オカルト、霊 という用語について

62
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

オカルトという言葉は、1973年コリン・ウィルソンの『オカルト』が翻訳されてから日本で流布したわけです。現在東北大院生でオカルトの流行と真言宗との関連を研究している方がいますが、その中間報告で面白い指摘がされていました。

2020-06-28 22:58:40
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

つまり、大陸書房では、1973年までは書名のタイトルに「オカルト」の入った本は一冊もなく、74年に急増しているそうです。これはつまり『オカルト』のヒットによって、そのカテゴリー名ができたこと、しかし、それ以前からすでに、そうした排除された知識の場はあったということです。

2020-06-28 23:03:13
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

実際、オカルト以外にも、そうした総称はあって、たとえばアメリカであれば「メタフィジカル」がそうです。2001年、西海岸の古本屋を回った時、このジャンルにはmetaphysicalという名前がついていました。東海岸にいくとoccult だったのを覚えています。

2020-06-28 23:06:12
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

metaphysicalの方はマイナーになってしまいましたが、1930年代以降、ニューソート、神智学、スピリチュアリズム、薔薇十字主義、東洋宗教などを習合させた体系を唱える連中が登場し、それらがmetaphysical teachersと呼ばれました。形而上学教師というよりアメリカ霊術家という方がしっくりきます。

2020-06-28 23:10:02
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

アダムスキーがそうした連中の一人だったのは有名な話ですが、メタフィジカル思想から空飛ぶ円盤運動は発生したと言われています。メタフィジカルや東洋思想は南カリフォルニアの「地場産業」といえるほど多かったので、西海岸の古本屋がmetaphysicalという分類名を使うのは当然といえば当然でしょう。

2020-06-28 23:13:07
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

日本では「霊」という語がよく使われました。大正時代の日本のオカルティズムを一語で示すとすれば「霊」という語になるでしょうが、ただし、この語の意味合いは注意が必要です。

2020-06-28 23:15:44
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

まず、近世から近代初頭にかけて、「霊」とは美称でした。「霊妙」という語もありますが、「素晴らしい」という意味です。「霊術の祖」とされる桑原俊郎は、「霊妙な術」と表現していますし、彼の著書『精神霊動』とは「精神の霊妙な動き」という意味です。

2020-06-28 23:17:52
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

また、桑原の術は霊術よりも「精神療法」という言葉で広まりました。「精神」自体に、どこか超常的なニュアンスがあったのです(戦前は精神療法という語に怪しげな響があったので、戦後アメリカからpsychotherapyが入ってくると心理療法と訳されます)。

2020-06-28 23:19:53
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

また、桑原は篤信の真宗信者で、清沢満之の精神主義に傾倒していました。精神という語を強調したのは、そういう背景もあります(さらに言えば、清沢たちが「精神」という語をなぜ採用したのか、という点も問題になるわけですが)。

2020-06-28 23:22:55
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

他方、心霊という言葉があります。精神が今より怪しげだとすれば、心霊は明治時代までは逆に今よりも怪しく「ない」言葉でした。キリスト教、そして仏教の精神主義では、心霊とは心、とくに宗教的な文脈での心を指します。お化けの意味はありません。

2020-06-28 23:23:55
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

それが怪しげな方向に舵をとるのは、まず黒岩周六『天人論』でpsychical の訳語として「心霊」が用いられます。そして平井金三が『心霊の現象』(1909)を出版し、psychical researchの訳語として「心霊研究」が使われるようになります。

2020-06-28 23:26:24
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

この心霊という語が、spiritualismの訳語に「心霊主義」として流用されるようになり、どちらかといえば批判的、客観的なpsychical researchと、信仰的なspiritualismが、「心霊研究」「心霊主義」と、似たような訳語になってしまいますが科学的心霊研究者があまりいなかったせいもあって定着します。

2020-06-28 23:31:33
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

精神療法という用語は、大正から昭和にかけて流布しています。それでは霊術という語はどうかというと、昭和3年の『霊術と霊術家』のように使用されてはいましたが、大正後期、精神療法がさまざまな祈祷や呪術を吸収してから使われたようです。

2020-06-28 23:33:31
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

そうなると、「素晴らしい術」という意味から転じて、「霊に関する術」という意味も出てきたように思われますが、精神療法=霊術は、術者の意志力による不可視の関係性の操作を前提として、人格的な霊の存在は必ずしも必要ではないのです。

2020-06-28 23:36:27
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

ただ、ここで問題は、鎮魂帰神の法です。それは「神道霊学」という名前で呼ばれ、霊術とは別個であり、人格的な超越的存在を前提とするものとされていました。しかし、最近月見里神社で発見された資料には「霊術入門誓約書」というものがあり、霊学の実践面が「霊術」と呼ばれていたようです。

2020-06-28 23:39:03
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

さらにややこしいことに、この「霊術入門誓約書」を見ると、精神療法家の檜山鋭(鉄心)や松本道別も大正8年に長澤雄楯に入門して、鎮魂帰神の法の伝授を受けています。友清が大本を離脱して静岡に移って長澤に入門する1週間前に檜山が長澤に入門しています。

2020-06-28 23:42:49
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

精神療法家の「霊術化」というべきものの原因は、鎮魂帰神の影響だけではありませんが、関係はあったのだろうと推測されます。

2020-06-28 23:45:02
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

spiritualismのspiritという意味での「霊」が圧倒的になっていくのは大正から昭和以降であって、大正期まではまだ「霊妙」というニュアンスが残っていたようです。太霊道などは社会の「霊化」といった語を用います。これは物質文明を克服していくといった意味合いで、これもお化けの霊ではありません。

2020-06-28 23:48:17
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

国柱会も「霊」という語を多用していますが、これはやはり「霊妙」というニュアンス、そして物質文明へのアンチという価値観です。そして江戸前の美学者、田中智学ですから、美的なニュアンスも入っていたように思います。

2020-06-28 23:50:25
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

こんなふうに「霊」という語は、物質主義へのアンチということで傾向性を共通にしながらも、内実はさまざまな意味合いを含んでいました。そうした曖昧模糊とした総称ということでは、確かにオカルトとかメタフィジカルに近いニュアンスかもしれません。

2020-06-28 23:52:01
YOSHINAGA Shin'ichi @ma_tango

カテゴリー名として自覚的に用いられたわけではないようですが、名著『座談会明治大正文学史』では、大正時代を大本教と太霊道を例にあげて「霊」の時代と評しているのはよく知られています。

2020-06-28 23:54:34
リンク NAVER まとめ マインド ハート ソウル と日本 中国の 心 魂 霊 精神 - NAVER まとめ マインド ハート ソウル と日本 中国の 心 魂 霊 精神のまとめ
まとめ 現代オカルト関連リンク 2355 pv 5 1 user