お互いに戦術兵器や侵略方法が違うため、領地戦犯が起きる可能性が低いと思われていた『局地戦争特化女子』と『全面戦争特化女子』。だがとある局地戦争特化女子に対し白旗を振りかけていた男子の心が戦場となり、二つの特化女子がついに激突した。
2011-07-02 19:25:39文字数が多くなるため、今後は『全面戦争(full-scale war)特化女子』を「FW女子」、『局地戦争(a local war)特化女子』を「LW女子」と呼称する。
2011-07-02 19:26:16とあるほんのりイケメンが居た。彼は工学部で、それなりに優秀、ただし男友達の間では変態と知られていた。彼は趣味であるバンド活動や漫画収集をささやかに行いつつ、時々合コンやサークルの飲みに参加、バイトもそこそこ、という一般的な大学生。彼を仮に『サトシ』くんとする。
2011-07-02 19:27:46戦争の歴史は約1年ほど遡る。とある大学の軽音サークル。LW女子である山村貞子ちゃん(仮名)は新一年生のギタリストとしてそのサークルへと入り、新歓コンパでドラマーであるサトシくんに目をつけた。この時サトシ君にはお付き合いしている女性はおらず、いわゆるフリー。
2011-07-02 19:28:50貞子ちゃんはまずサトシ君の好きな音楽や漫画を調べ上げる、いわゆる諜報によって侵攻作戦を開始した。『飲み会での所作』や『かわいい話し方』などの全面戦争特化女子の得意技を用いず、まず諜報から始めるというのがLW女子の特徴であることから、恐らく貞子は訓練されたLW女子だったのだろう。
2011-07-02 19:30:18さらに貞子ちゃんは多少なりとFW女子の素質も持ち合わせていた。完全に水面下で行動するのではなく、飲み会等の度にサトシ君に近づき、彼から直接情報を仕入れるという正面きっての外交を行い、それとなく自分の要望、即ち好意を仄めかすという外交政策を採った。優秀な外交官である。
2011-07-02 19:32:22ただし、貞子ちゃんの外見――いわゆる『立地』はあまりよくなかった。彼女は控えめに言っても美人の類ではなく、戦術兵器が地形効果の補正を受ける事は無かった。だが彼女は外交努力によりサトシ君の信頼を勝ち取り、三ヶ月ほど経った時には宅飲みに招かれるほどに。
2011-07-02 19:34:50ここでFW女子である前田敦子(仮名)が登場。彼女はその頃サトシ君が参加した合コンにて彼を気に入り、連絡先を交換していた。学部こそ違えど同じ大学ということもあり、サトシ君の参加するバンドのライブを見に行くなど、FW女子的な積極的外交を執り行っていた。
2011-07-02 19:35:56生粋のFW女子である彼女は『レモンを搾る時皆に聞く』『料理や皿のとりわけ』『肯定気味の相槌』『紙ナプキンをグラスの下に敷く』『メールには適度な絵文字』『髪はゆるふわ系』『ナチュラルメイク』『ただしスッピンを見たヤツは居ない』等々の完全武装だった。
2011-07-02 19:37:55さらに敦子ちゃんは『立地』にも恵まれていた。整った顔立ちとほんのり染めたゆるふぁァなヘアスタイル、いい感じのおっぱいなど、彼女の放つ戦術核は凄まじい威力を持っているだろうと予測出来る。あんまり面食いでない僕も写真を見たときは「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」となった。
2011-07-02 19:39:03だが、女子間で流布されている彼女の性格は、予想通りというかやっぱりというか、良い噂とは言えなかった。高校時代から彼女を知る友人は、『彼女は戦術核のスイッチにいつも手をかけている』『敦子の引き金は軽い』『流し切りが完全に入ったのに……』と語る。
2011-07-02 19:40:41そして貞子ちゃんとサトシ君がバンドを組み、さらにその打ち上げに敦子ちゃんが参加したことで開戦の火蓋が斬って落とされた。飲み会での立ち回りは敦子ちゃんが一枚以上上手、だがその他音楽系の会話であれば貞子ちゃんが有利と、戦線は膠着状態に見えた。
2011-07-02 19:43:17しかし、弱火のフライパンに乗せたベーコンからジワジワと油が出るように、戦況は刻々と姿を変えて行く。貞子ちゃんは持ち前の学習能力とFW女子の素質を使い敦子ちゃんの動きを学習、対する敦子ちゃんは貞子ちゃんの会話からサトシ君が食いつくキーワードを抽出しつつあった。
2011-07-02 19:44:03さて、この時サトシ君の心境としては、実のところ貞子ちゃんが好きになりつつあった。バンドでのノリもさることながら、会話が特に楽しい。外見はそうでもないけど、一緒に居たら楽しいだろうなぁ程度の感情は持っていた。
2011-07-02 19:45:21だが、この飲み会で敦子ちゃんは戦略兵器『ちょっとしたボディタッチ』を解禁。『酔っぱらって赤らめた顔』という追加効果と『ワガママボディ』という地形効果も相まって、主に下半身的な意味でサトシ君にはこうかはばつぐんだった。何を隠そうサトシ君、童貞だったのである。
2011-07-02 19:46:47やがて飲み会が終了、第一回戦は無事収束。敦子ちゃんの戦略兵器『セクロス』は発射されなかったものの、全体の印象は彼女に軍配。敦子ちゃんはそれで気を良くしたのか、なんとキーボードとして軽音サークルへと参加。敦子ちゃんの物量を生かした猛烈な攻勢に、貞子ちゃんは段々と不利になっていく。
2011-07-02 19:49:46飲み会の中でキーワードを取得していた敦子ちゃんは、暗号文を解読するかのごとくサトシ君の好みをガンガン調査・解明。持ち前の立地の良さから地形効果も充分に受け、敦子ちゃんのサトシ君攻略は時間の問題と周囲の人々は思い始める。このとき既に開戦から4ヶ月ほど経過。サトシは奥手だったのだ。
2011-07-02 19:52:06だが、貞子ちゃんは思い切った戦法に出る。外交をすっぱり止めてしまったのだ。今まで盛んな国交のあったサトシ君は驚き、貞子ちゃんへの好意も相まって非常に情勢が気になった。理由を聞こうとコンタクトを取っても、のらりくらりと躱される。沈黙は金なりという言葉を、貞子ちゃんは理解していた。
2011-07-02 19:54:391ヶ月ほど経ち、サトシ君は貞子ちゃんを呼び出した。何か気になる事でもあるのか、俺は何か悪いことしたのか、と。貞子ちゃんは正直に、敦子ちゃんとサトシ君が仲良くなっていくのが耐えられない、と答えた。サトシ君感激。完全な外交勝利である。
2011-07-02 19:56:52だがしかし、敦子ちゃんの攻勢は終わらなかった。『まだだ、まだ終わらんよ!』『相手を完膚無きまで叩き潰すのが戦争である』『私はまだ本気出してない』と言わんばかりに、貞子ちゃんとサトシ君が付き合い始めても彼女の猛攻は続いた。そしてあろうことか、サトシ君はそれになびき始めたのである。
2011-07-02 19:57:46比較的真面目(だが変態)な彼が、何故なびいたのか。敦子ちゃんの噂が黒いものだとは知っていたが、彼の前では非常に良い子。そうすると噂は僻みや妬みによるもので、彼女は被害者なのでは、と考えはじめていた。完全に術中である。周囲の不評すら戦術の一部にする辺り、訓練されたFW女子だった。
2011-07-02 19:58:44さらにLW女子に見られる傾向として、一旦領地をすべて掌握すると、そのまま幸せに浸って安心しきってしまう。貞子ちゃんはアフターケアを忘れていた。嫁力が足りない! そしてこの隙を見逃す敦子ちゃんではなく、ついに彼女は戦術核のスイッチを押した。開戦から約8〜9ヶ月のことである。
2011-07-02 19:59:56その後はもう泥仕合である。戦術核をぶっ放した敦子ちゃんの噂は一層黒くなり、貞子ちゃんはそれを甘んじて受け入れたサトシ君を糾弾。そう、実は貞子ちゃん処女。対するサトシ君の初着弾は敦子ちゃんのそれだった。最悪である。これによりこの戦は後に『昼ドラ戦争』と呼ばれるようになった。
2011-07-02 20:02:54