【残すもの】福間健二 #k2fact261

福間健二 @acasaazul

きのうはかなり混んでいた。きょうはそれほどでもない。線路と平行の、スケボー少年たちがいることもある通り。手紙を読む顔で立ち、考える。出入りは静かだ。憂いに生きる人の、次のフィクションは、鳴る音からで、少ししかないものも人と分けると多くなることがある。（残すもの１）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

事実を選び、背景を選び、色はどうするのかと迷いながら、いつのまにか連絡の糸が切れた向こう側の人が気になる。どうしているだろう。色、できるだけ静かに。じゃましないように。音もいじらない。でも、選んでいる。あるがままという夢を、それ以外ではないそれとして。（残すもの２）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

これ、何が鳴るのか。ぼくという生き物の音。といっても、主に足音と息の音。何をしているかではなく人間性で勝負なのに、それは音にならない。わかりやすく言えてうれしいが、何を終わらせて放りだされたように移動中なのか。高架線の下の青い照明と野菜畑は教えてくれない。（残すもの３）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

見た。言った。考えた。捕まえた。順番を考えることが仕事になる。ひとりごとでも故郷にためらいをもつ人。笑顔でならとくに。産業というほどにはならないが、何人かを立ちどまらせる力はあり、雨のなかで別れたことにしても帰り道の先に待っている。終わった顔はできない。（残すもの４）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

夜、憂いそんなになくても、少しはなれたドアの開いて閉まる音からの、耽美。何の日だ。点に凝る楽しみは中くらいにして行ってみると父がいる。若い。この層でなら、という解釈の必要もなく、いやだと言う。深刻そうなヴィニールも、慎重な、そのうしろの手の動きも。（残すもの５）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

雨の日の混んだ電車。ガタイのいい男が女性や老人を押しのけて座席にすわり、スマホをいじっている。ここにも、そこにも、あそこにも。こういうのは残らなくてもいいよ、と若い父。記憶しきれないほどいろんなものがこの地上に存在して人もいる。それは感謝したいことだけど。（残すもの６）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

残らなくてもいいもの、たくさんある。あるとはもう言えない構造の上から下まで、無関係の連絡を見る目、見ない目、どちらが機能するのかわからなくなって。戦争には行かなかった父。飛行機を作る工場にいて作るものがなかった。名古屋。ひとりの女性の面影が残っている。（残すもの７）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

修飾語、あとひとつ、ふたつと削れば。生きていないものにもやさしい。その言い訳しようとして不注意からの切り傷でなにか失ったりしないように。そろそろ矢印を誤解しない幽霊部員と交代したほうがいいよ、お父さん。戦後に戻った新潟で憂いによみがえるのはあなたじゃない。（残すもの８）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

もうちょっと一緒に。だれかの悪口を言い、言いあきて、参加しない型でもいつもなにか盗まれている人生。その奥の手。隠さなくてもよかったのかな。マスクやお金が届いても、おいしいもの食べて大事な話もした食堂がつぶれているこの東京の、どこにも降りてこないつもりなら。（残すもの９）#k2fact261

福間健二 @acasaazul

ＡからＺでも、汚れた靴でも。当たり前でも意外でもない。主題を忘れる斜面を無意識のうちに滑り、夢での再会とか関係なく静かな話し声と温めたスープ、ご飯にかけてわるいわけはなく、悲しみや憂いよりも速度。だれも偉くしない速度。六月、七月、このままでいいもの、ない。（残すもの10）#k2fact261