『両国ともにその土地に思い入れがないしょんぼり国境紛争地帯の冒険小説』 ぷりめ文書

まとめました。
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@ぷりめ @prime46502218

両国ともにその土地に思い入れがないしょんぼり国境争いが好きなんです。 経済的価値がない。海ならせいぜい漁業権(あんまり魚とれない)、陸地なら鉱物資源もない耕作不可能な沼地かジャングル。歴史的に重要でもない。そもそも人が住んでない。国境警備隊が相手の立てた国旗を見つけたら抜く。

2020-06-23 17:42:57
@ぷりめ @prime46502218

でも相手にあげる理由もない。そんな理由でおたがい結婚願望ないけど性欲はある同棲カップルみたいに、ぐずぐずぐずぐず煮え切らない国境紛争。 どうやれば面白く描けるでしょうか。

2020-06-23 17:45:14
@ぷりめ @prime46502218

ヒトコブ共和国と国境紛争を抱えるフタコブ共和国。両国ともにきわめて細長い国土で、国境の一割が沿岸部、三割が山地、残る六割は利用不可能な荒野がただひたすら広がっている。オアシスもろくにない荒野は神に見捨てられた土地と呼ばれ、きわめて好戦的な少数の先住民がラクダを遊牧して暮している。

2020-06-23 17:57:35
@ぷりめ @prime46502218

約3000キロある国境線に対し、配属された国境警備隊員は五名。一人当たりの受け持ちはなんと600キロだ。 私がそう漏らすと、現地生まれの部下が、隊長は暗算できるんですか!と尊敬の目で見てきた。私はラクダの背でがっくり肩を落とす。私が国境警備隊に志願したのは軍に入りたくないからだった。

2020-06-23 18:03:39
@ぷりめ @prime46502218

大学でそういったら、級友が聞いていて国境警備隊に志願すればいいと教えてくれた。まずいことに、学校付き将校も聞いていたので、私は僻地中の僻地で最低3年のお勤めを食らうことになった。 私たち五名は毎日砂を見て過ごす。これより人口密度が低い任務は、我が国が宇宙に進出するまでないだろう。

2020-06-23 18:06:23
@ぷりめ @prime46502218

警戒すべきものなど何もない。 そもそも人が住めない荒野だ。気候厳しく道が悪く水がない。おまけに自国や隣国の戦略目標も人口密集地もこの辺にはない。全て海岸部に寄りにある。隣国軍も、もっと楽な場所に行くだろう。ここから攻め込んでも、意味のある土地に辿りつくまでに迎撃準備を整えられる。

2020-06-23 18:11:23
@ぷりめ @prime46502218

ここの生活で危険と言えば、荒野それ自身につきる。熱い昼に天幕で寝て、涼しい午前中と午後に進む。夜中にブーツに潜り込むサソリ。そして先住民。連中は、戸籍上は我が国か隣国に属しているはずなのだが、国民意識などかけらもないので油断したら襲ってくる。仲間から100歩離れたら死ぬ土地だ。

2020-06-23 18:16:12
@ぷりめ @prime46502218

こういったことを、部下たちから教わる。砂漠育ちの女斥候、無口な狙撃手、大男の料理人、女看護兵。彼らは皆タフだ。タフじゃないと死ぬからだろう。 「この辺にキャメル村があるはずなんだが」私が言う。 「なーんも見えませんね」ラクダのコブに直立した斥候が小手をかざして四方を見晴らす。

2020-06-23 18:22:04
@ぷりめ @prime46502218

「隊長、地図読み間違ったんですか?」看護兵が皆が思っても言わないことを聞く。 「歩測と磁石だけなんだから仕方ないだろ!測量杭の列から離れたら霧の中と同じだ」 「夜になって天測できるのを待つか」狙撃手が聞く。 「今日はいいですけど、明日は水に余裕がない」大男が言う。

2020-06-23 18:25:45
@ぷりめ @prime46502218

部下たちから突き上げを食らって面目を失った私は、地図と方位磁石をかざして、いかにこれが困難な仕事か力説する。誰も賛同してくれない。そもそも私と看護兵以外、字が読めない。 そのとき「静かに!」と声がした。ラクダの上で砂漠の灯台みたいなってた斥候が、両手を耳に当てている。

2020-06-23 18:28:50
@ぷりめ @prime46502218

「…何だ?」私は聴診器をあてる医者に病状を聞くときのように、おずおずと斥候に話かけた。 「銃声。二丁や三丁じゃない」斥候は極度に集中し、虚空をじっと見ている。 「距離は?」狙撃手が銃の防塵布を外す。 「あたいの勘だと50キロ」 「勘か」 「斥候の勘なら間違いないな」大男が私を見る。

2020-06-23 18:35:00
@ぷりめ @prime46502218

「どうします、隊長」 斥候の勘なら、私もいやはない。遮るもの何もない荒野とはいえ、すさまじい聴覚だが、勘の冴えはそれにましてすさまじい。 「集団で銃を使うということは、襲うにしろ守るにしろ、集落があるということだ。例のキャメル村だろう」私は斥候の向いた方向を地図に書き込む。

2020-06-23 18:38:28
@ぷりめ @prime46502218

「つまり、この先に人里があるということだ」得意顔で言った私に、部下たちの目は冷たい。「銃撃戦の方に行くんですか…?」看護兵が代表して呟いた。 「国民が襲われているのだから、国境警備隊が駆け付けるのは当然だ!」私は主張した。 「あたいも賛成だ」ラクダから器用に降りて斥候が言う。

2020-06-23 18:41:38
@ぷりめ @prime46502218

「水は要る。水のある所には、どのみち争いはある」 流石、荒野生まれ荒野育ちの兵士、割り切り方が極道なみだ。他に良い知恵もないので、警備隊員たちは移動の準備に取り掛かる。 「誰だ!」「国境警備隊だ!」「だから誰だ!」という誰何というか言い争いを、屋根の上で銃を構る村人と繰り返す。

2020-06-23 18:45:03
@ぷりめ @prime46502218

「警察だ、軍だ!政府だ!」私は語彙を探る。 「なんだそれ?」村人はいずれも知らないらしい。 「海の太守(パシャ)の使いだ」斥候が見かねて口を出す。 「なんで太守の役人がここにいる」 村人に通じた。国民という意識がないのは、どうやら遊牧民だけではなかったらしい。何とか会話が成立し始める。

2020-06-23 18:50:10
@ぷりめ @prime46502218

集会所は要塞じみた建物だった。 村の行政のトップであるはずの村長と、村長より明らかに格上の長老、私と斥候が絨毯に並んで座った。強談判(こわだんぱん)になる雰囲気だったので、タイミングよくキレてくれて、切った張ったが得意な部下を選んだのだ。 村長曰く、先ほど遊牧民が村を襲ったという。

2020-06-23 19:01:20
@ぷりめ @prime46502218

理由は村が代々遊牧民に払っていた貢納金を、今年は払わなかったからだ。彼らは怒って村を攻めた。そして村の娘をさらった、貢納金を払わないと首を斬ると言ってきた。 「娘さんの家族は」と私が聞くと、「さあ?」という答えが返ってくる。村の者は皆、家を確かめたが、居なくなった娘がいないのだ。

2020-06-23 19:22:50
@ぷりめ @prime46502218

村長は、遊牧民を何とかしてくれという。連中は隣国との国境付近を行き来していて、両国とも警察が動けないのだ。 「あたしたちはたった五騎だぞ」斥候が眉をしかめる。 「なら、隣国に頼むまでだ」ずっと黙っていた長老が、重々しく口を開く。流石年の劫、それではこっちが困るのを見透かされている。

2020-06-23 19:27:54
@ぷりめ @prime46502218

「そちらは遊牧民が村を襲わないよう取り計らう。こちらは水と食料を提供する。いかがか」長老が言う。 「どうする、隊長?」斥候がにやりと笑う。 村人の証言によると遊牧民は二十六騎。武装は剣、弓、槍、銃。大砲はない。私は村人が鹵獲した遊牧民の銃を調べた。古いボルトアクション小銃だった。

2020-06-23 19:35:54
@ぷりめ @prime46502218

どうかな、と狙撃手に聞く。狙撃手は弾をはじき出した。 「弾は二発だけ、どちらも錆弾」撃鉄を外し、銃身を天に向けてのぞく。「最後にグリースをさしたのは、連中の爺さんの代かな。砂もあちこち入っている。ひどい状態だ」 「他の銃も同じ状態かな」 「たぶんね」狙撃手が請け負うなら信頼できる。

2020-06-23 19:41:48
@ぷりめ @prime46502218

私と大男は、村の男衆にあれこれ指示した。大男の迫力に、皆素直に従う。この貫目が私にあれば。 斥候が戻る。「やっぱ連中、二十五騎位っす。これ野営地の見取り図、これがテントの数とラクダの数」 紙の切れ端に丸や三角が並んでいる。今度字を教えてやると斥候にいうと、舌を出した。

2020-06-23 19:49:03
@ぷりめ @prime46502218

「隊長、ちょっと」と看護兵が声をかけ、物陰で話す。 「村の子を診たとき聞きました。旅装束の家族が街道で遊牧民に殺されて、女の子が一人連れていかれたって」 「何、いつだ?」 「遊牧民の襲撃があった日です」 「まずいな…現場はどこだと?」 「その子はショックを受けて、記憶が曖昧で…」

2020-06-23 19:54:40
@ぷりめ @prime46502218

村の縁者と間違われて誘拐された娘がいるかもしれない。一応掛け合ってみる。村長は警察にまかせようというが、村に一番近い警察官は私たちだ。長老は「村の身内じゃないなら知らない」の一言だった。共同体外の人間にまでかまっていられる環境では、確かにない。 夜、隊員を集めて灯明の下で話した。

2020-06-23 20:01:43
@ぷりめ @prime46502218

看護兵は暗い顔で、大男はあごをさすり、狙撃手は何も言わない。斥候は、うええ、とうめいてそっくり返った。沈黙は10秒か、一分か。斥候が上体を起こす。 「で、隊長、どうやって救けるんす?」 「反対しないのか?」 「反対したら一人で行って死んじゃうでしょ」斥候は情けはあるが容赦がなかった。

2020-06-23 20:05:31
@ぷりめ @prime46502218

皆も口々に従った。私は礼を言った。業務を遂行するのに礼を言うのは何だか妙な気がしなくもなかった。 斥候は笑う。「隊長死んだら地図読める人いないし」。訂正する、こいつには情けもない。山犬か? 朝、村人たちに作戦を告げた。この数日の工事で、あちこち補強した村をそのまま城とする。

2020-06-23 20:10:10