人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず3(#えるどれ)

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前回の話

まとめ 人参があるなら馬参や狼参そして竜参、神参もあるはず2(#えるどれ) ## シリーズ全体のまとめWiki https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 3976 pv 3

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のまとめは見やすいWikiからどうぞ! wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-08-05 20:42:01
帽子男 @alkali_acid

人参(にんじん)が支配する地「参界(じんかい)」。 そこでは異形の変種である魔参(まじん)が、恐るべき鬼参(きじん)や狼参(ろうじん)などを育て、大軍勢を蓄えつつあった。 目的は参界の覇者である神参(しんじん)に挑戦するためだ。

2020-08-05 20:43:51
帽子男 @alkali_acid

魔参は、みずからの配下を育てるために人界(じんかい)から人間をさらい、畑に植えて苗床としていた。 人界と参界の境を守るべき二つの家、ワン氏とヒ氏はともに不幸にあって滅びたが、それぞれの遺児は今、参界の片隅で再会を果たした。

2020-08-05 20:46:02
帽子男 @alkali_acid

赤髪巨躯の乙女ヒ・ウンナ、糸目矮躯の少年ワン・ダング。許婚同士でもある二人は互いの無事を喜びあうのもつかの間、ワン氏の至宝「玉兎の裘(かわごろも)」を巡って争うことになったのだった。 「裘をまとい続ければウンナは兎となったまま戻れぬなり!我が許婚にさなる目に合わせられぬ!」

2020-08-05 20:48:33
帽子男 @alkali_acid

ダングが息まけば、ウンナはやり返す。 「今更なんだ!ダングさ…ダングはずっといなかったのに!俺はこいつで戦ってきたんだ!兎になって人参野郎どもを齧り殺してきた。兎のままだって構わない!畑に植えられたヒ氏とワン氏の皆を取り戻せるなら!」 「ならばその役目はこのダングが担う!」

2020-08-05 20:50:15
帽子男 @alkali_acid

乙女は蒼白となってからさらに怒り散らす。 「だめだ!ダングは十五年前と変わらない小さいまんまななのに!そんな体で毛皮をきて兎になったって痩せ人参だって食えるもんか」 「それでも裘はワン氏の宝!ワン氏がなさねばならぬ仕事なり!」 「もう俺のだ!」

2020-08-05 20:51:58
帽子男 @alkali_acid

激しく言葉を交わす二人のかたわらで、肝心の裘を抱えているのは、別の人物。なぜか兎の着ぐるみをまとった暗い膚の少女とまがう少年である。 「あー…えー」 非常に居心地が悪そうだ。赤髪の乙女はきっと振り返る。 「いい加減返せ!それでダングと一緒に人参のいないところにいけ!」

2020-08-05 20:53:36
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト!裘は拙に渡すべし!」 糸目の少年が腕を差し伸べる。 ウィストと呼ばれた仔は双方を見比べておどおどする。 「そのう…いいですか?ちょっと…話しても…」

2020-08-05 20:54:55
帽子男 @alkali_acid

「聞くもんか!」 「ウンナ!どうかウィストの言葉を耳を傾けられたし」 「…っ…一度だけだぞ」 巨躯と矮躯がともどもにあぐらをかくと、着ぐるみの少年はまず背負った合切袋から、やわらかい絹のような織布を出して、乙女にふわりと放つ。生きもののように宙を泳いだ帛(ぬの)は、

2020-08-05 20:57:18
帽子男 @alkali_acid

剥きだしの胸元をおおった。生地は濃い緑色で、檀の葉の模様が織り込まれ、木漏れ日をやわらかく散らす光沢がある。 「…なんだ!」 「あのう…風邪をひくかもしれないので」 着ぐるみの男児がへどもと答えると、糸目の男児がかすかに瞬きして述べる。 「ウンナの髪と目によく似合うなり!」

2020-08-05 21:00:09
帽子男 @alkali_acid

すると赤髪の娘は大きな鼻息をひとつ吐いて、器用に布を身に巻き付ける。 「話せ」 「あのう…はぇ…この…兎の毛皮には…強い…の、呪いが…かかっています…とても強い…」

2020-08-05 21:01:28
帽子男 @alkali_acid

少年は指で臙脂の裘をなでながら言葉を探るようにして続ける。 「何代も何代も重ねられた…呪い…で…」 不意に漆黒の双眸が開き、どこか無限の遠くに焦点を合わせる。 「多くの人参を食らい、その霊気を糧とし…多くの人間の肉の器をよりましとし…」

2020-08-05 21:04:02
帽子男 @alkali_acid

「代を重ねるごとに呪いは濃く重くなり、今や自ら餌食を求めるが如くふるまう…もし…ワン氏とヒ氏の世継ぎ…どちらか一方が兎になりはてたとすれば…もう一方も呪いからは逃れがたい…」 東の果ての言葉で滔々と語るウィストに、ウンナは身じろぎする。 「なんだと…財団の奴等そんなことは…」

2020-08-05 21:06:44
帽子男 @alkali_acid

「ウンナ!財団は信用できぬ輩なり」 「解ってる!だけどこの…ウィストって女は信用できるのかよ!変な恰好だし」 「ウィストは天女なり!」 着ぐるみの少年は咳払いする。 「男です」 赤髪の乙女は疑わしげだ。 「どこが!」 「男です」

2020-08-05 21:09:26
帽子男 @alkali_acid

ウィストは平常に戻ったようすで毛皮を撫でる指を止めた。 「あのう…とにかく…よくないものなので…ほかの方法を…考えた方が…いいと思います」 「ほかに方法なんかない!人参を齧り殺せるのは兎だけだ!」 「え…えっと…役所に相談して…偉いひとに…どうにかしてもらう…とか」

2020-08-05 21:10:56
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト。ヒ氏とワン氏こそが天子と生薬の半島の国王より参界を見張る任を受けしもの」 「そうですけど…あのう…やっぱり…いったん帰った方が…」 なおも暗い膚の男児がのろのろと説得に当たろうとするところで、木立の向こうから悲鳴が聞こえた。 中年男の。

2020-08-05 21:12:55
帽子男 @alkali_acid

ウンナはまず布地をはぎとって裸身に還ると、兎のように跳ねて声のした方へ駆けていく。 ウィストとダングも慌てて後を追った。

2020-08-05 21:14:15
帽子男 @alkali_acid

木々の間を抜けると、兎の着ぐるみの中年が胡桃の大木によじ登ろうとしている。 そのすぐ下では土を掘り返して無数の人参、いや土竜参(どりゅうじん)というべきか、地の底を進んできた根菜が頭らしき部位を突き出していた。

2020-08-05 21:17:39
帽子男 @alkali_acid

周囲をからくり仕掛けの小さな天馬が激しく飛び回って、はばたいて脅し、蹄で蹴ってはひるませようとするが、度竜参には効き目が薄い。 「毛皮をよこせ!」 ウンナが吠える。 だがウィストはためらった。

2020-08-05 21:19:31
帽子男 @alkali_acid

「ウィスト!ダング!そして…おお!見つけたのだな赤兎を…」 着ぐるみの中年は必死に木登りしようとしてからまたずり落ちる。 「急げ!土竜参はただの偵察役だ!こいつらは地中に伸びる細い根で別の人参とつながっている…我々が見つかったとなると…」

2020-08-05 21:21:05
帽子男 @alkali_acid

話半ばまで聞いたところで、着ぐるみの少年ははっと別の方角に視線を向けた。 遅れて足元に地響きが伝わってくる。 「く…まさか…完成していたというのか…」 兎男は震えながら同じところを見やる。

2020-08-05 21:23:04
帽子男 @alkali_acid

「培養巨参(きょじん)…」 生い茂った葉と枝を押し分けて、三階経ての建物より大きな根菜があらわれる。三本に分かれた足の役割をする根と、四本の腕の役目をする根。 だが頭部にあたる部分から生える緑の葉ぶりはどこか人参と異なる。何より土まみれの表皮は奇妙に白い。 「人参ではない…だと」

2020-08-05 21:25:26
帽子男 @alkali_acid

天下の食通のために希少な食材を仕入れる珍味猟師として、数多くの菜のものを目にしてきた男をもってしても、想像を超えた存在だった。 「大根…だというのか…」 そう。人参族が呼び寄せたのは、大根だった。

2020-08-05 21:26:55
帽子男 @alkali_acid

白っぽくつややかな巨躯の一部にはより小さな根菜が食い込んでいる。どうやらそちらは人参だ。まるで寄生しているかのようだ。 「そうか…何の変哲もない大根も…人参が根を張ることで滋養を与えられ…人参の如く自ら動き回る力を得る…これを作り出したのが魔参だとすれば…何という…」

2020-08-05 21:29:53
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