人間の大戦と鏡の向こうの妖精の国1(#えるどれ)

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以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のまとめはWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-09-07 21:05:10
帽子男 @alkali_acid

狭(はざま)の大地。 かつて妖精や小人や悪鬼が暮らし、今は人間のものとなった世界。 それぞれの時代に繁栄を謳歌した種族は、いずれも必ずその手に武器をとり、領土や財産を守りあるいは奪い、勲(いさおし)や誉(ほまれ)とともに恨みと憎しみを積み上げてきた。

2020-09-07 21:10:24
帽子男 @alkali_acid

新たな戦が始まろうとしていた。 とりわけ血を好む世界の北西域で。 暗い膚の民を擁し、三日月の教えを崇める東方の大国「三日月の帝国」と、明るい肌の民を擁し、唯一にして大いなるものの教えを崇める西方の大国「双頭の風鷲の帝国」。 双方は小さな属州や属国を挟んで対峙し、覇権を争ってきた。

2020-09-07 21:14:35
帽子男 @alkali_acid

もはや光の諸王も闇の女王もなく、神々は死すべきさだめのものたちを駒の如く動かしてはいなかったが、しかし自らの主となった人間は、それぞれの崇めるべき偶像を作ると、以前よりもさらに激しく、兵士を死地に送り、略奪と虐殺、飢餓と荒廃をもたらしていた。

2020-09-07 21:17:19
帽子男 @alkali_acid

東西二つの帝国の衝突はこれが初めてではなかった。 三日月の旗が西方を蹂躙し、双頭鷲の都までも包囲したこともあれば、 双頭鷲の旗が逆に東方深くに攻め込んだこともあった。 両帝国の間に横たわる国々は常に蹂躙の憂き目に遭い、平和は絶え、剽悍で獰猛な気風が培われていた。

2020-09-07 21:24:57
帽子男 @alkali_acid

やがてそれぞれの帝国の全盛期が過ぎ去ると、それぞれの皇帝は、間にある属国や属州を操り、互いに謀反をそそのかし、蜂起を促した。 わけても三日月の帝国の本土から黒い海を越え北方に広がる「寒し野」と呼ばれる一帯は、東方と西方の教えが混じりあい、権謀術数の渦巻く地だった。

2020-09-07 21:28:06
帽子男 @alkali_acid

かつて双頭鷲の帝国は、属州の一つで起きた蜂起を鎮圧した際、捕虜とした叛徒を助命するかわり、凍てつく風吹く寒し野で三日月の帝国と戦うよう強いた。 叛徒の部隊は勇猛だったが、鷲の帝への忠誠はなく、派遣中に再び故郷で蜂起があったと聞くや、月の帝に降伏した。

2020-09-07 21:32:46
帽子男 @alkali_acid

月の帝は叛徒の部隊を手厚くもてなすと、十分な軍資と軍備を与えて故郷へ送り返した。 属州を守る鷲の見張りは厳しかったが、西方の別の大国「戦斧の共和国」が手引きをした。実は共和国と叛徒の部隊は言葉や習わしが似通い、信仰の上でも同じ宗派であった。 さらに斧と鷲も西方の覇権を競っていた。

2020-09-07 21:37:17
帽子男 @alkali_acid

敵の敵は味方。鷲と東西からはさむ形で、斧と月は手を結んだのだ。ところがここにさらに別の大国が漁夫の利を求めて入り込んできた。 古く海の都に源流を持つ連合王国。連合王国は共和国と、南方や東方の植民地の支配をめぐって衝突を繰り返していた。

2020-09-07 21:40:03
帽子男 @alkali_acid

旗は一角獣と獅子である。 双頭鷲、三日月、戦斧、一角獣と獅子。それぞれの大国は互いの野望を満たすため、より小さな無数の国々を巻き込んで、民と民の対立をあおり、恨みと憎しみをさらに掻き立て、積み重ねた。

2020-09-07 21:42:29
帽子男 @alkali_acid

さて叛徒の部隊はさまざまな妨害と援助を受けながらついに故郷の独立を勝ち得たが、肌の色も信仰も異なる三日月の帝国の支援を受けたのを快く思わぬ一派がいた。 この一派に鷲の帝は密かに接近し、修好のために訪れた月の皇子を暗殺させた。

2020-09-07 21:44:51
帽子男 @alkali_acid

すぐに暗殺の一味とされる集団は捕まったが、連座して多くの無辜の民も摘発に遭い、拷問や責苦を受けた。その中には鷲の民もおり、鷲の帝はこれを口実として独立を踏みつぶすべく再び兵を送った。 だが鷲の力を挫こうとしていた戦斧の共和国は、義勇兵として斧の民もまた多く同地に留まっているとし、

2020-09-07 21:48:13
帽子男 @alkali_acid

その保護の名目で同じく兵を送った。三日月の帝国も同様であった。獅子と一角獣の連合王国は、鷲との同盟を理由に介入した。さらに無数の国が乗り遅れまいと兵馬を動かした。 まさに狂気のようなもつれからまりあった対立が、とほうもない大戦へと事態を転げこませつつあった。

2020-09-07 21:50:18
帽子男 @alkali_acid

「という偽装経緯なんだ」 白衣をひきずる童形の研究者ケロケル・ケログム博士は穏やかに述べる。 「皇子の護衛、三日月の運び手は、未確認だけど"遺物"じみた装備を持ってるし、練度も高くてね。風鷲党の素人に殺させるのはちょっと骨だろ?」

2020-09-07 21:52:33
帽子男 @alkali_acid

ケログムは手をぱんと打ち合わせる。 「折角だからほら。ギルベルの蘇生死体にオイメトの音響兵器をつけてさ。戦闘用の人工精霊に憑依させてみたよ。結構手こずったけどいい実験になった。ガウドの動きを学習さえておいたのが役に立った」

2020-09-07 21:55:12
帽子男 @alkali_acid

「戦斧の共和国の輸送船を沈めたのは?」 白皙の壮年であるガミエル・グレンズフォードが問い返す。しなやかな手は、かたわらで丸くなって眠る愛玩動物を撫でている。 「鸚鵡貝号方潜水艦の二番艦だよ。正確にはそこから射出した人工竜人だけどね」 「人工竜人?」

2020-09-07 22:01:04
帽子男 @alkali_acid

「化石から作った竜の珠の模倣品さ。ほら、今、連合王国の博物館で展示をやってる"恐るべき獣"ってのがあるじゃないか」 「ああ、大昔の爬虫類とかいう」 「あの因子を人間に植え込むんだ。シャン・シャンみたいに火を噴いたり空を飛んだりはできないけど。力はたいしたものだよ」

2020-09-07 22:02:56
帽子男 @alkali_acid

「制御できるのかね」 「無理だね。それに人間の体…肉の器?っていうのかな。それと恐るべき獣の因子があまりなじまないらしくて、数時間もすると崩壊する」 「なるほど…ふむ…安心?なのかな?気の毒ではある」 「しょうがないさ。どっちにしろ丁級職員だからね」

2020-09-07 22:04:18
帽子男 @alkali_acid

ガミエルはかすかに懸念の色を浮かべて、宝玉ごしに親友を覗き込んだ。遠隔地の景色を映し出す遠見の珠というしかけらしい。 詳しい原理は理解できない。こことは異なる世界に暮らす本物の妖精が作ったとだけ聞いている。想像を絶するが兎に角、財団が持つ通信手段では最も強力だ。

2020-09-07 22:06:48
帽子男 @alkali_acid

「実験に用いた丁級職員の中にモックモウ君の元配偶者はいないだろうね…」 「いないと思うよ。でも君も義理堅いねガミエル。もう遺物鑑定士は相手との離婚に同意したんだろ?」 「こうなった以上、関係を続けさせるのはかえって残酷に思えてね。とにかく約束は果たさねば」

2020-09-07 22:09:01
帽子男 @alkali_acid

「解ってるよ。丁級職員のうちほかに重犯罪歴のない政治犯は退職させる」 「我々が立ち上げる"機構"は、"財団"より丁級職員の扱いを改善する、というのがモックモウ君の移籍の条件なのだ」 「君の魅力だけで十分じゃない?」 「そんな風に考えるのはいつも君だけだケロケル」

2020-09-07 22:11:54
帽子男 @alkali_acid

ガミエルはもう一度かたわらの愛玩動物、首に絲帯(リボン)をかけただけの裸の女を愛撫する。 遺物鑑定士モックモウ。咽び喘ぎ疲れて眠っているようだった。特徴のない目鼻立ちだが寝顔はやはり愛らしい。 彼には女の寝顔はいつも、老人から子供まで、すべて可憐に思えるのだった。

2020-09-07 22:16:05
帽子男 @alkali_acid

「モックモウ君が移籍したが、潜水艦長ナモ君とあー…もうひとり…」 「ガウドかい?残念だけどこっちには来ないみたいだ。育ての親の僕の誘いを拒むなんて、悲しいね」 「そうか。ナモ君は来ないか…うむ…またしかし会う機会もあろうから…」 「あれはやめときなよ」

2020-09-07 22:18:32
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