「大阪市で医師をしている私の立場から言えば、4月の時点で医療崩壊はすでに起こっていました」…救急受け入れを全病院に断られた呼吸困難患者/自衛のために、かかりつけ医を

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【新型コロナ】大阪府で60代の男性が入院の搬送待機中に、容態が急変し、死亡 | ABCニュース

大阪府は25日、新型コロナウイルスで陽性が確認された60代男性が、入院の搬送待機中に容態が急変して、亡くなったと発表しました。

毎日新聞 @mainichi

「大阪市で医師をしている私の立場から言えば、4月の時点で医療崩壊はすでに起こっていました」。 谷口医師が経験した例を紹介しています。 mainichi.jp/premier/health…

2020-07-25 08:10:00

新型コロナ 発熱を診てもらえない時代の生き方 | 実践!感染症講義 -命を救う5分の知識- | 谷口恭 | 毎日新聞「医療プレミア」

https://mainichi.jp/premier/health/articles/20200722/med/00m/100/006000c

新型コロナ 発熱を診てもらえない時代の生き方
谷口恭・太融寺町谷口医院院長
2020年7月24日

 少し古い話になりますが、愛知県の大村秀章知事は5月に何度か「医療崩壊が東京と大阪で起きた」と発言しました。これに対し、大阪府の吉村洋文知事はツイッターに「大阪で医療崩壊は起きていません。何を根拠に言っているのか全く不明です。受け入れてくれた大阪の医療関係者に対しても失礼な話です」と投稿し、大阪市の松井一郎市長は「大村さん、大阪が医療崩壊している事実ってなんでしょうか? 貴方(あなた)も公人なんだからエビデンスを示してください」と反論したことが報じられました。
「医療崩壊」の言葉の定義にもよりますが、大阪市で医師をしている私の立場から言えば、4月の時点で医療崩壊はすでに起こっていました。今回は、その医療崩壊が加速する、という話をしますが、その前に4月に私が経験した一例を紹介しましょう。

救急受け入れを全病院に断られた呼吸困難患者

 30代後半の男性が、深夜に突然、呼吸困難になり自分で救急車を要請しました。幸い救急車はすぐに来てくれて、男性はストレッチャーで車内に運び込まれました。ところが、救急隊員が3時間以上にわたって次々と病院に電話しても、受け入れてくれる病院が見つかりません。そうこうしているうちに、症状が落ち着いてきました。男性は救急隊から謝罪されて結局、自宅に戻りました。生まれて初めての救急車要請がこのようなことになり驚きましたが、それ以上に驚いたのが、救急隊員から言われた次の言葉でした。

 「受け入れ先がなかなか見つからないことはよくあるんですが、すべての病院から断られたのは初めてです。新型コロナがはやりだしてから、呼吸器症状がある人はことごとく断られるんです。医療崩壊がもうすぐ始まるとか世間では言っていますが、もう既に進行しているんです」

 男性は翌日、再び息苦しくなって、近くの診療所数軒に電話しました。しかし5軒から断られ、仕方なく医療プレミアで名前を知っていた太融寺町谷口医院(以下、谷口医院)を受診することにしました。車で1時間以上かかることを覚悟して……。

 3月後半ごろから、発熱、せき、呼吸苦などの症状があれば、それだけで救急搬送を断る病院が相次ぎました。この救急隊員の言うように「搬送先がなかなか見つからない」ということは以前からしばしばありましたが、「すべてから断られ搬送できなかった」というケースは私もこの患者さんから初めて聞きました。この男性は、結果的に軽症で事なきを得ましたが、呼吸困難は対応が遅れると、場合によっては命に関わります。これを医療崩壊と呼ばずして何と呼ぶのでしょう。

 谷口医院では発熱や呼吸苦の患者さんも診ていますが、他の患者さんが受診する時間に来てもらうわけにはいきません。そこで「発熱外来」の枠を午前と午後、それぞれの診療時間の終了後に設けています。谷口医院のようなビルの中にあるクリニックでは、発熱患者と他の患者を、入り口と出口を分けて「空間的」に隔離することはできないため、受診の時間を変えて「時間的に」隔離しているのです。

「憤りを通り越して悲しくなる」

 5月に入り、発熱やせきの患者さんは減少傾向にありましたが、6月末から再び増えてきています。電話やメールでの相談が相次ぎ、いまや谷口医院の受付はコールセンターのような状態です。中には「他の病院で断られた」という患者さんが少なくありません。しかし、発熱外来の予約枠は1日2人だけで、大半の患者さんは受診を希望しても来てもらうわけにいきません。日ごろから谷口医院をかかりつけ医にしている人を優先しますから、未受診の発熱の患者さんの要望にはほとんど応えられていません。

 発熱やせきが出ると、たいていの患者さんは新型コロナを心配します。大阪では連日数十人の感染者が報告されているわけですからそれは当然でしょう。ところが、以前からこの連載でも繰り返し指摘しているように、保健所の対応は十分とはいえず、患者さんがPCR検査を受けたいとお願いしてもたいていは断られます。「近くのクリニックで診てもらってください」と言われるわけですが、近くのクリニックに問い合わせると「発熱患者は診られない」と言われ受診拒否されるのです。

 この状況に納得がいかないのは患者さんだけでなく私もです。「日ごろ診てもらっているかかりつけ医が拒否するってどういうことなんでしょう」という言葉を患者さんから聞いた時は、憤りを通り越し、ただただ悲しくなってきます。そのときは診られないのだとしても、当院が実施しているように別の時間枠で来てもらうとか、別の医療機関を紹介するとかいった対応をすべきなのは誰の目にも明らかです。

 7月の時点でこの状態です。秋から冬にかけて風邪症状を訴える患者さんは間違いなく増えます。谷口医院では風邪のピークのシーズンになると、1日20人以上の発熱の患者さんが受診することもあります。しかし、新型コロナが終息しない限りは午前と午後に1人ずつしか診察できません。現時点では、谷口医院をかかりつけ医にしている人についてはわずかな枠の「発熱外来」に来てもらえていますが、秋以降は困難となるかもしれません。

自衛のために、かかりつけ医を作って

 ではどうすればいいのでしょう。これを読んでいるあなたやあなたの大切な人に発熱やせきが出た場合はどうすればいいのでしょうか。私見をふんだんに取り入れた対処法を紹介します。

 まず「自分の身は自分で守る」のが原則です。何かあれば行政が守ってくれるという考えは初めから捨てましょう。これまでこの連載で述べてきたようなこと、「密を避ける」「“相手に”マスクをしてもらう」「顔(特に鼻の下)を触らない」などを徹底して予防に努めることが大切です。

 次に、もしも症状が出たときには保健所(帰国者・接触者相談センター)ではなく、かかりつけ医に相談しましょう。風邪の患者さんが増えれば、保健所に電話してもなかなかつながりません。ようやくつながったと思ったら、たいていは「その程度では検査ができません。近くの医療機関を受診してください」と冷たくあしらわれます。そして、日ごろからかかっていない限り、近くに気軽に相談できる医療機関はありません。
 
 だからこそ、今の時点でかかりつけ医を作っておくのです。健康上の悩みがまったくなければ受診しにくいかもしれませんが、健診での軽度の異常、予防接種の相談、あるいは不安感や疲労感といったことなど、最初の受診のきっかけは何でもかまいませんので、いざとなったときに相談できるかかりつけ医を見つけておくのです。そして、発熱したときには保健所ではなくて、そのかかりつけ医に相談するのです。

 通常のクリニックでは発熱外来の枠をそれほど多くとれませんから、受診が困難になることはありますが、メールや電話での相談ならできます。実際、谷口医院に風邪症状で相談される患者さんに対しても、受診を促すことはそう多くはなく、たいていは「その症状なら数日間自宅で様子をみてください」という助言を行ったり、これまでの受診歴などを参考にして必要と思われる薬を送ったりする場合が多く、「受診してください」となるケースは少数です。この連載で繰り返し伝えているように「インフルエンザの大半は検査も治療も不要」であり、「風邪のなかで細菌性は少数であり、そのなかで抗菌薬が必要なケースはさらに限られる」のです。たいていの風邪は、安静、水分摂取、あるいは初期の麻黄湯(参考:「医師が勧める風邪のセルフケア6カ条」)で治ります。

 一方、新型コロナのPCR検査が必要と判断される場合は、医師が直接、保健所と交渉します。患者さんが自身で保健所の職員にお願いするより、医師が必要性を訴える方が、話がずっと早いのです。

電話相談だけで困らないことも多い

 もちろん、新型コロナ以外にも重症化する“風邪”はあります。なかには過去に紹介したように短時間で命を奪うものもあります(参照:「ワシントンの命を1日で奪った『死に至る風邪』」「まだまだある、危険な『死に至る風邪』」)。ですから「100%の自信を持って……」とまでは言えませんが、日ごろあなたを診ているかかりつけ医なら、電話再診だけでも重症度の見極めはできます。熱が出た場合、原因が新型コロナや「重症化する風邪」であることよりも、「普通の風邪」やインフルエンザであることのほうがずっと多いですから、多くの場合は電話だけでも困りません。場合によっては「発熱外来」に来てもらったり、保健所にPCR検査を依頼したり、あるいは大きな病院と交渉して入院の準備を進めたりといったこともできます。

 今のうちに何でも相談できるかかりつけ医を見つけておくことが、すでに始まっている医療崩壊の時代を生き抜く知恵なのです