現実から夢想、夢想から過去へ(#えるどれ)

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前回の話

まとめ 人間の大戦と鏡の向こうの妖精の国2(#えるどれ) シリーズ全体のまとめWiki https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 3861 pv 3

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失われたものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 舞台は人間が支配する世界「狭の大地」。 もはや剣と魔法の時代ははるかに遠のき、銃と科学が威を振るう。 闇の脅威を忘れた西方諸国は近代兵器をもって東方や南方を征服し、植民地として隷属せしめた。

2020-09-15 20:09:28
帽子男 @alkali_acid

七つの海と五つの陸を掌中に収めた列強は、今度は互いに領土や権益を巡り角逐を始め、三日月の帝国の皇子の暗殺をきっかけに大戦(おおいくさ)へと雪崩れこもうとしていた。 しかし邦々(くにぐに)が兵馬を動かす背後では、いずこにも属さぬ勢力が暗躍していた。 秘密結社「財団」。

2020-09-15 20:12:02
帽子男 @alkali_acid

財団は、国家や宗教、体制や思想をも超えた存在である。 表向き竜も巨人もいなくなった世界において、しかしひそやかにはびこり始めた超常の脅威「遺物」から文明と社会を守るため各地の賢者が叡智を結集し、ひとしれず災厄の原因となる物品や事象の確保、収容、防護を行ってきた。

2020-09-15 20:14:52
帽子男 @alkali_acid

だが列強が二陣営に分かれて激突しようとするまさに今、財団もまた新たな分派が生まれ、もともとからあった組織との間で、「遺物」の管理を巡って激しい対立が始まろうとしていた。 新たな結社「機構」は、財団が保有していた遺物の収容施設「安置所」のうち四割をその人員とともに引き抜いた。

2020-09-15 20:17:14
帽子男 @alkali_acid

さらに財団が、列強の支配層との間に設けているつながりについても、一部を我がものとした。 今や財団は、全人類を守護する組織とはいえず、行動範囲も限られたものとなりつつあった。

2020-09-15 20:18:58
帽子男 @alkali_acid

財団の最高戦力「機動部隊」も大半が機能不全に陥った。特に、遺物に匹敵するだけの強大な異能者を選りすぐって集めた「終端の騎士団」は、創設にたずさわった幹部ケロケル・ケログム博士が財団から離籍し機構へ参加したため、分裂することになった。

2020-09-15 20:21:37
帽子男 @alkali_acid

といっても所属する九人のうち大半は、すでに史上最悪の遺物とされる「黒の乗り手」の収容任務で損耗しており、残員はわずかであったが。 まず遺物鑑定士モックモウは、元財団常務理事であり現機構全権代表であるガミエル・グレンズフォード氏の説得により移籍。同氏の第七秘書に就任している。

2020-09-15 20:24:36
帽子男 @alkali_acid

次に鏡の乗り手ダリューテは、本来グレンズフォード氏の第一秘書であったが、財団に留まることを選んだ。 絶滅請負人ガウドビギダブグも、ケログム博士の招聘を拒み財団に。 潜水艦長ナモは機構への移籍こそ行わなかったが、無期限に休職する意志を示した。

2020-09-15 20:28:30
帽子男 @alkali_acid

このほかの隊員を見ると、邪神作曲家オイメトは殉職。死体蘇生業者ギルベル・ファニルスス、生命美術館主レオノフ、殺人出題者ジーグサウは行方不明。怪異嗜食侯シャン・シャンは応答拒否。いずれも「黒の乗り手」との遭遇後、収容任務に失敗し再起不能とみられる。

2020-09-15 20:33:41
帽子男 @alkali_acid

財団は新たな機動部隊の編成に取り組んでいたが、列強が戦争のための動員をかけるなか、人的、物的資源は不足しており、さらに機構の分離による混乱のなか、傘下の安置所で「収容違反」すなわち遺物による災害が多発し、状況は制御不能になりかねなかった。

2020-09-15 20:36:54
帽子男 @alkali_acid

ただ目下のところは、財団に残った終端の騎士のうち、鏡の乗り手ダリューテが、ほぼ単独であらゆる収容違反を解消していた。 逸失したはずの「魔法」と、発達した「科学」の双方を操る尖り耳の乙女は、右手に雷霆を、左手に拳銃を携え、神秘の鏡を通り、七つの海と五つの陸のいずこにも瞬時に現れる。

2020-09-15 20:40:07
帽子男 @alkali_acid

収容方法が確立している「安全」分類の遺物はもちろん、完全な防護ができない「幾何」分類の遺物であっても、ダリューテは呪文と爆薬、巨大な異形の配下と劇毒の化学薬品を巧みに組み合わせて対処した。

2020-09-15 20:42:29
帽子男 @alkali_acid

一日に十数か所の現場に相次いであらわれ、いかなる脅威にもまったく臆さず、たじろがず、焦らず、最小限の被害で安置所へ送り返すか、あるいは施設が崩壊していれば新たな安置所を作り上げた。 といっておおげさなものではない。鏡の乗り手が後に残すのは、匂い薔薇の茂みに囲まれた小さな泉や、

2020-09-15 20:45:17
帽子男 @alkali_acid

風に歌う柳の木立。 洞窟の壁に描かれた雄牛と狩人の一枚絵。 荒野を流れる一筋のせせらぎとそこを泳ぐ緑の鱗の鱒。 雪原の空を過ってゆく屑星のような氷の結晶。 たいていは尖り耳の乙女のほかは誰ひとりいないところで魔法と科学は編み合わされ、遺物を包み込んだが、稀に居合わせた人間は、

2020-09-15 20:49:17
帽子男 @alkali_acid

異形の怪物や、天変地異、理解を絶する概念などを、まるで子供の単純な謎かけ遊びを解く母親のようにやすやすと破る仙女の姿に、心を奪われた。 遺物の中にさえ、ただダリューテが近づくだけで、首を垂れ、翼を畳み、水掻きを閉じ、服従を示すものがあった。

2020-09-15 20:51:36
帽子男 @alkali_acid

しかしなお収容違反はやまなかった。 破れ綻び、裂けほどけゆく財団という袋から、中に詰まった禍の果実が地にばらまかれないよう、妖精の騎士はただ一人で白い腕をさしのべ、受け止め続けているのだった。めったに休む暇もなく。

2020-09-15 20:53:26
帽子男 @alkali_acid

「あんただって遺物どもと戦えんだろ。そいつがありゃ」 絶滅請負人の異名をとる傭兵、牙の部族のガウドビギダブグはそう尋ねると、相対する同僚、潜水艦長ナモは手に持つ頑丈な旅行鞄に眼差しを落とした。 「生命型の遺物なら牽制できるだろうな」 「はっ!前に見たぜ。神通の武器とかいう…」

2020-09-15 20:57:00
帽子男 @alkali_acid

ナモは首を振った。 「これ自体が遺物だ。遺物で遺物を制したければ、よほど巧妙な計画を立てなければかえって被害を広げる」 ガウドは憮然だ。 「鷲の帝国の一個師団ぐらい楽に潰せる威力だってのによ。じゃあ何で持ち出すんだよ」 「色々と状況が変わったのでな」 「ああ?…ああ」

2020-09-15 20:59:58
帽子男 @alkali_acid

褐色の肌の女丈夫は、暗色の肌の巨漢に微笑む。 「達者でなガウド。人間相手の任務でも油断はするなよ」 「ったりめえだろ…つか…」

2020-09-15 21:02:38
帽子男 @alkali_acid

大柄な若者はしげしげと、丈高い年上の女を眺めやる。巴旦杏の双眸や、化粧っけのない彫りの深い造作、艶やかな唇、しっかりしたしかし優美な首筋から、厚き香料の地の武人らしい凛々しげないでたちまで。 「…ぐるぐる頭」 「もう子供ではないのだからいい加減その呼び方はよさんか」 「…おう」

2020-09-15 21:06:29
帽子男 @alkali_acid

しばらく何か考えてから、ガウドはナモにむかってぐっと厚い胸板を張り出した。 「この戦争が終わったら、俺ぁ結婚する。ダリューテとウィストの二人まとめてだ。だけど牙の部族の女衆にはまだ空きがあるぜ。ぐるぐ…ダカーラ」

2020-09-15 21:08:17
帽子男 @alkali_acid

本名で呼ばれた女丈夫は、巨漢をまじめに見つめ返した。 「女衆全員と同じ数だけ子を作る」 若者は拳で心臓のあたりを打ってみせる。 「寝床を回る順番も抜かさねえ。飯一緒に食うのもだ」

2020-09-15 21:11:55
帽子男 @alkali_acid

傭兵が幼い頃から、姉がわりとして面倒を見て来た艦長は、笑いもしなかったし、蔑みもしなかった。ごく真剣に受け止めたようすで、やがて返事をした。 「ガウドビギダブグ。お前のことは気に入っている」 「はっ。そうかよ。なら決まりだ」 「お前はいい男になるだろう」

2020-09-15 21:14:05
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