2020-03-08 21:33:36
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンのピアノソナタOp.31, No.1の緩徐楽章は彼が決して得意ではないイタリア歌曲風。Op.22と同様に、全曲を長調楽章で固める時に単調性を回避するための方策だろう。両端楽章はピアノの演奏効果を図りつつ主題を高音部と低音部に配したり室内楽的でもある。

2020-03-15 00:55:03
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.31, No.2『テンペスト』は両端楽章が短調で、ベートーヴェンも長調緩徐楽章でOp.2やOp.7の得意なスタイルを心置き無く発展させ得た。第1楽章は分散和音の動機がより抽象化、第3楽章は無窮動で曲想を縛りながら細かいテクスチュアの変化でソナタ形式を構成。

2020-03-15 23:59:16
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェン中期ピアノソナタの緩徐楽章バランス問題、Op.31, No.3は緩徐楽章を省いて代わりにスケルツォとメヌエットの舞踏的楽章を2つ入れて解決。タランテラ舞曲風終楽章を強引にジーグと解釈すればバロック期の組曲風とも言える。

2020-03-21 00:15:28
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンの2つのピアノソナタOp.49は平野流曲順で4楽章ソナタ1曲として弾いてみた。4楽章ソナタOp.7のみならずOp.10の3楽章ソナタとも作曲時期が重なり、締まった構造はOp.10にも近く、4楽章ソナタにまとめるつもりがあったかは微妙な感じだ。 ontomo-mag.com/article/weekly…

2020-03-21 21:37:08
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.53『ヴァルトシュタイン』はOp.31, No.1からピアノ演奏効果に特化して発展した形と言えよう。その目的のため動機が(分散)和音や音階順次進行に単純化された。長い緩徐楽章(『アンダンテ・ファボリ』)も書かれたが、やはりバランスの問題で短めの導入に差し替えられた。

2020-03-22 23:21:17
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

Op.22の後にOp.26やOp.27を書いたように、気張って正統派系ソナタOp.53(緩徐楽章は差し替えられたが)を書いた後ベートーヴェンは変則的なピアノソナタOp.54を書いた。第2楽章のパッセージの音形はOp.26の終楽章と類似する箇所もある。

2020-03-29 01:12:59
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.57『熱情』では、分散和音動機、無窮動等同じ短調のソナタOp.31, No.2での手法がドラマ性の方向に拡張されたと言えよう。同じヘ短調のソナタOp.2, No.1から10年余りでベートーヴェンも随分遠くまで来たものだ。精錬と発展の裏で捨てられた要素もある。

2020-03-30 00:40:54
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.53, 57で追求された抽象的な動機による大枠なドラマ表現・ピアノ演奏効果拡大の路線は、それ以上やれば大味にもなりかねず、ベートーヴェンはピアノソナタとしては4年の空白を置いた後、Op.78で細かく曲想に変化をつけるスタイルを振り返った。

2020-04-10 00:32:48
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ウィーンで活躍したベートーヴェンはドイツ民族色を前面に出すことはあまりなかったが、ピアノソナタOp.79にはドイツ舞曲風味が取り入れられている。

2020-04-11 23:58:17
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.81a『告別』でベートーヴェンは中期の拡大した書式の切り詰めに入り、作曲者自ら標題を付けたもう一つのピアノソナタ『悲愴』の頃の引き締まった書式に回帰した。先立って書かれたピアノ協奏曲Op.73『皇帝』と幾つか素材や曲想を共有し、比較すると切り詰めていった感じが分かる。

2020-04-12 23:44:21
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタではOp.54辺りからベートーヴェンは新しい和声や曲想転換を模索しているところがあるが、ソナタの構成に絡めるのが困難かピアノソナタでのその傾向はOp.90辺りで一段落。その方向は『ディアベリ変奏曲』Op.120やバガテルOp.126に引き継がれることになる。

2020-04-18 23:16:35
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンはピアノソナタOp.101において、中期のドラマ的に拡大した曲想、Op.90までで模索した幻想的曲想を制御するのに、対位法的書法が有効だと気付いた。新しい制御棒を手に入れて、色々なことを試せる喜びに溢れた作品だと思う。

2020-04-20 00:53:33
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ピアノソナタOp.101で手応えを感じたか、ベートーヴェンは次作『ハンマークラヴィーア』Op.106で対位法的書法を全面展開。Op.22やOp.60など変ロ長調は正統派的気負いを持ったときに選ばれる調に思える。長調ソナタ緩徐楽章のバランス問題は、Op.10, No.3的たっぷりとした短調アダージョの拡大で解決。

2020-05-03 23:49:37
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

正統派大作はOp.106でやりきったので、ピアノソナタOp.109では幻想曲風方向に振り切った。第1楽章の主題間、第3楽章の変奏間の曲想の対比はロマン派的に大幅に強調されるが、細部では対位法的書法が睨みを利かしている。ベートーヴェンはJ.S.バッハの『ゴルトベルク変奏曲』を知っていたのだろうか。

2020-05-10 23:47:15
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

Op.101以降対位法的手法をピアノソナタに取り込んできたベートーヴェンは、ピアノソナタOp.110の終楽章においてフーガに正面から取り組むが、終盤ストレッタをかけた後対位法的書法はだんだん壊れていく。構造的縛りを欲しながらも一方でそれを壊していきたい気持ちが端的に表れている。

2020-05-24 00:38:10
Kyo Yoshida / 吉田 恭 @yoshida_kyo

ベートーヴェンは、ピアノソナタ『告別』で中期様式を切り詰めて初期に回帰したように、ピアノソナタOp.111では第1楽章を後期の対位法的書法やロマン派的対比の成果を踏まえつつ初期の形式に納めた。従来の枠組で第2,3楽章が書かれる筈だったが、第2楽章の変奏曲が拡大してしまってそのまま終曲に。

2020-06-07 23:58:07