
#SA新着情報 坂本龍右 @contra2nd さんによる、トロンボンチーノのフロットラ「Ostinato vo seguire」が公開となりました!楽譜、歌詞、曲の解説、楽しみ方などすべて、坂本さんがこちらのページに準備くださっています!ぜひご覧ください!→ filmuy.com/smartaccompani…
2020-06-19 10:08:01
#SA への動画第3作目です!今度は小型のルネサンス・リュートを使って軽やかに伴奏させていただいています。この曲と、その周辺のレパートリーなどに関する耳よりな補足情報は、例によってツイートで随時ご紹介。 twitter.com/smrtaccompanis…
2020-06-19 23:11:24今回のおしながき
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これぞ本物のペトルッチ・ライブラリー!
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おすすめ音源!(マルコ・ビーズリー二選)
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イタリア語の指示の謎を解け!
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ではここで、私自身の演奏をどうぞ。
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フロットラはいろんな音域で歌える!
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リュートのタブ譜は2声のみ。お好みでもう1声部追加も可
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器楽編曲もあります!
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リュート伴奏付きフロットラ集の目次をながめて。

1509年にヴェネツィアで出版された、この曲の楽譜です。ペトルッチ・ライブラリー(IMSLP)で簡単に入手できますが、それ以前になんとこれは正真正銘のペトルッチによる印刷譜なのです!また作曲者がバルトロメオ・トロンボンチーノ(1470-1534以後)であることが、「B.T.」の略記署名で確認できます。 twitter.com/smrtaccompanis… pic.twitter.com/eGeLrfGLE6
2020-06-23 09:48:48

この曲は16世紀初頭のイタリアで流行した、フロットラと呼ばれる世俗歌曲の代表です。人気曲だけありたくさんの演奏音源がありますが、ナポリ出身のテノール歌手マルコ・ビーズリー氏が歌い、かつコルネットの名手ブルース・ディッキー氏をゲストに迎えたこの演奏が好み。youtube.com/watch?v=nGjR3R…
2020-06-24 07:44:58(補足説明)
この音源の説明ではマルケット・カーラになってますが・・ペトルッチの出版譜ではいずれもトロンボンチーノになってます。

マルコ・ビーズリー氏が歌った再録音がこちら。今度はコルネット抜きの、撥弦2台による伴奏です。フロットラの伴奏に適した楽器はというとまずリュートで、特にこの曲の場合、こうして即興を交えて「わちゃわちゃ」伴奏するのが、雰囲気にとても合っていると思います!youtube.com/watch?v=h7p0Vw…
2020-06-24 07:54:21
先ほどの譜面からは想像もつかないほど、見た目は単純なのにそこからいろいろと「遊べる」余地のある曲ですね。フロットラが流行した盛期ルネサンスのイタリアでは、こうした自由闊達で軽やかな世界とは真逆の、端正で重厚な、時により複雑すぎるポリフォニー音楽が、同時にもてはやされたのでした。
2020-06-24 08:06:58
この事実こそ、1500年前後のイタリアの音楽の豊かさだと思います。フロットラの演奏の際には、同時代に書かれた厳格なポリフォニー曲に向き合うときのような態度は一旦忘れて、何より演奏する自分たちを楽しもう、そして聞き手も一緒に楽しもう!とビーズリー氏たちの演奏は教えてくれているようです。
2020-06-24 08:14:27
さて、この譜面の始まりの位置に置かれた指示に、是非とも注目していただきたいです。「La voce del sopran al quinto tasto del canto」とあります。sopranとcantoを両方とも高音声部の意味としてとると、まるで訳が分からなくなります。このイタリア語の指示の真意は一体何でしょうか?
2020-06-25 07:42:25
もったいぶらずに答えを言うと、解釈は意外と単純。sopranは音部記号の高低に関わらず、この曲で示されている歌われる声部のことを指し、cantoは伴奏しているリュートのトップの弦(一番高い音が鳴る開放弦)のこと。つまりリュートの調弦と歌の歌い出し音がどう対応するのかを説明しているわけですね。
2020-06-25 07:48:36
リュートのトップの弦(canto)の第5フレット(quinto tasto)の音が、歌い出し音になるということです。なのでこの譜面に忠実に従うなら、基準となるピッチの上下の振れ幅を考慮しても、概ね歌手の声域はアルト、かつリュートは現代の一般的なヴィオラ・ダ・ガンバと同じ調弦のバス・リュートとなります。
2020-06-25 07:59:44
16世紀のバス・リュートで現存しているものも僅かにありますが、フロットラの流行した1500年代の初めによく使われたのは、これらに描かれているような、むしろ現代の標準よりも小ぶりのリュートです。持ち運びがしやすく、両手のストレッチも少なくてすむので、アマチュア奏者にも好んで弾かれました。 pic.twitter.com/4KtcUzlg0L
2020-06-25 21:23:46



こうした事実をふまえ、今回の「Ostinato vo seguire」の伴奏動画では、便宜上アルト・リュートと呼んでいる、最高音弦をg¹でなく全音高いa¹に調弦した、6コースのルネサンス・リュートを使用しました。これで原譜のタブラチュアの指示通りに弾けば、歌い出し音は記譜上の完全5度上となるわけです!
2020-06-25 21:30:45
ではこのフロットラはソプラノでしか歌えない、ということではありません。ここからオクターブ下げてテノールで歌うことも可能で(今度は記譜上の完全4度下)、ビーズリー氏たちの演奏はこの解決をとっています。ただし、リュート属は通常のサイズの楽器のため、ポジションの読みかえを行ったようです。
2020-06-25 21:36:20では、私の解釈はというと。
実際にライブ音源をお聞きください!

さて、こちらは私の立ち上げたアンサンブルで演奏している、フロットラ「Ostinato vo seguire」のライヴ音源です。ソプラノはアリーチェ・ボルチャーニ、トラヴェルソ(ルネサンス・フルート)を吹くのはアンネ・フライタークです。この曲は来日公演の際も取り上げました!soundcloud.com/alice-borciani…
2020-06-26 08:33:00
インストの間奏で、アンネ・フライタークは見事な即興を聞かせてくれます。これに対し、ソプラノが2節目を歌うのに合わせて彼女が「さりげなく」入ってくる際の旋律は、実は即興ではありません。この「第四の声部」はこそ、1508年にこれまたペトルッチが出版したフロットラ集にあるアルトパートです! pic.twitter.com/DJVEo9UZGZ
2020-06-26 08:48:57

4声部揃った、ペトルッチによる初版譜の全体です。ここにも作曲家を示す「B.T.」の略記が見られますね。最高音部のパートのみ歌詞が下に書かれ、残りは歌い出ししか記されていません。これから分かるように、フロットラは多くの場合一つの声部だけが歌われ、あとは楽器が担当する実践が一般的でした。 pic.twitter.com/zhsBelQW2M
2020-06-26 09:12:21


フロットラでは、アルトとテノールの両声部は互いに近い音域を「わちゃわちゃ」動くことが多く、リュート一台でこれらを同時に弾くのは物理的に至難。アマチュア層を主なターゲットとしたペトルッチは、リュート伴奏版を出す際、テノールとバスの2声のみを取り出して(稀に例外も)タブ譜にしたのです! pic.twitter.com/0ZioPsfemD
2020-06-26 09:27:27
