2020年9月15日

傑作ドラマ『ブレイキング・バッド』のストーリー構成についてエピソードをピックアップして分析(ネタバレあり)

アメリカのテレビドラマ『ブレイキング・バッド』のストーリー構成についての分析と解説です。 完成度の高い傑作ドラマとして知られる本作において、秀逸ないくつかのエピソードがどのような物語構成であったのかを調べました。 各シーズンにつき1、2話程度の解説を追加していく予定です。 【重要!】シーズン5までのネタバレを含むのでご注意ください。 続きを読む
13
狂猫病 @kyobyobyo2

『ブレイキング・バッド』はシリーズ全体として完璧な構成をもった稀有なドラマとして知られているが、エピソード単体についてもその構成の巧みさは傑出している 今後、シリーズ内の数エビソードに関して分析を行ってみたい 初回はシーズン3の第7話『One Minute』(邦題『ハンクの苦しみ』)について pic.twitter.com/UPT3FUDpEx

2020-09-14 21:51:18
拡大
狂猫病 @kyobyobyo2

『ブレイキング・バッド』シーズン3第7話『One Minute』は本編約47分のエピソードとなっている 構成は以下の通り ①双子の回想・少年時代(0分)~ 病室にてジェシーと面会するウォルターとソウル(13分) ②DEA会議室 聴取を受けるハンク(13分)~ 新パートナー契約に同意するジェシー(38分)

2020-09-14 22:02:47
狂猫病 @kyobyobyo2

③DEA会議室 停職となるハンク(38分)~ 双子との銃撃戦(47分) ミッドポイントは25分頃の「防弾ベストを購入する双子」のシーンとなるだろう ミッドポイントは、前後をラボ内におけるウォルターとゲイルの場面で挟まれている 各幕の時間比率は第三幕だけがやや短いものになっている

2020-09-14 22:06:49
狂猫病 @kyobyobyo2

この構成を見れば明らかだが、本エピソードでのメイン主人公は間違いなくハンクだ このエピソードでは、これまでDEA捜査官として生きてきたハンクが転落し、「犯罪者」であるウォルターと似た立場に立って「クリスタル・メス事件」の捜査に関わっていく契機となる事件が描かれる

2020-09-14 22:15:06
狂猫病 @kyobyobyo2

サブタイトルである"one minute" には、「一分間」という意味のほかに「一瞬」という意味もある 本エピソードにおける登場人物たちの立場や心理の変化はまさに「一瞬」だ それを視聴者には唐突だと感じさせないところに、本作における心理描写の非凡さと、積み重ねてきた人物描写の丁寧さがある

2020-09-14 22:20:11
狂猫病 @kyobyobyo2

タイトル前のアバンは、カルテルの暗殺者である双子(マルコとレオネル)が叔父ヘクター・サラマンカの前で人形を奪い合っていた少年時代の一場面の回想だ このシーンでは双子の結びつきの強さと、ヘクターによる「家族が全てだ」という台詞が印象的に描かれている

2020-09-14 22:26:40
狂猫病 @kyobyobyo2

何かを「奪い合う」「兄弟」というモチーフは、ドラマの全体像を知っている視点からすると、「義兄弟間で家庭の主導権を奪い合うウォルターとハンク」の関係と酷似しているようにも思える

2020-09-14 22:30:11
狂猫病 @kyobyobyo2

人形を奪われ泣きながら「あいつなんて死ねばいい!」と叫び、それでも実際に兄弟を殺されそうになれば必死に救おうとするレオネルの姿は、のちのハンクに対するウォルターを連想させはしないだろうか? このドラマが主要なテーマとして描く家族間の愛憎が、まさに一瞬に交錯している象徴的なアバンだ

2020-09-14 22:32:57
狂猫病 @kyobyobyo2

前話では、ジェシーとそのラボであるRVを徹底マークしたハンクが、ウォルターの策略によって間一髪のところで逮捕を失敗していた マリーの事故の一報を偽装するというその策略は、ハンクの視点からすれば家族に対する脅迫と受け取られるものでもある そしてその脅迫に対するハンクの反応は激烈だ

2020-09-14 22:39:05
狂猫病 @kyobyobyo2

忍耐強くクリスタル・メスに対する捜査を続けていたハンクは激昂し、容疑者であるジェシーを突然殴打する 内実がどうあれ、無抵抗の市民に対するまぎれもない犯罪行為であり、ハンクもそれが自分のキャリアに対し何を意味しているのかをすぐに悟る 転落は一瞬だ

2020-09-14 22:42:32
狂猫病 @kyobyobyo2

このシーンは美しい夕焼けの中で描かれており、まさにハンクの「落日」の瞬間だといえる そして、殴打され声もなく仰向けに横たわるジェシーの姿は、エンディングにおいて銃撃され重傷を負ったハンクの姿と完全な対になっている 被害者であるジェシーにとってもこれは、転落の瞬間だ pic.twitter.com/PTviIXw1wE

2020-09-14 22:46:51
拡大
拡大
狂猫病 @kyobyobyo2

ジェシーはのちに吐露するように、ほぼすべてを奪われている 恋人の死、友人の死、軌道に乗りかけたメス・ビジネスは破綻し、一人で作り上げたクリスタル・メスはその品質をウォルターに罵倒され、最後のよすがである移動式ラボも失った ジェシーの憎悪の対象は、ハンクからウォルターへとシフトする

2020-09-14 22:54:23
狂猫病 @kyobyobyo2

ウォルターを破滅させようとするジェシーに対し、ソウル・グッドマンは対処の「オプション」をほのめかす 本気かどうかは別として、もちろんこれはジェシーの殺害を意味している この構図はシーズン5第12話『Rabid Dog』(『狂気の犬』)でも出現し、その際にはスカイラーからも同様の提案を受ける

2020-09-14 23:01:16
狂猫病 @kyobyobyo2

本話のあとでもガス・フリングから同様の提案をウォルターは再三受けており、最終的にはガスと決別する 「家族」でもないジェシーをウォルターはなぜここまでかばうのか? それは作品全体のテーマでもある「青春の再獲得」に関わる部分であり、ジェシーはウォルターの「恋人」そのものであるからだ

2020-09-14 23:05:10
狂猫病 @kyobyobyo2

本エピソードにおけるウォルターの行動原理は比較的単純で、「ジェシーをパートナーに復帰させ、ハンクを窮地から救う」というものだ しかしながらその内面にある心理と、表面上の行動は一言で表現できない複雑さがあり、ブライアン・クランストンの壮絶な演技が随所に現れている

2020-09-14 23:09:52
狂猫病 @kyobyobyo2

ハンクに話を戻すと、第二幕の最初の場面はDEA内で聴取を受けるシーンからだ この場面ではわかりやすくハンクが「犯罪者」としての扱いを受ける 弁護士の同席と黙秘権の行使だけでなく、構図として「机に手をつかせる」というのは非常に明快だ バッジを誇示する調査官の姿勢にも注目してほしい pic.twitter.com/Y6TnaNayPh

2020-09-14 23:15:10
拡大
狂猫病 @kyobyobyo2

屈辱的な扱いを受けたハンクは、エレベーター内で待っていたマリーにすがって泣きじゃくる 台詞の極端に少ないこの一連のシーンの表現力は見事で、夫婦としての結びつきが強固なものになっていく過程と、立場上マッチョな男として振る舞わねばならないハンクの繊細さと哀しみが見せつけられている

2020-09-14 23:25:33
狂猫病 @kyobyobyo2

次の場面への繋ぎ(トランジション)においても、定番ながら効果的なテクニックが使われている マリーに対しハンクが「誰に(話した)?」と問う次のカットがスカイラーのアップで、これは問いの答えを暗示的に示す技法だ エピソードはスムーズに、スカイラーとウォルターの駆け引きの場面へ移行する

2020-09-14 23:29:57
狂猫病 @kyobyobyo2

キャリアの窮地に陥ったハンクを家族として助けてほしい、と要求するスカイラーに対し、ウォルターは「今は家族ではない」と一蹴する これはもちろんウォルターの嘘で、頼まれずともウォルターはハンクを助けるつもりでいる 嘘をつく理由は、スカイラーに追い出された家へ帰還するための駆け引きだ

2020-09-14 23:34:01
狂猫病 @kyobyobyo2

ハンクを救うためのウォルターの策はジェシーのパートナー復帰であり、同時にそれは優秀な助手であるゲイルの追放を意味する ラボに出勤したときからすでにウォルターの腹は決まっていた様子で、映画『カサブランカ』から「美しい友情の始まり」と台詞を引用するゲイルに、罪悪感に満ちた視線を向ける

2020-09-14 23:39:50
狂猫病 @kyobyobyo2

ミッドポイントでは、お喋りな武器商人と接触する双子が描かれ、ここからエピソードは収束に向けてグッとテンションを上げてくる 双子が購入するのは防弾ベストのみであり、アサルトライフルやショットガン、サブマシンガンは眼中にない つまりこれは派手な撃ち合いを企図していなかったということだ

2020-09-14 23:46:48
狂猫病 @kyobyobyo2

双子が懸念していたのはハンクの手持ちの拳銃による反撃のみで、襲撃自体はどこかで待ち伏せ、速やかに終わらせる予定だったはずだ 武器商人が厚意で渡した一個のホローポイント弾が、双子とハンクのみならず、彼らに関わる多くの人間の運命を変えることとなる

2020-09-14 23:49:59
狂猫病 @kyobyobyo2

天才的な演技(繰り返すが、ブライアン・クランストンによる、この「演技内演技」は本当に凄まじい)によってゲイルの追放に成功したウォルターは、ストレートに「君が欲しい(I want you)」という文句でジェシーを口説く ジェシーは破格のオファーを一蹴する

2020-09-14 23:55:27
狂猫病 @kyobyobyo2

ジェシーはすべてを失った自分を認識し、ウォルターを面罵する 自己責任論者であれば、その行動の責任と結果は当然ジェシー自身にあると言うこともできるだろう

2020-09-15 00:01:45
1 ・・ 5 次へ

コメント

狂猫病 @kyobyobyo2 2020年9月27日
『ブレイキング・バッド』エピソード解説まとめを更新しました。 シーズン1第1話『Pilot』についての解説を追加しています。
0
狂猫病 @kyobyobyo2 2020年10月11日
まとめを更新しました。 4-3『Open House』と「マリーの窃盗癖」についての解説を追加しています。
0