時の支配者と鏡の女王(#えるどれ)

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前回の話

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のエピソードは見やすいWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-09-24 19:50:02
帽子男 @alkali_acid

狭(はざま)の大地を巡る光と闇の大勝負は決した。 影の国とともに妖精や龍や巨人も去り、剣と魔法の時代が終わった。 人間のみが世界を支配するようになり、銃と科学の時代がやってきた。

2020-09-24 19:51:53
帽子男 @alkali_acid

もはや暗き墓所に悪霊は潜まず、魔狼は山谷に吠えず、大蜘蛛が腐れ木の森に巣をかけもしない。 闇の脅威は過ぎ去り、手の届く限り陸と海と空はすべて死すべきさだめの子等に与えられたのだった。 しかし平和は、長続きしなかった。

2020-09-24 19:56:45
帽子男 @alkali_acid

敵を失った人間は、今度は互いに武器を向け、覇権を巡っていつ果てるともない戦いを繰り広げたからだ。 一方で神々や魑魅魍魎が消えた世界には、隙間を埋めるように新たな怪異がぽつぽつと出現し始めた。 「遺物」 人間の進んだ科学にも解き明かせない物質、生命、現象、概念の数々。

2020-09-24 19:58:24
帽子男 @alkali_acid

相争う人間の中にあっても、遺物の危険を悟ったものたちは連絡を取り合い、文明や社会を守るため秘密の結社を結成した。 「財団」 彼等は西方列強の支配層とつながりを持ちつつ、豊富な資金と人材、特殊な知見を用いて遺物を確保、収容、防護し、超常の災厄を民衆から遠ざける藩屏となってきた。

2020-09-24 20:02:02
帽子男 @alkali_acid

数千もの遺物が財団によって収容され、「安置所」と呼ばれる施設に封印された。 財団の活動は決して表に出ることはなく、例え多くの人命や資産を犠牲にせねばならなかったとしても、 「偽装経緯」 という無難で、辻褄の合う説明が用意され、新聞や口伝の噂によって広められた。

2020-09-24 20:04:33
帽子男 @alkali_acid

かくして諸国が領土と権益を戦争に興じるなか、財団は使命のため中立を保ち、多くの人々は存在すら気取られることなく、黙々と任務を果たし続けてきた。 だが財団にも弱味はあった。 人間が進歩させた銃や科学は、人間を相手どるには十分だったが、遺物の特に理不尽なまでに強大な力には不足だった。

2020-09-24 20:07:29
帽子男 @alkali_acid

初め財団は、とりわけ面倒な遺物に対抗するために、すでに収容に成功した別の遺物を用いる方法をとったが、複数の遺物を同時に制御するのはきわめて困難で、偽装経緯によって隠しきれないほどの被害を引き起こしかねなかった。

2020-09-24 20:09:36
帽子男 @alkali_acid

そこで財団は、遺物ほど剣呑ではなく、かつ既存の科学の域を超えた異能者を登用し、収容に当たらせる方針に切り替えた。 開化啓蒙の時代にあっても、奇跡や神通とでもいうしかない資質を持った人材は探せば見いだせたが、あるものは精神や情操に深刻な欠陥を抱えており、またあるものは、

2020-09-24 20:15:20
帽子男 @alkali_acid

単純に遺物を収容するには向かなかったりした。 異能者を集める財団の計画ははじめ失敗続きだったが、やがて望ましい候補に行き当たった。 驚くまいか、いずれも財団の本拠がある世界の北西、西方列強の名家の子弟だった。

2020-09-24 20:17:39
帽子男 @alkali_acid

ガミエル・グレンズフォードは財団理事会に古くから席を持つ一門の三男で、端正な容貌と柔和な物腰、ほどほどの学業成績と運動成績を持つ少年だった。 どこか毛色のちがうたたずまいから、寄宿学校ではいじめの的になり、そのままであれば悲惨な思春期を過ごしたかもしれなかったが、

2020-09-24 20:20:50
帽子男 @alkali_acid

同級生のケロケル・ケログムが助けの手を差し伸べた。 赤みがかった肌に片方だけ尖った耳を持つ少年。中等部に上がっても初等部と変わらない背丈や幼げな顔立ちは、財団の分析班によって「幼体成熟」と診断されていた。 十代前半までの二人は肌の色を除けば兄弟のようによく似ていて、

2020-09-24 20:24:56
帽子男 @alkali_acid

並んでいるとまるで御伽噺に出てくる王子のようだった。 しかい性格はまるで違った。何かにつれ事を荒立てたがらない臆病なガミエルに対し、ケロケルはうわべはおとなしそうでも、裏に回ると過激で苛烈だった。

2020-09-24 20:28:00
帽子男 @alkali_acid

もともとケロケルには発明の才能があり六つになるまでに鼠を自動で毒殺する機械を作り上げていたほどだ。 寄宿学校に入るころには、いじめっこを誰にも見つからないように溶かしてしまうぐらいは朝飯前になっていた。

2020-09-24 20:30:17
帽子男 @alkali_acid

ガミエルを痛めつけようとした数人が行方不明になり、学校側もまったく事態を掴めないでいるところへ、財団の監視網が注目し、二人を結社へ引き入れた。 ケロケルは砂が水を吸うように財団の蓄積した知見に精通すると、学生業のかたわら財団の乙級職員として収容に役立つ発明を次々と生み出し、

2020-09-24 20:32:48
帽子男 @alkali_acid

既知の科学の外にある領域にまで手を広げていった。 ガミエルの方は地味だが管理と事務、ごく退屈だが重要な人付き合いなどに才覚を発揮した。 だが二人にはそれぞれ隠れた別の天稟があった。 魔法。 そう。すでに失われ、科学にとってかわられたはずの力を、内に宿していたのだった。

2020-09-24 20:34:30
帽子男 @alkali_acid

ケロケルの魔法は、世界を成り立たせるさまざまな仕組みの理解と応用に生かされた。狂気発明者と言われるほどの物作りの才こそが魔法の表れだった。 対してガミエルの魔法は、異性の誘惑だった。

2020-09-24 20:37:05
帽子男 @alkali_acid

それぞれ本人の性格によくあった術だった。 ケログムは何にでも興味を示し、実験と観測に夢中になるたちだったし、ガミエルは奥手な少年時代から、美しい婦人や令嬢を見ると心が和らぎ、次いで自分のものにしたいという感情が動くのだった。 「お互い魔法のことは財団にも秘密にしておこう」

2020-09-24 20:38:24
帽子男 @alkali_acid

かつてケロケルはガミエルにそう告げたものだった。 「うん。でもねケル。私の魔法は君のに比べたら…つまらないよ…」 「そんなことないさ!人間の心を支配する魔法なんてすごいじゃないか」 「そうかな…だって…私はご婦人がそばにいるだけであがってしまうのに…」 「慣れだよガミ」

2020-09-24 20:40:27
帽子男 @alkali_acid

疑わしそうに応じるガミエルをケロケルは励ました。 「持って生まれたものは極限まで伸ばすべきだよ!そうだ。かたぶつの図書館司書がいただろ」 「うん。素敵なひとだね。眼鏡ってとても…」 「あの司書を君の魔法で言いなりにしてみなよ」 「だ、だめだよ…そんなこと」 「手始めさガミ。それに…」

2020-09-24 20:42:45
帽子男 @alkali_acid

赤みがかった肌の少年は、白い膚の少年の手を握ってにっこりした。 「僕はちょっと…図書館の閉架から探したい本があるんだ。あの司書は若い割に博識で、かなり権限もあるみたいだし…将来の館長候補かな?目的に役に立つよ」 「そんなの…財団に頼めば…」

2020-09-24 20:45:11
帽子男 @alkali_acid

「だめだめ。この学園は財団とは仲が悪いんだ。だから僕等だけの力でやってみようよ」 「う、うん…ケルがそう言うなら」 二人の少年は勉学への熱心さを装って司書に近づき、他愛のない贈物をして感心を買うと、魔法にかけて篭絡した。

2020-09-24 20:48:02
帽子男 @alkali_acid

ガミエルの術はもちろん、ケロケルが作ったあれこれの奇妙な玩具も役に立った。 二人は中等部の間、年上の女性を共有し、異性について、いささか歪んだ方法で多くを学んだ。ケロケルは図書館の奥にある禁書にも触れられた。

2020-09-24 20:50:20
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