絶望フリスク
「いただきます!」ぼくは逝った。しかし気分が悪い。行き場のないイライラがたまっていて胃の辺りが気持ち悪い。朝から親に就職のことで電話越しに説教されたり、バイトでミスしてクビになったりとか、彼女とささいなことで大ゲンカしたりとか、どうしてこうも同じ日に嫌なことが重なるんだッ ①
2011-06-28 21:19:52そしていただきますと言ったのに、何も食べてないという虚しさが僕の全身を襲う。周囲を歩いているご近所さんの視線が熱い。俺を変わり者だと思ってるのか、それとも俺に声をかけたがってるのか、脳内は推測の連続だ。そんなバスの待ち時間でエキサイティングしてる俺。おっとバスがきたようだ...②
2011-06-28 21:26:56バスは混んでいるわけではなかったけど、座席はほとんど埋まっていた。後ろの方に一席空きを見つけて、華麗に座り込んだ。それも無駄な動作無しでだ。やっと家に帰れるッ長い一日だった。バスを降りたら真っ先に走ろう、コンビニでジャンプでも立ち読みして帰ろう。そしたらもう今日は寝てしまおう。③
2011-06-28 21:30:53だんだんオレンジ色に塗られていく空を涎を垂らして窓越しに睨んでいると、ふと、横から何か視線を感じた。見ると、いつの間にか隣に女子が座っている。18か19歳の女子。淡い茶色のパーカーにスカート、魚の形をしたポシェットを肩に斜めに掛けて、僕と同じように外の景色を見上げていた。④
2011-06-28 21:34:03俺は目線を正面に固定し、視野の限界部分で彼女を観察した。足をぷらぷらと楽しげに揺らして、外をじいっと見つめる大きな黒い目からは突然涙が溢れた。俺はとっさにハンカチを取り出し「おい!拭えよ!」すると彼女は「すみません、チーン」俺「や、やりやがったッ!」 ⑤
2011-06-28 21:42:03朝ハンカチを丁寧にアイロンがけをして、何かあった場合を想定して持ち歩いてたおれのキレイなハンカチに鼻水をぶちまけるだなんて...その可憐さに俺は心を奪われた!「何かあったんだろ?話せよ...いや話してください」すると彼女は寂しげなオーラでこう言った。「おしゃまんべ...」 ⑥
2011-06-28 21:45:21俺「どうした?長万部ならおれの地元だぜ?」彼女「私、長万部出身なんです」俺「それがなんだってんだ!」彼女「なんでもありません」俺がとまどっていると、彼女はおもむろにフリスクを俺に差し出した。「これよかったら...」俺は6粒をいただいきますしたッ! ⑥
2011-06-28 21:54:01あれこれ思いを馳せたが、所詮は他人事、俺はすぐに思考を止めて、景色に目を向けた。外はオレンジからだんだん薄紫に変わっていく。街灯や店の明かり、車のライトが流れていく。嫌なことも全部、こんな風に流れていってしまえばいいのに・・・気付いたら俺はうつらうつらと頭を揺らしていた。 ⑦
2011-06-28 21:55:20「ちょっと、」声と同時に、とんとんと肩を叩かれて、目が覚めた。「お兄さん、終点だよ」「・・・ん、」目を開けて、声がした方を見上げると、バスの運転手が呆れたような顔で立っていた。「あ、すいません」と同時に全身に寒気が走る!しまった、寝過ごしてしまったようだ。てか全裸だ! ⑧
2011-06-28 21:58:07まったく、今日はどうにも厄日だ。慌てて立ち上がろうとする俺。ハッ!服も貴重品もすべて無くなっている...嫌な脂汗が吹き出す!彼女は新手のスリだった。 糸冬 了
2011-06-28 22:00:24