【竹の子書房】絵が先「ダークマター 宇宙からの訪問者たち」(原稿募集時の仮タイトル「ダークマターまたは無題」)
- kaitenzushi
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書籍タイトルについて
企画当初~文章原稿募集の間、企画の仮題を出題イラストタイトル「ダークマターまたは無題」としていましたが、(集積原稿の内容から)書籍化の際のサブタイトル情報を検討し、書籍タイトルを「ダークマター 宇宙からの訪問者たち」に決定しました。
装幀、組版の希望について
・「宇宙からの訪問者たち」は装幀時にサブタイトルでお願いします。
・(組版時に)4ページ目の、カバー+作者名の箇所に、出題イラストのタイトル「ダークマターまたは無題」も入るようにお願いします。
このことに関して、もしご意見・ご提案などありましたら、@kaitenzushi宛に御連絡下さい。
@ts_p 絵が先に拙作を投稿致します。タイトルは「ダークマターまたは無題」 http://t.co/stUHYFh 宇宙的なイメージです。著者の皆様どうぞよろしくお願い致します。 #tknk
2011-06-29 13:50:44@ts_p …ということでこのたび新たに、「絵が先」企画に「ダークマターまたは無題」。松尾更紗さんから美麗な表紙絵をいただきました。
2011-06-30 23:37:57(ここまで表紙です)
以降は本編となります。
@ts_p 「起きなさい」という声が耳元でした。しまった。僕は寝坊したらしい。学校に行かなきゃ。布団を蹴飛ばし、飛び起きた。「あれっ?」異変に気づいた。朝なのに、辺りは真っ暗だ。何も見えない。変だ。ここは自分の部屋のはずだ。母はどこに行ったんだ。
2011-07-02 23:23:48@ts_p 冷たい汗が背中に伝った。物音がしたように思い、がばっと後ろを振り返った。やはり何も見えない。でも、闇の中から自分を冷静に観察している何かが居るような気配がした。なんだろう。怖いよ。ウサギのようにびくびくして神経質に身体を震わせた。
2011-07-02 23:24:25@ts_p 「落ち着いてください」と頭の中に凛とした声が響いた。「だ、誰?」聞き覚えのある声だった。でも、声の持ち主を思い出すことができなかった。すると、「わたしのことわからないんですか」声は押し殺したような笑い声に変わった。「しっかりして、先生」
2011-07-02 23:24:50@ts_p はっとした。そうだ、僕は先生だ。いま、認知科学の実験をしているんじゃないか。学生には危険すぎると思ったから、僕が代わりに被験者になったのに、なんてザマだ。「君らに悪い見本を見せただけさ」と誤魔化しても、もう学生はくすくす笑いを隠そうとしない。
2011-07-02 23:25:19@ts_p いま僕の身体は研究室にある。意識レベルを低下させる薬を飲んで実験台の簡易ベッドに横になっている。頭のヘッドギアから伸びているコードは、研究室に並んだ機械に接続し、僕の思考を音声に変換してくれる。学生達の声はマイクで拾って僕の脳内で知覚できるものに変換されている。
2011-07-02 23:25:42@ts_p 「おい、あれを流してくれないか。準備はできているだろ」「もちろん、いつでもやれますけど。先生こそ大丈夫なんですか。意識界と無意識界の狭間は不安定なんですよね。先生が谷村みたいなことになったら…」「平気だよ。もし異常行動を起こしたら大声で呼びかけてくれ。覚醒するから」
2011-07-02 23:26:06@ts_p 学生達は不安そうだ。無理も無い。三ヵ月前の実験で谷村にあんなことが起こったんだ。谷村は今も意識不明で病院に入院している。あの時、僕は何も出来なかった。谷村がパニックを起こしたように急に暴れ始めたのを、呆然として見ていただけだった。
2011-07-02 23:26:30@ts_p 僕はその時のデータをすべて分析した。谷村の身に起こった原因を突き止めたかったからだ。原因が分かれば、もう一度、谷村の意識を取り戻せるかもしれない。僕は、谷村が何かを見たんじゃないかと疑っている。だから、当時に記録した谷村の思考を僕の脳内で再生してみようと思ったんだ。
2011-07-02 23:26:52@ts_p 「先生、やりますよ」学生の声に反応するように、僕の脳内の真っ暗な闇の中に、光の粒がぽつぽつと現れた。星のように。まるで宇宙だった。無数の光は明るく輝き、銀河のように流れていった。オーロラのような赤や緑の光が揺れて広がった。これは谷村が見ていたイメージなのだ。
2011-07-02 23:28:03@ts_p 急に、光の粒が大きくなった。ずんずん近づいて来るようだった。僕は思わず、「あっ」と声を上げていた。光が星じゃないことに気づいたからだ。それは、人の目だった。僕は無数の目に見つめられていた。囲まれていた。その時、「先生」というかすれた声を聞いた。
2011-07-02 23:28:33@ts_p 優しい光をたたえた一組の目には覚えがあった。「谷村か」「ええ。先生がここまで来てくれるなんて思ってもみなかった」「さあ、帰ろう。みんな心配している」だが、谷村の目は哀しげに瞬いた。「あたしを見てください。わかりますよね。こっちが幸せなんです」
2011-07-02 23:29:02@ts_p 「駄目だ、一緒に来るんだ」僕は、谷村の方に手を伸ばしたが、その手は空を切った。谷村の目は戸惑うように揺れて、僕の手を逃れようとした。夢中で両手を振り上げた時、「先生!」と鋭く叫ぶ声を遠くに聞いたような気がした。僕は無視した。
2011-07-02 23:29:21@ts_p ふと我に返ると、隣に谷村がいた。長い髪が風に煽られて僕の頬をかすめた。「先生、ごめんね」と呟く谷村に、首を横に振って見せた。僕らを取り囲んでいる大勢の人の視線は温かだった。ああ、僕は谷村のことが好きだったんだな、と気づいて、胸が熱くなった。
2011-07-02 23:29:41宇宙空間には『ダーク股』という物質が溢れているという。なんとも奇妙で卑猥な名前の物質である。今日は七夕。彦星はこの物質の影響力に引っかかり、織り姫との逢瀬を果たせなくなるのではないか、というか、逢いに行く途中で果てちゃうのではないか、と不安視する科学者も多い。少ない。いない。
2011-07-07 12:56:37(【別便による寄稿について】とよねさん@Toyo_neから短歌15篇、掌編3篇で作品をいただけることになりました。こちらのまとめには現在のところ掲載予定はありませんが、完成時に原稿が組み込まれるとのお話です)
とよねさんから(掲載時ペンネームも同じとのことです)、タイトル「Space opera-Cats」(短歌15篇、掌編3編)を加藤さんへメール入稿されたとのお話がありましたので、こちらに追記します。
@ts_p 広い宇宙船の中で二十人の子供たちがひっそりと暮らしていた。全員が十七歳だった。目の色も髪の色も様々だった。人種も皆ばらばらだった。十七年前、地球から脱出する宇宙船に、何もわからぬ乳飲み子の彼ら・彼女らは乗せられたのだった。人々は「希望の子供」と呼んだ。 #tknk
2011-07-10 03:17:14