人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず1(#えるどれ)

雲突く巨参(きょじん)。 天に舞う翼参(よくじん)。 なんかトゲトゲしてる鬼参(きじん)。 そして悪の化身、魔参(まじん)。 続きを読む
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以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー #えるどれ 過去のまとめは見やすいWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-07-27 21:11:15
帽子男 @alkali_acid

さて妖精の騎士の宿敵たる黒の乗り手は、人類を守る「財団」の拠点を破壊し、略奪を行った。 科学が生み出した空飛ぶ乗り物、飛行船「パスパルトゥー」号を我がものとし、工芸と魔法をもって風より速く天を駆けられるようにすると、世界各地を巡って奪った美術品をばらまいていった。

2020-07-27 21:13:29
帽子男 @alkali_acid

パスパルトゥー号の舵輪をとるのは盲目の黒海豹。両耳の当たりには伝声管が開いていて、外を取り巻く風の音を逃さず聞き取れるようになっている。 「んー…おちつくわー…ええ匂いのええ男のぎょうさん乗った船…気分ええわー」 「ヒコウセンノウタ!デキタ!」 頭には黒歌鳥が止まっている。

2020-07-27 21:16:44
帽子男 @alkali_acid

「ほんまあ?聞かせてやー!」 「イイヨ!イッショニウタオ!」 「歌うわー!お手本よろしゅう」 禽と獣は古い古い上妖精の言葉で喋り交わし、それぞれ高音と低音に分かれて見事に合唱する。姿形は滑稽だが、雅やかな歌いぶりは森の都の王子の如く。

2020-07-27 21:19:14
帽子男 @alkali_acid

船内の別の場所、工房と思しき部屋では、黒長虫と黒蜘蛛、黒蝙蝠という不気味な三匹が、小さな玩具を囲んで何か熱心に話し合っている風。 子供が持って運べる程小さな食卓と椅子が、これまた小さく細やかな絨毯の上に置かれ、この世のものと思えぬ麗しい乙女をかたどった人形が座っている。

2020-07-27 21:23:36
帽子男 @alkali_acid

「キキ!」 「クルルルル」 「………」 蜘蛛が手巾の四分の一もない綾な透かし織りの卓布をかけると、蝙蝠が、指先に載るほど小さな皿や椀、盃や深鍋などを並べる。 長虫はたださえ小さな目を糸のように細め、本物そっくりな模造の料理を一つ一つ盛り付けていく。

2020-07-27 21:26:36
帽子男 @alkali_acid

「キッキ!」 「クルル」 「………!」 不気味な三匹は何が楽しいのか、おかしなままごとをああでもないこうでもないと繰り返している。 周囲には人形が暮らすため玩具の宮殿の図面だの、おつきの九人の男騎士の素描だの、それぞれのお仕着せの意匠だのを描いた布帛が樹脂の枠に張り付けてある。

2020-07-27 21:28:51
帽子男 @alkali_acid

蜘蛛は時々長虫を甘噛みし、長虫は尾で蜘蛛の腹を撫ぜてやる。 蝙蝠はほかの二匹がじゃれる間、真剣な表情、といってはおかしいが、全体の計画を検証するように左右非対称な翼をばたつかせて、図面をあれこれひっくり返す。

2020-07-27 21:30:13
帽子男 @alkali_acid

はたまた別の場所。飛行船の主展望台では、破れ耳にちぎれ尻尾の老いた黒猫が、雲海を見晴るかす玻璃の大窓に身を預けたままうとうとと眠りについている。 そばには黒犬が伏せ、時折くんくんと小さな昼寝仲間の匂いを嗅いでは、安心したように耳を伏せてまた前脚の間に頭を入れる。

2020-07-27 21:33:08
帽子男 @alkali_acid

「ニャヘ…ニャヘヘヘヘ」 楽しい夢でも見ているのか、不意にだらしない笑いを浮かべる黒猫に、黒犬はぱちっと目を見開くと、ふんふんとまた鼻をうごめかし、尻尾を左右に打ち振る。 「クゥン…ピスピス…」 もうちょっと連れに身を摺り寄せようとし、まるで邪魔をしては悪いというように堪える。

2020-07-27 21:35:04
帽子男 @alkali_acid

はたまた飛行船の別の場所、運動室では尖り耳にくすみ赤みがかった肌をした双子の貴人が、縫いあがったばかりの新しい舞踏服を試すように、軽業じみた演武を披露する。 さらにもう一人筋肉隆々の大兵も、やはりまっさらな舞踏服をつけ、逆立ちの恰好で両足を風車の如く回し、激しい闘技を芸に変え、

2020-07-27 21:39:16
帽子男 @alkali_acid

それぞれの耳にだけ聞こえる歌に合わせ、鮮やかな連携を示す。 「ク・レ・ノ・ニ・ジ!」 「はっ!」 「せいっ!」

2020-07-27 21:40:30
帽子男 @alkali_acid

果たして三人は一体何に備えているのか、鍛錬に真剣そのものである。 「兄弟よ。百分の一拍ほど遅れたのではないか」 「そちらが速すぎたのではないか」 「そちらが合わせるべきだ。だいたい生命美術館でも、生き延び、いや死に延びろという指示に従わず」 「それはそちらだ」

2020-07-27 21:42:50
帽子男 @alkali_acid

「何度でもやればいいんだな!そうしてペドにもっと妖精の動きを教えてほしいんだな!」 いまだ山の如き筋肉を膨らせたままの青年が割って入る。 「ペドロスフコ殿。人の身でそこまで」 「もしや貴君」 「…次は…絶対に…クレノニジちゃんの後ろで踊るんだな!」 「その意気、打たれた」 「然り」

2020-07-27 21:46:15
帽子男 @alkali_acid

「ク・レ・ノ・ニ・ジ!」 「はっ!」 「せいっ!」 飛行船の運動室では次第に禍々しい邪教の気配が濃さを増しつつあったが、特に止めようとするものはいなかった。

2020-07-27 21:47:45
帽子男 @alkali_acid

さらに別の場所。厩舎を模した部屋に、翼ある駒、天馬が一頭、透き通った巨大な瓶に入ったまま置いてあった。 双眸はひどくどうでもよさそうに虚空を見つめていた。

2020-07-27 21:50:21
帽子男 @alkali_acid

さらにさらにさらに飛行船の奥まった一画、図書室では二人の少年が適度な距離を開けて座り、その年頃に似つかわしくないくらいに声も抑えてひそひそと話し合っていた。 「ウィストはたちどころに我が言葉を学べり」 「うん…何か…できた…」 「字も覚え始めたり」 「うん…何か…」

2020-07-27 21:53:09
帽子男 @alkali_acid

暗い膚に頭巾の男児ウィストは、滑らかな上妖精の文字を、黄の肌に糸のような目のダングは、一つ一つが迷路のように複雑な東の果ての文字をそれぞれ硬筆で蝋板に書いては見せ合っている。 「火」 「火」 「燃えるかたちをあらわすなり」 「燃えるかたち…」

2020-07-27 21:56:15
帽子男 @alkali_acid

「我が名の字はマユミの木なり」 「難しい」 「燃えるが如く赤く色づくなり」 「難しい…」 「ウンナは赤い葉喜ぶなり。三つの誕生祝いには押し葉を作れり!」 「ウンナさん」 「許婚なり。たぶんもう四つか五つ。誕生祝いできずは無念なり!」 「むねん…」

2020-07-27 22:00:58
帽子男 @alkali_acid

ワン・ダングは、生命美術館に囚われていた東の果ての民。何でも、天子の国と生薬の半島の国境にある山岳に古くからある家の子だそうな。 地所は深山幽谷に、古くから霊薬として珍重される人参が生えるため、二つの国の君主から代々の警護の任を与えられてきた。

2020-07-27 22:05:55
帽子男 @alkali_acid

「しかれど"財団"なる輩来襲せり。ワン氏は人参守りの任を果たさざるとて追いだそうとせり。抗えども銃には勝てず。一族皆討たれり…我は標本とて連れてゆかれり」

2020-07-27 22:08:53
帽子男 @alkali_acid

「みんな…」 「いろいろ尋問受けたり。拒めど針にで妖しき薬打たれり…秘密隠せず…悔しきなり」 「…ウィストも参界の秘密欲せしか?」 「い、いい…いいです」

2020-07-27 22:15:18
帽子男 @alkali_acid

参界(じんかい)。 ウィストが幾らダングから言葉を教わってもいまいち理解できない単語のひとつだ。 詳しく聞くのもまずい気がしてあいまいに流しているが、どうやら人参が生える場所であるらしい。 「参界の災い…人界にあふれぬか心配なり。財団なる輩、信用できぬなり」 「えーえっと…えっと」

2020-07-27 22:20:44
帽子男 @alkali_acid

黄の肌の少年の言葉に暗い膚の少年は考え込んだ。 財団。 人類の守護者。 超常の災厄をもたらす「遺物」をいち早く確保、収容、防護し、悪しき影響を世界に広げぬための秘密結社。

2020-07-27 22:22:00
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