時の支配者と妖精の騎士

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前回の話

まとめ 妖精の騎士と鏡の女王(#えるどれ) シリーズ全体のまとめWiki https://wikiwiki.jp/elf-dr/ 4292 pv 4

以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女奴隷が騎士となり失ったものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のエピソード一覧は見やすいWikiからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-10-02 21:14:21
帽子男 @alkali_acid

狭の大地に新たな力あるものが誕生した。 時の支配者。 強大な精霊にして絶対の神への階梯をのぼりゆく存在。 過去へと遡ると、あまたの乙女を懐胎させ、御子をなした。子でありながら父と一体。分身を。

2020-10-02 21:19:10
帽子男 @alkali_acid

森羅万象を超越せる神が、はるかにか弱き生身の女を求め、相手が望みもせぬうちに仔を孕ませるなど、ありえざるように思える。 しかも既婚の婦人さえ毒牙にかけるなどと。 さように浅ましく卑しい真似をするような神がいるだろうか。いたとして誰が崇め讃えるだろう。

2020-10-02 21:23:43
帽子男 @alkali_acid

だが時の支配者は平然となした。善良なる民ならば決して許すまじき行いを。 かくして百万もの御子、分身を得た力あるものは、軍勢を率いて一か所に集結した。冥皇の安置所。唯一心から求める花嫁、妖精の騎士ダリューテを克ち得んがために。

2020-10-02 21:28:15
帽子男 @alkali_acid

黄昏に染まる戦場で、ダリューテは今まさに、時の支配者に仕える妖精の士帥、鏡の女王ティターネイアと激戦に及ぶところだった。 「我が神!御自ら討って出られるとは!」 「鏡の女王よ…我に従い、あらゆる乙女を我が花嫁とせよ…さらに多くの胎を…時の精霊の御子をいっそう殖やさんがため」

2020-10-02 21:31:54
帽子男 @alkali_acid

ティターネイアは戦の熱に逸っていたが、命令には従った。 「我が神の望みのまま…力あるものどもよ!!唯一なる主の奴隷となれ!!」 女王が鏡を虚空に浮かべると、光の渦があらわれる。さらに宙に浮かんだ数えきれないほどの時の精霊が共鳴するように呪文を発する。

2020-10-02 21:34:24
帽子男 @alkali_acid

だが妖精と精霊がそれぞれ発した隷属の呪文は互いにぶつかり合い不協和音を起した。 妖精の騎士は、はるかかなたの陸に降りた帆船から、魔法の織機を呼び寄せると、四本の腕木を持つ形に作り変えて背負い、あたかも大蜘蛛を思わせる姿となって、周囲に何千何万もの糸を紡ぎ出した。

2020-10-02 21:36:36
帽子男 @alkali_acid

「小娘が…!」 瞋恚をあらわにするティターネイアと、困惑の漣を起す時の精霊の群を、泥竜(ないろん)の糸がからめとる。 「弱卒を恨むのだな。女王」 ダリューテが十指を引くと震えが伝わり、百万もの肉の器に宿った霊気はことごとく引きはがされ、蜘蛛の巣にからめとられた。

2020-10-02 21:39:23
帽子男 @alkali_acid

かくして勝敗は決した。 あるいは時の精霊の要らざる助勢がなければ、鏡の女王は勇戦したかもしれない。 しかし妖精の騎士は、敵の失策に容赦などしなかった。

2020-10-02 21:41:53
帽子男 @alkali_acid

時の支配者は、一にして百万の意識の集合たる大いなる精霊は、恐怖と恥辱におののき、敗北を取り消し、過去へと退却した。 「ケル」 相談役のもとへと。

2020-10-02 21:43:24
帽子男 @alkali_acid

赤みがかった肌に片方だけ尖った耳の、童児にしか見えない学者は、呼びかけに応じる。 「やあ。また時間旅行?忙しいね」 「だ、ダリューテは…繁殖して増やした私の分身を…一瞬で全滅させた」 「先手を打って篭絡の魔法を使えばいいんだよ」 「使ったが…うまくいかず」 「詳しく教えてよ」

2020-10-02 21:45:02
帽子男 @alkali_acid

少年のうわべを持つ狂人は、未来から逃げ戻って来た幼馴染の背をさすりながら、混乱した説明を聞き取った。 「なるほど。鏡の女王と君の魔法は同種のもので、二人で一緒に使ったら衝突を起したみたいだね」 「そうか…」 「自分だけじゃなく周りが何をしているかも見た方がいいよ」

2020-10-02 21:47:02
帽子男 @alkali_acid

「私は…戦いは苦手なのだ…」 「でも繁殖には長い時間がかかったろ?戦い方を覚える時間もあっただろ?」 「多少は…だが…私は女性と過ごす方が合っている」 「なるほど…うん。そうかも。それと肉の器から霊気を引きはがす魔法だって?厄介だね。ダリューテってそこまで強かったかなあ」

2020-10-02 21:49:03
帽子男 @alkali_acid

「まるで以前とは別人だ。底が知れない…私があれほど苦戦した鏡の女王を圧倒していた」 「うーん…さすがに妖精の攻撃呪文のことになると、僕の手に余る。鏡の女王を味方につけられたらなら、そっちに相談してみるしかないな」 「…相談…そ、そうしよう」 「がんばれガミ」 「ケル…」

2020-10-02 21:51:16
帽子男 @alkali_acid

時の支配者は用が済むと、助言役の時を早め塵に変えた。もう何度目になるのか。 「…君がいなければよかった…初めから…」 それから指示の通りに働き始めた。

2020-10-02 21:52:41
帽子男 @alkali_acid

まず鏡の女王が、冥皇の安置所の外に出陣する直前まで時を進め、軍議というにはつたないやりとりをする。 「鏡の女王…おほん…ティターネイアよ」 「何なりと…我が神」 「外に待つ妖精の騎士は油断ならぬ敵…肉の器から霊気を引きはがす呪文を用いる」 「面妖な…」 「正体は解らぬが…そなたなら」

2020-10-02 21:55:36
帽子男 @alkali_acid

「小賢しき術法。御威光にかけて打ち破ってごらんにいれましょうぞ」 「それと…そなたの隷属の呪文だが…私とぶつかりあうところが合うようだ。共に和し、強め合うようにしたい」 「恐れながら。このティターネイア。ほかのものと術を合わすは不得手」 「そ、そこを曲げてだ」

2020-10-02 21:57:57
帽子男 @alkali_acid

かくして時の支配者は、まず巨大な生きた鉱脈、鉱蛆を騎獣とする鏡の女王を先鋒に押し立て、遅れて百万の眷属とともに軍勢となって参戦した。 「見切ったぞ…そなたの術!!!」

2020-10-02 22:00:15
帽子男 @alkali_acid

虚空を縦横に走る糸の間を、妖精の士帥は鉱蛆を盾に強引に肉薄しながら、接近した。 「そっ首掻いてくれるわ!」 生け捕りの命令など忘れ果てたように凶暴な笑みを浮かべながら、ティターネイアは矢柄を半ばでへし折って鏃を短剣がわりにダリューテを強襲する。

2020-10-02 22:02:53
帽子男 @alkali_acid

「スー…ハーッ…スーッ…ハーッ」 しかし鏡の女王を待ち受けていたように妖精の騎士は奇妙に緩やかな呼吸を続けており、同族だけに発揮しうる敏捷さで、鋭い得物を回し受けに払いのけると、強烈な当身を撃ち込んだ。 「ぐぅっ…!?」 またしても未知の技を受け、ティターネイアは息を失う。

2020-10-02 22:05:30
帽子男 @alkali_acid

「済まぬ…ガラデナ…」 さらに糸を繰り出してダリューテは、実の娘の体から始祖たる女の霊気を引きはがした。 時の支配者は戦慄し、全滅を待たず過去へと撤退した。

2020-10-02 22:07:17
帽子男 @alkali_acid

「勝てない…ダリューテを力ずくで得るのは…待て…考えろ…鏡の女王も我がものとなった…考えるのだ…もうケロケルに頼らずとも…」 時の支配者はやり直し続けた。何度かはやはり忌み嫌う助言役に相談もした。しかしてついに文字通り攻略の糸口を得た。

2020-10-02 22:10:37
帽子男 @alkali_acid

対抗する武器を見出すべく、冥皇の安置所に眠るさまざまな財宝をあらためて見て回りつつ、先に篭絡しておいた遺物鑑定士を執拗かつ入念に嬲り抜いて、情報を引き出した。 「かげ…のやりは…二つの木さえ…霊気を…流出させ…枯らし…ひぐっ…」

2020-10-02 22:13:34
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