【ここにあるもの】福間健二 #k2fact269

はじめようとしている。性こりもなく、とは言いたくない。人のいる場所をだれにも挨拶せずに移動しつづけて人のいない場所に出た。丘にのぼっていた。光がさしているのに雨が降っている。音がする。叩かれている屋根が下にある。雨はあがり、虹が出ていた。よかった。まだ朝だ。(ここにあるもの1)
2020-09-06 10:58:46
痒いところを掻かない。揺れる水は見つめていい。飛びおりたくない心理に階段を用意させてわかること。だれかに交替してもらえる人生などない。台風のニュース、ぶどう、トースト、コーヒーの朝食。山梨に弟がいる人が持ってきてくれたぶどう。皮の色が濃いのから食べた。(ここにあるもの2)
2020-09-07 11:03:44
声がする。赤ちゃんを抱いた、たぶんおばあちゃん。三階建ての、三階のヴェランダ。朝の音楽。ふと明るさが戻る。音楽、そんなに古くなくても、しばらくは急がない社会。目の前に突然あらわれる人。ひとり、ふたり。突然なのは、こちらが考えごとしてたから。でも挨拶できた。(ここにあるもの3)
2020-09-08 09:14:51
可動性のないものは減らして初秋のあきらめない動物の短い尾。いるじゃないか、丸山さん。自信のなさそうな父たちのかわりにドアをノックする。ふたつ、みっつ。簡単にできると思ったこと。とりかかりもしないで宿題にしている。簡単にできると思ったのがいけないのだ。(ここにあるもの4)#k2fact269
2020-09-09 09:35:47
時間は停まらない。十五分とかをすごく長く感じることがあるだけだ。ご飯が炊けるまでとか。遠い山々が見えるのはいいが、安心できない。カラスの荒らしたゴミ袋の中身が道に散らばり、どこから出てくるのでも本のリストは怖い。人の一生くらいの時間は簡単に奪う量だ。(ここにあるもの5)#k2fact269
2020-09-10 16:29:22
人に会う。わずかでもなにかを受けとる。それを使う。古い世界から借りた詩的な名前の小さなカフェの、一種の花火のようになる色彩と音楽のなかで。あと二十八分。どうなるだろう。疑いすぎないこと。自分がやりそうなこと、自分におこりそうなことを思うだけだから。(ここにあるもの6)#k2fact269
2020-09-11 08:38:47
だれかの不幸な死に方と湿気への対処とだれかの次のステップ。抜きとった赤い部分とその捨て方と仮定にすぎない「正しい側」の活用。敷石と敷石の隙間に、見つめていれば浮き上がってくる弟分の線がある。本人は話すように歌う。こういうときだから、旅立つかわりに。(ここにあるもの7)#k2fact269
2020-09-12 08:42:08
夢で見てしまった。この先におこること。人類におこること。必要ギリギリで作られたものとそうじゃないものとの見分けがつかなくなって、そのあとの入りくむ物語。ループ、ループ。簡単に生まれかわるなんてことはない。でも、おいしいリンゴ。だれを笑顔にしたいのか。(ここにあるもの8)#k2fact269
2020-09-13 16:12:57
ともに笑い、ともに泣いても、降りる駅はちがう。ひとりになってからの高円寺とか中野とか、発信、不規則リズム。後まわしにしたい用事。少しは片付いて腰かける場所があったりすれば、衛星からの監視は意識しない。頼ってきた道具、もうなくてもいいかという午後まで。(ここにあるもの9)#k2fact269
2020-09-14 12:27:30
反省するためじゃなく、曇天の上野。普通のコロッケ六〇円、カレーコロッケ七〇円、ハムカツ八〇円で、もちろん酒も安い店。まだあって、おいしくて、他のことはどうでもよくなった。誤解しようのない装置の、対角線の構図。きみにしかできないこと。ここにあるもので。(ここにあるもの10)#k2fact269
2020-09-15 10:33:15