腰に太刀を吊った男の話
@gtgt_yamada あれはいつだったかのう、血を流している見慣れぬ格好の男がおったから介抱してやろうと近づいたら太股に太刀を吊っておって
2020-07-03 22:47:50@Monzo_mg 青白い顔の今にも死にそうな男だった 驚いて手当をしてやろうと思うたがなぜだか断る 食材だの摘田のようわからんことを言う 髪もざんばらで尋常なようすではない
2020-07-03 22:49:57赤鬼と青鬼の話
@Monzo_mg あれはわしが腰の曲がらぬ若造だった頃じゃ 山の向こうに嫁に行った姉御に会いに行った帰り、山中で鬼に襲われた これでしまいかと必死で念仏を唱えていると、鬼が増えて仲間割れを始めた 六尺はあろうかという赤鬼が小便垂らして震えていたわしに「おいじじい! 大丈夫か!」と声をかけた
2020-07-03 22:54:26@Monzo_mg 山を揺らすような大音声だった 向こうで青鬼が盛んに他の鬼を斬り殺している 尋常なようすではない 赤鬼はわしを今日の晩飯にでもしようと思ったのかずんずん近付いてきた 遠目からも六尺はあると思ったが近付いてみるとそれどころではない なんなら七尺はある
2020-07-03 22:58:30@Monzo_mg 必死で命乞いをすると、痩せこけた百姓の肉など旨くないと思い返したのか、赤鬼は「取って食いはせん、怪我はないか」と聞いてきた 仲間をあらかた殺し終えた青鬼が(これもでかい 六尺はある)油断をさせようと天女のような微笑みでやってきて、わしの家の在り処を聞いてきた
2020-07-03 23:01:54@Monzo_mg これは先日生まれたばかりの息子を食おうと思っているに違いないと思って、わしは姉の嫁ぎ先の方を指差して「あの山の向こうにわしの家がある、あの一つ越えたところでございますじゃ」と、つっかえつっかえ、どもりながらようよう言った
2020-07-03 23:05:15@Monzo_mg 青鬼がふうんと気のない返事をして、わしの体はひっくり返った 目を回しているうちに、気がつくと昨日までいた山向の村の道っぱたに座っていた 驚いた姉御があれこれ小言をくれたが、わしはもう腰が抜けて立てん 結局二日泊めてもらって家に帰った
2020-07-03 23:08:26山伏装束の天狗と大きな鬼の話
おじいちゃん山伏に化けた天狗とでかい鬼のはなしもして! あれはわしが山菜採りに山の奥深くへ入ってしまったときだったな。えらく顔立ちが整って声の良い男に出会った。山伏の格好をしているがゆうに六尺は超え、髪は抜けるような浅葱色で眼が石榴のように真っ赤であったから、これは人ではないなと
2020-07-03 23:01:11おおかた天狗の類いが化けているのだなと思い、わしもここまでかと、念仏でも唱えようかとしたが、真似事でも山伏のなりをしているものに効くのかと考えていたら、巌のような大男がのしのしとこちらへ近づいてくるではないか。
2020-07-03 23:07:59筋骨隆々といった男は黒い爪に裸足で毛皮を身につけ、長く太い棍棒を持ち、ごつごつとした角を頭に戴いておった。鬼じゃ。今生を諦めたわしがガタガタと震えていると、こちらを見下ろす鬼は山を揺るがすような大音声で言った。「このような山奥に何用か」
2020-07-03 23:14:15「寒いのか」身体の震えが止まらんわしに毛皮を掛けたが、不思議と不潔そうな獣臭さはしなかった。腹が減っているのであるか、と山伏のなりをした天狗が豪華な重箱に入った弁当を出し、共に飯を食おうと誘われたが、これは口にしたら最後、山から帰って来られぬやつだなと思って、
2020-07-03 23:20:30見たことも食べたこともない料理を前に迷っておったが、ふいに化生の者たちの視線が和らいだと思ったら、わしは麓の家に続く道に寝こけていた。すわ、腹が減ったあまりに幻でも見ていたのかと思って帰った後、籠から出てきた山菜のほか、採ったものが多すぎることに気づいたのじゃった。
2020-07-03 23:29:42天女に会う話
あれはわしが山で道に迷うて一晩を明かしたときのことだった カチャカチャと金物のぶつかる音が聞こえて目を覚ますとわしの隣に金の羽衣を着た天女が座っておる バカでかい天女でなあ 六尺はあった 天界ではみなああして大きいのだろうか
2020-07-03 23:14:25