【だれの黒い川でも】福間健二 #k2fact262
だれの黒い川でも、ある日。もう一度。火のついた棒切れを流されるだれの黒い川でも、ある日。あきらめた人生に復讐されて溺れるオートバイを、ある日。車輪の虹への、ため息のような湿った風が、フラッシュバックを誘って。どうしたらいいと言うのか、ホイットマン。(だれの黒い川でも1)#k2fact262
2020-06-28 11:24:13レタスチャーハンを食べたあと、何分か残っていた休憩時間。胸に名札をつけたふたりの女子事務員がぼくを見た。裁判所の前の、広い道。終わりたいが、忘れたくはない。いのちをあたえるものについて問うこと。拾わなくてよかった棒の願い。ネコも立ちどまって見た。(だれの黒い川でも2)#k2fact262
2020-06-29 11:45:01必要なことを言う。簡単ではなく、月がボーッとガソリンスタンドの上にあって、似ているかもしれない魂の始末、手順がわからない多摩地方の夜。逃走する影の、それぞれの自己中心性をどうしたいのか。ホースをもった腕が仕事する。必要なことしか言わない。いいのか。(だれの黒い川でも3)#k2fact262
2020-06-30 12:14:03炎で、合図する。あるべきところにある星のように立つべきところに立つ人に。人の多い立川近辺。ぼくはまだ台所の流しの前にいて、うっかり、星座を描いた揃いのコップの片方を割る。夢だと声に出して言う。コップは割れていなかった。ほんとうに割れていなかったよ。(だれの黒い川でも4)#k2fact262
2020-07-01 11:38:50占いのとおり、メンタルのつよさに磨きがかかったら「最強になってしまう」とオレンジ色の破片を川に投げる。夜の川、黒い川、何分かの逆流する旋律が噴きあげる、温かくて気持ちいいものを、どう浴びる。そして歩くということは。吉増さん、あっという間の半世紀だ。(だれの黒い川でも5)#k2fact262
2020-07-02 09:26:03触ることのできないもの。あるいは、できないわけではないが、いま触ってはいけないもの。眺めているうちに期限が切れ、せっかく学んだ天使性置きわすれた。だったらそんなにつよく押さないでほしい。目がさめて戻れない道のブルーライトが恋しくなる。幼いんだね。(だれの黒い川でも6)#k2fact262
2020-07-03 11:42:38非常時。若い吉増さんのようにつねにそうだと感じて生きる。あるいは、前夜。明日の朝、目がさめないかもしれない。そう思って雨の日野、殺人事件のあった店へと橋を渡る。最後の橋にしたいが、右手の船になにか得体の知れないものが。この春からは。みんなが。(だれの黒い川でも7)#k2fact262
2020-07-04 11:08:35みんなが感じている不安。それとはちょっとちがう痛みと破れ方の青いネット。逃していいものと逃さないもの。重さや大きさ、感情やざわめき方よりも、反省のない所有欲なんとかしてくれというあばら骨に共鳴するかどうかだ。シガーのラッキーストライク、ぼくにも。(だれの黒い川でも8)#k2fact262
2020-07-05 09:54:53ウォルトやゴーゾーを知らなくても書けること書いて、雨がやんで、はにかむ少年。空を見あげる。光の線は走らないが、鳥が飛ぶ。このことの確かさ。故郷的なバケツをひっくりかえして、だれの質問にも答えない。なんという世界だとあきれるのは、けさじゃなくていい。(だれの黒い川でも9)#k2fact262
2020-07-06 12:10:36だれの悪い夢でも。歩けるところを歩いて外に出る。ある日、八王子の低所得者住宅の階段に落とした財布、無事に帰ってきたが、あわてて快速に駆け込み、お礼言ってない。どうする。感情を写さない機械に自分自身を説明する。素手で。生きている人。さあ、キスしよう。(だれの黒い川でも10)#k2fact262
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