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以下本編
この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のまとめは見やすいWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/
2020-09-02 20:39:31飛行船の応接間で、妖精の騎士の宿敵たる闇の化身、黒の乗り手は、眷属として蘇らせた八匹の黒き獣に囲まれていた。 獣の一匹、黒猫が、黒馬のぬいぐるみに噛みつくと、相手はみるみる大きくなって四本の脚ですっくと立つ。
2020-09-02 20:42:07"どうもまた恥ずかしいとこを見せちまって" 黒馬が声なき声でそう謝ると、黒の乗り手はそばへ寄って首を抱いた。 「苦しくない?お父さん」 "別に苦しかあねえんで。ぬいぐるみになってる間は、ただちょいと眠くなるみてえなもんでさ"
2020-09-02 20:43:34獣の主たる暗い膚に頭巾の少年は、しかしほっそりした腕を眷属の太い頸に回したまま離さなかった。 「そう…」 "さてと、どこまで話しましたっけねえ" 「お父さんの中に…黒の指輪…呪いのおおもとが隠してあるの?」 "見抜かれちまいましたかい。ミチビキボシの兄さんあたりが察しをつけなすって?"
2020-09-02 20:46:14また別の眷属である黒海豹が、左右に転がりながら鰭で太ましい胴をぴしゃぴしゃ叩く。 「ワテ。隠し事してもあんまええ結果にならん思うわ」 "するてえと。あと一つの指輪の行方もぴんと来てなさるんで" 「んー。あてずっぽうやけど、ウィストん中にあるかもしれんて話したわ」 "大当たりでさあ"
2020-09-02 20:48:39黒馬は少年の抱擁に心地よさそうに目を伏せてから告げる。 "重てぇもんを持たせちまって" 「ううん。ぜんぜん気付かなかったし」 黒海豹は髭をひこひこと動かしながら横合いから口を挟む。 「ウィストん中にある白の指輪の方は、ヤミノカゼん中にある黒の指輪が目覚めん限り悪させんのとちゃう?」
2020-09-02 20:52:28"一応そのはずでさ。あとは…" 「仙女はん」 "また大当たりでさ" 「ほわー。ヤミノカゼらしゅうよう考えたわ。ワテと、指輪作ったおとーはんと、アケノホシの知恵集めてもそうそう解けん謎やわ」
2020-09-02 20:55:02すると離れたところで聞いていた黒蝙蝠が非対称の翼を畳む。 "ヤミノカゼは予よりも指輪に精通しているようにさえ思う" さら別の場所で黒犬はだらりと舌を出す。 "僕はたいして何もしてない。ミチビキボシはほとんど独りで謎を解いたよ"
2020-09-02 20:57:36黒馬ヤミノカゼは鼻息を吐くと、首を下げて前へ進み、黒の乗り手ウィストを長椅子に押し戻してまた座らせた。 ”そいじゃこっから先は隠し事はなしとしましょうや。といっても指輪が目覚めて何が起きるかは、手前にもきちんと解っちゃいねえんで…”
2020-09-02 21:00:20騎獣は飛獣を振り返る。 "指輪をこさえたチノホシの兄さんに教わりてえとこで" チノホシは羽搏いて応じた。 "もはや九つの指輪は予の作ったときのままではないが…できる限りやってみよう。恐らく、ウィストが黒の指輪をはめ、真に黒の乗り手となれば歴代の誰よりも強大な力を発揮する…加えて"
2020-09-02 21:03:46"分身(わけみ)である八つの指輪も力を増すだろう" 「どうなるの」 ウィストはヤミノカゼの鬣をくしけずりながら心配げに問う。 "ヤミノカゼが馬になる前、クモの裁縫の技でこしらえたぬいぐるみは指輪の入れ物、よりしろとしてよく働いたが、もはやウィストの魔法の助けがあっても耐えきれまい"
2020-09-02 21:06:15黒蜘蛛のクモが糸にぶらさがりながら声なき声で口を挟む。 "昔のこなたであれば、もっとよいものを仕立てられたのじゃ" "しかり。しかし、いずれにせよ元は命なき器に我等の霊気を満たしておくのは限度がある…いや、例え生きた肉の器でも支えきれまい…となれば、我等の霊気はぬいぐるみを離れ"
2020-09-02 21:09:04黒蝙蝠は飛び立つと、黒の乗り手の左肩に止まった。 "かつてそうであった如く、指輪とともに当代の黒の乗り手の体に宿るのだ" 「はぇ…」 "心地よいものではないぞ、一つの体に九つの霊気" 「別にいいけど…チノホシ達なら」 ウィストはチノホシの首の付け根を指でくすぐってやりながら返事をする。
2020-09-02 21:11:51頭巾の仔がこだわらず受け入れる気持ちを示したのに対し、八匹の獣はそれぞれ思いがあるようだった。 「んー。子孫の体をのっとるみたいのあんま好かんわ」 「アタイ、ウィストトイッショ、タノシイ!ケド、ウィストノカラダ、ウィストノモノダシ」
2020-09-02 21:14:50黒歌鳥のホウキボシがウィストの被る覆布に降り立つ。 "オラ起きてるとすぐ腹空くだで、ウィストさしんどくねえだか" 細紐のように小さく縮んだ黒竜オオグイは尋ねつつ、頭巾の内側にもぐりこむ。
2020-09-02 21:16:57"死人占い師の霊気なんか、背負いこんでほしくはないな" うそぶきつつ黒犬アケノホシは膝元に蹲る。 黒蜘蛛クモは袖に入り、黒海豹ミチビキボシは妖精靴の爪先に顎を載せる。黒馬ヤミノカゼは黙って目の前に侍る。
2020-09-02 21:21:21獣の最後の一匹、黒猫カミツキだけは、主のそばへ近づこうとはしなかった。 「カミツキ…何を…気にしてるのか教えて」 闇色の少年が呼び掛けると、小さな殺し屋は牙を剥いた。 "俺は…あの女を見ると抑えが利かん"
2020-09-02 21:23:17「ダリューテさんのこと?」 "そうだ。だから俺が、お前達皆を呪いに駆り立てて来た…今度もそうなる" 「だ、大丈夫…ちゃんと我慢できる」 "ウィスト。お前は辛抱強い。狩りの獲物や戦の敵を待って何日も野に伏す、牙の部族の戦士にふさわしい。それでも"
2020-09-02 21:30:11黒猫は伸びをした。 "俺は…お前を使って、あの女を見つけ、捕え、つなぎとめたいと願い、そうするだろう" 「うん…うん」 少年は胸を高鳴らせながら力強く頷き、やがてあわててかぶりを振った。 「だめ」 "ああ"
2020-09-02 21:32:45"父さんだけじゃないよ。だって僕は指輪…兜をかぶる前からダリューテさんが好きだったし" 黒犬が首をもたげる。 "あたいだって!あたいが一番仙女様が好き!" 黒歌鳥が囀る。 "予は…ヒカリノカゼをただ呪いのためだけに愛したと思ってはおらぬ" 黒蝙蝠が和す。
2020-09-02 21:34:41「んー。皆女のひとにあんま入れ込むとええことないで…その点ワテはアンググがむちゃでかい釜の形しとった頃から相棒やったし」 黒海豹が自慢たらたらに話すと、黒竜も持論を述べる。 "オラ。薄焼菓子ちゃんの肉も皮も涙も汗もほかのもんも皆好きだ。呪いでなくて、ちゃーんと味さ好きだで"
2020-09-02 21:38:03"ダリュはこなたのものじゃ!父(とと)様も認めたではないか!こなたの作る服が一番似合うのがダリュなのじゃ!" 黒蜘蛛が興奮して虚空に銀の糸で妖精の乙女の似姿を描き出す。すると黒馬は不思議な絵の入った巣に鼻息を吹き付けていななくように笑った。
2020-09-02 21:40:39"正直。呪いがあろうとなかろうと、手前にとっちゃ、一番の棋敵でさあ" ウィストは膝に手を置いたまま首を縮める。 「いいな…」 と小さく呟きつつ。
2020-09-02 21:41:55カミツキは千切れ尻尾を振ってうなった。 "余計に悪い。お前達が全部ウィストの中に入れば呪いが蘇ろうと蘇るまいと抑えがきかなくなるぞ。ヤミノカゼの時でさえ…" "あん時ゃカミツキの親分も頼りにならなかったんで" 「ヴ」
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