ウェイティング・フォー・マイ・ニンジャ #3
「誰だい、その嬢ちゃんは」ザクロと対面で座るキリシマは、油断ない視線を奥のカウンター席に座るヤモトに向けた。ヤモトはワンピースの上にライダースジャケットを着ている。店に残されていた服をザクロが与えたのだ。「いいのよ、あの娘は。アタシが雇った助手!」「助手だァ?」
2011-07-05 17:34:45「最近、腰がしんどいの。肩も凝っていけないわ。温泉に行かなきゃ」ザクロは笑った。「いつまでも一人じゃタフなのよ、この仕事」「タフっておめェ……」キリシマは茶封筒をテーブルに置いた。「いいのか」もう一度ヤモトを見る。ザクロは頷いた。キリシマは封筒から複数枚の写真を取り出し、広げる。
2011-07-05 17:49:21「……」写真を見たザクロの眉間に皺が寄った。ヤモトを手招きする。「アータもいらっしゃい。こちら、キリシマ=サン」ヤモトは頷き、歩いてくるとキリシマにオジギした。「ドーモ、はじめまして。ヤモト・コキです。宜しくお願いします」ザクロに促され、隣の椅子に座る。
2011-07-05 17:58:59写真を前にしたヤモトを見、キリシマはザクロに何か言いたげにする。「いいのよ」ザクロは言った。「生き方を決めるってこういう事なの」「うん」ヤモトは頷いた。「ま、それに、この娘は慣れてるっちゃ、慣れてンのよ……」ザクロの目がやや翳る。「うん」
2011-07-05 18:09:25猟奇的なオイラン惨殺体の写真を挟んで、三人は向き合う。「キリシマ=サンはニチョームの自治会長なの。で、こういう問題ゴトを知らせに来るってわけ」ザクロは写真の一枚を手に取った。「この娘たち、ニチョームの娘じゃないわよね?」「いかにも」キリシマは頷く。
2011-07-05 18:18:00「こっちは、やった側だ」「ンマ!」ザクロは口を手で押さえ驚いた。「やった側?ブッダ!そんな事!」「ああ、正確には、容疑をかけられて収監されたって事だ。証拠は何もねえ」「ちょっと……クソマッポのいつものアレ?誰が引っ張られたの」「マジロ=サンだ」「マジロ=サン?ブッダアスホール!」
2011-07-05 18:23:08ザクロは激昂して腰を浮かせた。「あのウニも割れないベイビーキャットが猟奇殺人!?そんな度胸あるわけないじゃないのよ!」「そう、そうなんだ。当たり前だがアリバイもあるんだ。あいつはその時カブキチョのホテルでボーイフレンドとよろしくやってた……ええと」キリシマはヤモトを見て言い淀む。
2011-07-05 18:34:14「とにかくアレだ、アリバイを認めるどころか、それなら共犯だ、ってよ。カップルごと、二人ひっくるめて逮捕されちまったんだよ」「ザッケンナコラー!」ザクロはテーブルを両手で殴り、バネじかけめいて立ち上がった。ヤモトは口を開けてザクロを見上げる。ザクロは息を吐き、座り直した。
2011-07-05 19:03:05キリシマはザクロの激怒に慣れているのか、腕組みして思案しながら、「まあ、マッポは現状、そんな有様でよ」「きっと留置場で泣いてるわ、マジロ=サン」「俺たちとしちゃ、潔白を証明する動かぬ証拠ってやつをアホどもに突きつけてやらにゃいかんのだ」
2011-07-05 19:08:17「証拠」ザクロは腕組みして、「要するにその真犯人のクソサイコ野郎を捕まえて、締め上げてやりゃあイイってんでしょ」「ま、そうなるわい」「後はどうクソ野郎を探すかって事だけど……」ザクロは写真をボンボリの明かりにかざしながら、「被害者は、この娘たちで全部?」「そうだ。一週間で十人」
2011-07-05 20:09:36「派手ねぇ」「被害者はみな女だ。路上マイコやマッサージ嬢を路地裏で狙うのさ。で、見ての通り、内臓を引き摺り出して殺す」ザクロは目を細めた。「……このまま大人しくなると思う?」「ありえねぇ」「ありえないわよねぇ」ザクロは椅子に寄りかかった。
2011-07-05 20:15:17「……なァに?」ザクロはヤモトが自分をじっと見ている事に気づいた。「おびき寄せて捕まえればいいよ」ヤモトは言った。「おびき寄せる?」ザクロは瞬きした。「嬢ちゃん、アンタそりゃあ……」ヤモトの言わんとする事を察したキリシマが咎めようとした。ヤモトは力強く頷いた。
2011-07-05 20:27:48「アータね、いくらアータが……」ザクロは言いやめ、頭を掻いた。ヤモトはもう一度頷いてみせた。そして付け加えた。「心配は、その……アタイなんかに犯人が寄って来るのかって事だけど」「ま、被害者を見るに、犯人の趣味はザクロの姐さんよか、嬢ちゃんだろう」「警棒で叩くわよ」
2011-07-05 22:43:49「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャスレイヤーのダーカイ掌打がライノセラスの胸板の真芯を捉える!硬質化したニンジャ装束が波打ち、衝撃波が装甲内部へ浸透。ライノセラスの心肺に直接ダメージを与える!「ゲ、ゲボーッ!」血と吐瀉物を噴水めいて吐き散らすライノセラス!
2011-07-05 23:34:31「バ、バカなババッアバッゲボーッ!」狭い路地を後ずさるライノセラス。その後退にともなってアスファルトの地面に吐瀉物の筋が出来る。ニンジャスレイヤーはツカツカと歩み寄る。ライノセラス自慢のダイノソー・ホーンは既に根元で折り取られている。「なぜシルバーキーとアバッ……」
2011-07-06 01:15:45「ハイクを詠めライノセラス=サン」「だ、だが既に貴様がネオサイタマ入りしている事は周知となったぞニンジャスレイヤー=サン、シルバーキー=サンもろとも、アバッ……」シルバーキーはニンジャスレイヤーの後ろでテレパス・ジツの構えである。クローンヤクザ達に精神攻撃をかけているのだ。
2011-07-06 01:18:47「イ……イヤーッ!」「「「「「「「「「グワーッ!」」」」」」」」」頭上で悲鳴のハーモニーが聞こえ、まとめてダークスーツのクローンヤクザ達が泡を吹きながら集団自殺めいて落下してくる。次々に地面に頭から落下、トマトめいて連続死!
2011-07-06 01:21:05「ウオ……ウオオオーッ!」ライノセラスは死力を振り絞りニンジャスレイヤーへ掴みかかろうとする!自爆する腹積もりなのだ!「イヤーッ!」だがニンジャスレイヤーは無慈悲な前蹴りをその顔面に叩き込む!「グワーッ!」踏み込み、さらに中腰姿勢からのポン・パンチ!「グワーッ!」
2011-07-06 01:28:36ライノセラスは回転しながら吹き飛び、2階の高さの「四季報アルヨ」と書かれたネオン看板に突っ込む!バチバチとネオン火花が飛び散り、鎮魂歌めいて鳴り響く。感電したライノセラスの両目から黒煙が噴き上がる!「サ……サヨナラ!」ネオンライトもろともに爆発四散!
2011-07-06 01:30:39「とりあえずこの区画は一掃だ、今のところ」シルバーキーが告げた。相当な消耗が見て取れる。「ニンジャソウルの接近も感じない」「……」ニンジャスレイヤーは行く手を見やった。目的地まであとどのくらいかかるだろう?ライノセラスの死に際の言葉は脅しではあるまい。
2011-07-06 01:34:50路地を抜け、二人はけたたましい宣伝音楽とネオンライトの渦の中へ飛び込んだ。上空を行き交うマグロツェッペリン、特許カブキ・ホログラフィ看板、「アバタ」「モシモシだ」「お家」「ふかしポテトでも」ネオサイタマ的な巨大ネオン看板の数々、ただし他の地域とは比較にならぬほどに高密度で極彩色。
2011-07-06 02:28:14編笠をかぶった行商人にサラリマン、サイコビリー、宗教者、パンクス、ペケロッパ、オイラン、ユーレイ・ゴスらが無関心な空気をまとって縦横に行きかい、屋台ではバイオイカがケバブされ、清掃業者が路上の死体をゴザで包んでリアカーに載せていく。
2011-07-06 02:33:24悲鳴も歓声も、発せられた瞬間に大音量のノイズ音楽やタフガイが背負うラジカセのビートに溶解、下水の一滴めいて沈む……ここが、ネオカブキチョだ。東京が滅び、人工島サイタマが首都機能をなかば呑み込んだ後も、この貪婪の街はかつて以上の猥雑と混沌をたたえ、秒単位で新陳代謝を繰り返す……!
2011-07-06 02:38:26