twitter novels

ツイッター小説の自選集です。
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緒乃ひろみ @onohiromi

女の指が僕の背中をなぞってゆく。細い指で。ゆっくりと。這うように。爪を肌に食い込ませる。顔を歪ませると、動きが止まって女は不意に笑い出す。細い声で。かすかに。キスをすると脣が開き、僕の舌を弄ぶ。腕をつかむと、女は「バカ」と囁き体を離す。「サヨナラ」突然彼女は消える。その繰り返し。

2010-02-08 09:29:41
緒乃ひろみ @onohiromi

「私を食べて」バレンタインにこんなベタな告白をされるとは思わなかった。話したこともない、かわいくてスタイルもいい子。食べてと言われればいただく。2人で体育倉庫にこもった。彼女が差し出したひとさし指を口に含むと甘いカカオの味がした。彼女が少しずつ溶けてゆくのを俺はただ見つめていた。

2010-02-13 17:45:07
緒乃ひろみ @onohiromi

下弦の月に映る想い。闇に隠れた半分は、君だけに見せる顔。雲が覆って見えなくなっても君はそこにいてくれる。下弦の月の輝きはあなたへの想い。穏やかに光る半分で闇を隠しながら夜をやり過ごす。薄い曇り空に浮かぶ赤くて黄色い光が、ぼんやりと夜の闇を照らす。今日は下弦の月。今日も下弦の月。

2010-02-19 09:45:52
緒乃ひろみ @onohiromi

あの角を右に曲がると白い木の扉の雑貨屋があり、その隣には無愛想なタバコ屋がある。まっすぐ行ってレトリバーの家を左に曲がる。50歩ほど歩くと右に古いお寺があって向かいには寂れた酒屋。次の角は右だ。大きな通りが見えるけど、すぐ左の狭い路地を入る。つきあたりの壁を上る。彼女が顔を出す。

2010-02-24 11:07:36
緒乃ひろみ @onohiromi

好きだとか、愛してるとか、言葉が必要なの?もうわかってるでしょう。言えないことも、聞けないことも、胸に積み重ねて今さら崩せない。もう一度会えたら溢れて止めどなく流れてしまうような真っ赤な血のような想いを、あなたは本当に目を背けずに受け止めてくれるの?

2010-02-26 11:43:30
緒乃ひろみ @onohiromi

自由を愛してたはずなのに、縛られることに慣れてしまった。ヒステリックに叫ぶ君の声は殺したいぐらいムカつくのに。僕の足には重い鎖がぶらさがっていて、その重さに慣れてしまっている。下品に嗤うおんなに囁く愛の言葉、淫らな唇に繰り返すキス。脳髄がチリチリする。紫色の足首がジンジン痺れる。

2010-02-27 08:21:58
緒乃ひろみ @onohiromi

Twitterで彼がつぶやく「今日はいい天気」私がつぶやく「遅刻しそう!」会ったこともない勝手に大好きな人。噛み合わない会話。それでも嬉しい。「ヒマだ〜誰か遊んで」「今日はテスト、さいあく無理」「バイト行ってくる」思いきって言ってみる。「大好きだよ」ひとりでドキドキする。

2010-02-28 16:00:59
緒乃ひろみ @onohiromi

「自由に泳いでた魚を人間の勝手で釣って、体を半分に切って焼いて食べるなんておかしい。僕は呪われる。僕は魚に呪われる。おとといはサバ、昨日はお風呂で溺れる夢を見た。今日はアジ、呪いで魚顔になるかも知れない。食べられない」「タカシいい加減にしなさいよ……イカ食べながら言わないで」

2010-03-02 22:09:29
緒乃ひろみ @onohiromi

Twitterを開けば色んな人の脈略のない言葉が並んでる。でも、よくよく考えてみたら、心なんてそんなもん。色んな思いがぽつんと浮かんでは消えて、思うこと全てにいちいち筋道があるわけじゃないもの。毎日毎日、短い言葉が生まれて少し心に残ったりする。心に一番近いメディアかも。

2010-03-04 10:46:45
緒乃ひろみ @onohiromi

黒と赤を使って彼が描いた絵、絡み合うニ色に愛を確信した。いつしかそこに色が重なり、私は不安になる。絵は奥行きを深めてゆき、彼が違う世界を見ていることに気付く。泣き叫びキャンバスを破り、やがて虚しさに肩を落とす。それでも赤色の私は絵の中に存在していて、彼はその上に黙々と色を重ねる。

2010-03-08 21:32:05
緒乃ひろみ @onohiromi

赤い色が目に焼き付いている。瞬間、私には信号の赤が何を意味するものかわからなくなっていた。ブレーキを踏んだのは右足の意思だ。男性の体はタイヤの下にあった。以来頭に浮かぶのは赤い光しかなく、私の時間はあの時死んでしまった。男性は最後に何を見たのだろうか。

2010-03-09 21:59:31
緒乃ひろみ @onohiromi

緑色の瞳が心に焼き付く。彼女は哀しげな表情で首を傾げて僕を見た。長いキスをしてサヨナラを告げる。「君と一緒にいたかったよ…。ずっとずっと」心が叫ぶ。瞬間、彼女は僕を抱きしめた。彼女の鋭い鎌は僕を捕えて離さない。腹を齧られ、鋭い痛みに溢れる想い。僕らは永遠に一緒だよね。

2010-03-11 14:19:54
緒乃ひろみ @onohiromi

雨の夜に輝く灯り。夜の雨に映る影。雨の中に溶ける光。光の束に消える影。影の奥に潜む灯り。灯る窓に映る影。影の向こうに見える君。呼ぶ声に振り返る髪。長い髪。君の顔。君の前に降りつづく雨。雨に浮かぶ君。光の中の君の顔。黒い髪。近づいてくる君の胸。窓を開ける細長い指。逃げる私。

2010-03-16 23:14:39
緒乃ひろみ @onohiromi

思い出した。着せ替え人形だ。ずっと欲しくてお母さんにねだって、6才のクリスマスにサンタがくれた。大好きな人形をどこに行くにも持ってって服も毎日着替えさせて抱いて眠った。いつ遊ばなくなったんだろう。ゴミ袋の奥にいたのにあの日拾ってあげられなかったね。ずっと私の特別だったのに。

2010-03-17 14:18:39
緒乃ひろみ @onohiromi

灯りがついたのは確か5日前の5時20分頃だったと思います。夕飯の買い物に出掛けて帰る頃。犬が激しく鳴いて驚いたから覚えています。次の日から電気はいつも灯ってました。犬はずっとおとなしくて…そう…ここのおばあさん亡くなったんですか。お気の毒に…。ご様子?私、犬しか知らないので…。

2010-03-19 09:21:38
緒乃ひろみ @onohiromi

土を破り芽を出し伸びてやる。太陽だけをめざしてただまっすぐに。迷ってる暇なんてない。伸びないと死んじまう。雨の日は少し休んで土を想う。あたたかく包まれていた時を浮かべる。朝がくればひたすらただただ天を目指す。俺たちは弱くて強い。刈られたら希望の方向に種を飛ばすんさ。

2010-03-21 01:15:50
緒乃ひろみ @onohiromi

宇宙に形なんてないってのもあるというのも思い込み。誰の眼も宇宙の事実を経験してない。シアターのスクリーンに映し出された偉い監督が想像した壮大な宇宙も、子供が黒い折り紙で作った小さな箱も宇宙と言われれば宇宙。落として踏んでぺっちゃんこ。それはそれでひとつのカタチ。 #twnovel

2010-03-25 11:11:47
緒乃ひろみ @onohiromi

私にだって一斗缶に残ってる、どろどろのこってこての廃油みたいな心もあるんだ。上澄みだけじゃ生きていけない。きれいなだけじゃボロボロになる。汚い心も持ってなきゃ他人の心なんてわからない。ヌルヌルギトギトの油をいっぱい沈殿させて、薄っぺらいベニヤにぐりぐり塗りたくってやるのさ。

2010-03-31 20:21:31
緒乃ひろみ @onohiromi

「安物の鍍金のスプーンも、ありふれたカップも全て曲線でできている。何故だかわかるかい。スープを飲んでリラックスしてる時に角で怪我することを心配しなくて済むようにだ」夫はそう言って尖った卵の殻を口から出した。私が食事時に貴方の言葉の凶器で毎日胸を刺されてるのには気付かない癖に。

2010-04-07 09:47:29
緒乃ひろみ @onohiromi

君の髪の色はビスタ。セルリアンブルーのドレスからのぞく白い足が私の足の甲を踏む。モーヴの瞼にくちづけると漏れる声。舌はローズレッド。けれど君の中に流れる血はミントカラー。ブランデーと混ぜると悪魔に変わる。飲み干した私は朦朧とした頭で愛してるを繰り返す。もう何日も同じことばかり。

2010-04-09 17:35:52
緒乃ひろみ @onohiromi

老人は地図を目の前に広げる。「どの角度から見ても裏から透かしても構わない。何が見えるかはおまえの目次第だ」と。老人は目が不自由だ。自分の選んだ道で負傷した。俺は一番安全だと思う道を選んだ。身体は傷つかなかったが、心にも何も残らなかった。ボロボロの地図はただの白い紙に変わっていた。

2010-04-16 02:17:24
緒乃ひろみ @onohiromi

「妙なものをキレイだなんて言うんだな」歩行者信号が青から赤に変わる、チカチカ点滅するあの輝きがあたしは好きなんだ。「日常の中のキケンを知らせる非日常っていうのかな…うん」「変な奴。ほら走るぞ」そう言いながらあなたはあたしの手を握るじゃない。ほんとはね、その瞬間が大好きなんだよ。

2010-04-17 22:31:02