科学を殺す「象牙の箸」

学術会議をこき下ろすことは一時の快が得られるのかもしれない。しかしそれは日本にポルポトの亡霊を生み出しかねない、「象牙の箸」なのかもしれない。
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shinshinohara @ShinShinohara

「政治家は国民の審判を経ているが、日本学術会議は自分たちで選んでいる」という言説を広げている人物がテレビで出ている様子。ムチャクチャな言説なのだが、一般の人は研究者がどうやって「正しさ」を担保しているかわからないと思うので、センセーショナルな物言いに動揺する人がいるかもしれない。

2020-10-05 21:51:08
shinshinohara @ShinShinohara

これは、科学がどうやって「正しさ」を担保しているか、ということに直結する話でもある。日本学術会議に選ばれる人は、そうした「正しさ」を提示することに成功した人。そして、多くの研究者がその偉業を認める人だけが選ばれる。では、その「正しさ」はどうやって担保されているのか?

2020-10-05 21:55:03
shinshinohara @ShinShinohara

それは、「再現性」と「査読」によるものだ。再現性とは、同じ条件がそろえば同じ現象が起きる、ということ。科学は基本的に、再現性を基礎にしている。もしすごい論文が出た!と思われても、再現性が確認できないなら、「間違ってたのね」とスルーされる仕組みになっている。

2020-10-05 21:56:50
shinshinohara @ShinShinohara

natureなどの学術雑誌に掲載されることは、優れた研究業績だという証明のように考えられているけれど、さにあらず。けっこう、掲載論文に間違いが見つかることが多い(再現性が確認できない)。たとえ掲載されても、再現性が確認できないならその論文はほぼ無効とされる。

2020-10-05 21:58:45
shinshinohara @ShinShinohara

もう一つ、再現性ほどではないが、科学の正しさを<おおよそ>担保する方法として、査読という仕組みを整えている。これは、その雑誌に論文を載せたことがある、実力ある研究者が2人以上査読者となって、新しい論文の内容を審査するもの。2人が認めないと掲載はされない。

2020-10-05 22:00:46
shinshinohara @ShinShinohara

この仕組みは、FirefoxやOpenOfficeなど、無料なのにマイクロソフトが巨額のお金と人員を費やして開発したものと匹敵する機能を備えるソフトの開発にも使われている仕組み。そう、それが「査読」だ。

2020-10-05 22:02:42
shinshinohara @ShinShinohara

そうしたオープンソースと呼ばれるソフトの開発では、新しい改良の提案に対し、2人以上の査読者がつく。査読者は、過去に改良案を提案し、採用された経験の持ち主だ。そして査読者が全員オーケーを出したら、新しい提案は採用され、ソフトの改良に盛り込まれる。

2020-10-05 22:04:43
shinshinohara @ShinShinohara

こうすることで、不特定多数の人間が開発にかかわるにもかかわらず、全体の統一性、調和性が損なわれず、開発を進めることができる。査読というのは、一定の品質を保つことができる、なかなか面白いシステムだ。

2020-10-05 22:05:54
shinshinohara @ShinShinohara

日本学術会議に選ばれる人たちは、「再現性」と「査読」の両方で、その偉業が担保されている。優れた研究者は、やはり優れた研究者が複数査読者となり、その厳しい審査を通過して論文が掲載されている。しかも、数多くの研究者が再現性を確認し、その論文を引用することで、その正しさを何度も追認。

2020-10-05 22:07:44
shinshinohara @ShinShinohara

査読というシステム、再現性を確認するというシステムは、不特定多数の人間が参加しても、仕事の質を維持できるという非常に興味深いシステムだ。科学はたまたまなのか、そのシステム構築に成功し、オープンソースと呼ばれる開発環境は、それを模して進められている。

2020-10-05 22:09:09
shinshinohara @ShinShinohara

査読と再現性は、ものすごくあとになってから誤りを見つけることにつながることがある。そのとき、慎重に審議されるものの、ちゃんと誤りが正される仕組みとなっている。科学はこのシステムを構築することに成功したことで、人類で最も信頼される学問となっている。

2020-10-05 22:11:23
shinshinohara @ShinShinohara

しかるに、今回、政治家が自分の失敗を糊塗するために学術会議を貶めようとしている。これは、家を建てたことのない素人が建築家を非難し、料理を作ったことのない人間が料理人を愚弄するのと同じくらい、愚劣なこと。

2020-10-05 22:13:08
shinshinohara @ShinShinohara

料理の世界でも、大工でも、農家でも、プロが認めるプロというのがいる。プロの人々から見てもあの人はすごい!という人。科学は特に、論文という誰でも閲覧できるもので仕事ぶりを晒すので、偽物はすぐ見破られる。査読と再現性の機能によって。

2020-10-05 22:15:27
shinshinohara @ShinShinohara

なのに、学術会議を否定するということは、まかり間違うと、科学を信じられなくなり、ひいてはすべての学問を信じられなくなり、プロがアマにバカにされ、職人が素人に愚弄される世界につながる。やがて、迷信が科学を凌駕することにもなりかねない。これを「誇張しすぎ」というだろうか?

2020-10-05 22:17:05
shinshinohara @ShinShinohara

古代中国で悪王として知られる紂王。しかし悪王としての正体が現れるまでは、実は頭が切れ、武術にも優れたスーパーマンだと思われていた。ところがある日、紂王は象牙の箸を使い始めた。当時の総理大臣はそれを見て、「ああ、国が滅ぶ」と嘆いた。

2020-10-05 22:18:34
shinshinohara @ShinShinohara

「ぜいたくな箸を使うようになれば、食器も豪華にしたくなる。そうすればテーブルも、部屋も、屋敷も、庭園も、その周囲も、と、豪華にすることに際限がなくなり、それを実現するために税はどんどん重くなり、国民は疲弊し、国が亡ぶだろう」と予言。そしてその通りになった。

2020-10-05 22:20:17
shinshinohara @ShinShinohara

「象牙の箸」は、ほんのわずかな兆候に過ぎない。王様なんだから箸くらいぜいたくしてもいいじゃないか、という気がしないでもない。しかし、その王様の性格を考えると、その延長線上にはとんでもない未来が待ち受けていることを、その総理大臣は読み取ったのだろう。

2020-10-05 22:21:32
shinshinohara @ShinShinohara

今回の学術会議をこき下ろす傾向、これは「象牙の箸」どころではない。まさにミソとクソをごちゃ混ぜにする話だ。ミソにクソを混ぜたら食えない。長い時間をかけて、査読と再現性で(少なくともかなりの確度で)正しさを担保してきた科学が、瓦解しかねない。アマがプロをこき下ろす社会。

2020-10-05 22:23:41
shinshinohara @ShinShinohara

ポル・ポト派はビルマにおいて、知識人を大量虐殺した。知識人と言っても、学校の先生くらいの、少し本を読む程度の人でも殺した。そのため、文字の読めない人も多く、科学的思考のできる人がいなくなってしまい、国が長く低迷する原因を作った。

2020-10-05 22:25:05
shinshinohara @ShinShinohara

中国では文化大革命の際、紅衛兵と呼ばれる若者たちが「知識を鼻にかけているやつら」を糾弾するため、知識人を大量に虐待・排除した。その結果、知識人たちは国に忠告することをやめ、口を閉ざし、中国の長い低迷の原因を作った。

2020-10-05 22:26:27
shinshinohara @ShinShinohara

今度の件は、政治家が一言謝れば済むことを、謝ることを嫌うために、学術会議をけなすことを暗黙の裡に推奨している。放置している。これは非常に危険だ。老いた毛沢東が、紅衛兵たちの知識人虐待を放置していたのと同じ構図。確かに命令していない。勝手に動いているのだが、黙認は追認と同じ。

2020-10-05 22:28:18
shinshinohara @ShinShinohara

この危険性が、わかるだろうか?わかってくれるなら、どうか、ここが踏ん張りどころだと気付いてほしい。これはあかん。テレビにムチャクチャ言わすな!少なくとも、謝った言説を許したらあかん!日本にポル・ポトが現れるかどうかの瀬戸際だと思わねば。「象牙の箸」はもう箸にとどまっていないかも。

2020-10-05 22:30:23