同人誌違法アップロードサイト訴訟 控訴審判決(R2.10.6.知財高裁判決)を読む

著作権侵害に関連する当事者の主張と司法の判断箇所を一審・控訴審判決から引用した上で、控訴審判決についての法律・知財関係者のツイートを中心に収録。
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 判決文を見ていく前に、あらましの紹介を兼ねて、東京地裁判決を報じたねとらぼの記事を引用しておきます。

 いわゆる“違法同人誌サイト”に自身の作品を無断でアップロードされたとして、同人作家の女性がサイト運営元を訴えていた件(代理人:電羊法律事務所 平野敬弁護士)で、東京地方裁判所は2月14日、被告らに対し約219万円の支払いを命じる判決を下しました。
 訴えられたのは、熊本県のIT企業「アクラス」とその取締役ら。被告らは「Comi★コミ」などの電子書籍サイトを運営する傍ら、「BL同人801館」など複数の同人誌転載サイトを運営しており、原告の同人作品を無断で掲載していました。
 今回の裁判で大きな争点となったのは、「パロディー(二次創作)同人誌は著作権で保護されるか」という点。アクラス側は原告の作品について「原著作物の著作権者から許諾を得ておらず、違法な二次的著作物に当たる」とし、訴えは不当であると主張していましたが、東京地裁の佐藤裁判長は「本件各漫画が違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠は存在しない」と判断。原告側の訴えが認められた形となりました。なお、賠償額については、各作品の推定ページビュー数に、1冊あたりの利益額を掛けて算出されたもの。

リンク ねとらぼ 「同人誌ならグレーだから訴えられない」「駿河屋で買って自社で裁断」 被害続く“違法同人誌サイト”、法人運営の悪質手口を関係者に聞いた 弁護士「同人誌であっても、著作権者の許可なくネット上に本文を全文転載することは違法」。 576 users 3

原告側が一審の審理で引用している、被告会社の関係者にインタビューを実施したねとらぼの記事(2018年6月)です。

《一審》令和2年2月14日 東京地方裁判所判決

事案の概要と東京地裁が認定した前提事実、争点、当事者の主張を併せて掲載しますが、興味のない人は「第4 当裁判所の判断」まで飛ばして読んだ方がいいかもしれません。

第2 事案の概要

1 本件は,原告が,被告会社は,自らが運営する別紙ウェブサイト目録記載のウェブサイト(以下,符号に従い「本件ウェブサイト1」などといい,併せて「本件各ウェブサイト」という。)に,原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の漫画(以下,符号に従い「本件漫画1」などといい,併せて「本件各漫画」という。なお,以下では,本件漫画1~14のうちいずれか複数を含む場合にも「本件各漫画」と表記することがある。)を無断で掲載し,原告の著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して,被告会社に対し,民法709条及び著作権法114条1項に基づき,損害賠償金1億9324万3288円のうち1000万円及びこれに対する不法行為日である平成30年7月7日(本件各ウェブサイトへの掲載日のうち最も遅い日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告会社の現在の代表取締役である被告Y1及び同年8月25日まで代表取締役であったZ(同日死亡。以下「亡Z」という。)が,被告会社の法令順守体制を整備する義務に違反して,被告会社が上記著作権侵害行為を行う本件各ウェブサイトを運営することを許容したとして,被告Y1及び亡Zを相続した同人の配偶者である被告Y2に対し,会社法429条1項に基づき,被告会社と連帯して,上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者
 被告会社は,書籍・DVD・ビデオ・ゲーム用ソフトウェアの売買等を目的とする株式会社である。
 被告会社の代表取締役は,平成21年8月以前から平成30年8月25日に死亡するまで亡Zが務め,その間の取締役は,亡Zの配偶者である被告Y2,被告Y1ほか1名であった。被告Y1は,同年9月4日に被告会社の代表取締役に就任し,現在までその職にある。(弁論の全趣旨)被告Y2は,亡Zの死亡に伴い,亡Zの権利義務を相続した。(甲6)
(2)本件各漫画の本件各ウェブサイトへの掲載
 本件各漫画は,遅くとも平成30年7月7日までには本件各ウェブサイトに掲載され,閲覧者はこれらを無料で閲覧することができた。(甲9,42)
3 争点

  • (1)本件各漫画の著作物性(争点1)
  • (2)原告が本件各漫画の著作権者であるか(争点2)
  • (3)被告会社が本件各漫画を本件各ウェブサイトに掲載したか(争点3)
  • (4)被告会社の故意・過失の有無(争点4)
  • (5)信義則違反又は権利濫用の成否(争点5)
  • (6) 損害額(争点6)
  • (7)被告Y1及び被告Y2に対する会社法429条1項に基づく責任の成否(争点7)

(太字は引用者による。以下同じ)

第3 争点に関する当事者の主張

(1~4 省略)
5 争点5(信義則違反又は権利濫用の成否)について
〔被告らの主張〕
 本件各漫画は,いずれも有名なテレビアニメの登場人物及びストーリーを脚色したものであり(乙10),二次的著作物に該当する。原告は,原著作物の著作権者から許諾を得ておらず,本件各漫画は,違法な二次的著作物に当たる。原告は,自ら原著作物の著作権を侵害しながら,自己の著作権侵害を主張して第三者に対する損害賠償請求をしており,このような行為は,信義則に反し,あるいは権利の濫用に該当する。
〔原告の主張〕
 抽象的なキャラクターは表現そのものではなく,著作物に該当しないから,漠然と原著作物に当たるとする作品のタイトルを挙げるだけでは,本件各漫画が二次的著作物に当たるということはできない。
 仮に,本件各漫画が二次的著作物に該当し,原著作物の著作権者の許諾を受けていないとしても,二次的著作物の著作権者は,第三者に二次的著作物の著作権を侵害されたときは,法的救済を求めることができるのであり,被告らの主張は理由がない。
(中略)

第4 当裁判所の判断

(1~4 省略)
5 争点5(信義則違反又は権利濫用の成否)について
 被告らは,本件各漫画が違法な二次的著作物であるから,原告の本件損害賠償請求は信義則違反又は権利の濫用に当たると主張するが,本件各漫画が違法な二次的著作物であると認めるに足りる証拠は存在しない。したがって,原告が,本件各漫画を無断で本件各ウェブサイトに掲載し,公衆送信した被告会社及び後記7のとおり会社法429条1項の責任を負う被告Y1及び被告Y2に対して権利行使することが信義則違反又は権利濫用であるということはできない。

ここで、原告(同人作家)の請求を確認すると、

被告らは,原告に対し,連帯して1000万円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

これに対し、東京地裁の判決は、

1 被告らは,原告に対し,連帯して219万2215円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
(後略)

ということで原告の損害賠償請求が一部認容されることとなりました。
この後、原告・被告双方が判決に不服として控訴します。

令和2年10月6日 知的財産高等裁判所判決

 知財高裁は判決の中で、一審の東京地裁判決で示された前提事実に以下の「本件各漫画の特徴」を追加しています。

本件各漫画の特徴
 本件各漫画は,次のとおりの共通の特徴(以下,「特徴①」のようにいう。)を有する(ただし,本件漫画11は,特徴⑤⑥を有さない。)。

  • ①主要な登場人物(以下「主役」という。)は,若い男性二人である。
  • ②主役の名前は,いずれも,有名なシリーズものの漫画又はアニメの登場人物と同一である。本件各漫画のそれぞれに対応する漫画又はアニメ(以下「原著作物」という。)の題号を示すと,別表のB・C列のとおりである。
  • ③主役の顔貌及び体型は,原著作物の主役のそれと酷似している。
  • ④ストーリー中の人間関係や場面設定,図画中の建物や小道具等において,原著作物と同一又は類似のものがみられる(具体例を別表のD列に示す。)
  • ⑤ストーリーの中核となるのは,主役二人が性交類似行為又はこれに準じる行為をする場面である。原著作物には,そのような場面は存在しない。
  • ⑥当該場面のいくつかには,男性器の形態や精液の飛散が描出されている。
  • ⑦表紙又は奥付の中に,原著作物の題号又は登場人物名に言及する部分がある。

第3 当事者の主張

1 (略)
2 争点5(信義則違反又は権利濫用)についての補充主張
〔一審被告らの主張〕

(1) 本件各漫画の違法性

 本件各漫画は,原著作物に依拠して,原著作物のキャラクターをそのまま利用して,原著作物の著作権者(以下「原著作権者」という。)の許諾なく,ストーリーを同性愛及びわいせつなものに変容したものである。このような本件各漫画は,次のとおり違法なものである。
ア 著作権侵害

  • (ア) 原著作物への依拠
     特徴⑦から明白である。
  • (イ) 複製権の侵害
     複製といえるためには,何人も容易に原著作物のキャラクターを知ることができるもの,すなわち,その個性(本質的特徴)が顕れているものの利用であればよく,その判断,認識は,美術の専門家によるものである必要はなく,素人の第一印象でよい。原著作物の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部で一致することを要求するものではなく,その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りる。なお,誰が見ても原著作物の登場人物が表現されていると感得されるようなものであれば,どの回の,どのコマの絵を複製したものであるかを特定する必要はない。
     本件各漫画と原著作物とは,ストーリー及びキャラクターが,特徴②~④のとおり,名称,髪型,表情,体型,装身具,人間関係等において一致している。
     したがって,本件各漫画は,原著作物の複製権を侵害する。
  • (ウ) 翻案権の侵害
     本件各漫画は,原著作物のキャラクター及び場面設定を利用して,そのストーリー及び描写をわいせつな内容等に変容させているが,著作物といえるキャラクターが特徴②~④のとおり同じであることから,一般読者に対し,原著作物の表現上の本質的特徴を直接に感得させるものである。したがって,本件各漫画は,原著作物の翻案に当たる。
  • (エ) 同一性保持権の侵害
     原著作物は,いずれも人気作品であり,様々な賞を受けている。このような作品に対して,その内容を特徴⑤⑥のようなわいせつな内容に変容することを原著作権者が許諾するはずもなく,本件各漫画は,原著作者の同一性保持権を侵害しており,その侮辱の程度は甚だしいと言える。

イ わいせつ性
 二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない。この点,本件各漫画の創作的部分は,いずれも,特徴⑤⑥のとおり,わいせつ性を有することが明らかである。
 刑法で処罰の対象としているわいせつ図画については,そもそも著作権が発生しないと解される。また,特許権,実用新案権,意匠権及び商標権について,公序良俗に反するものは権利として保護されていないので,同様に,著作権についても公序良俗に反するものは保護する必要がないと解される。
 仮に,わいせつ図画にも著作権が発生すると解した場合でも,わいせつ図画を日本国内において不特定又は多数人に販売することは禁止されており,そのような作品の頒布を目的として著作者がこれを販売することも,民法上公序良俗に違反すると解される。

(2) 本件各漫画に法的保護を与えることは許されないこと

 以上のとおり,本件各漫画は,原著作物の複製権,翻案権及び同一性保持権を侵害しており,違法な二次的著作物であり,原著作物を侮辱するとともに,わいせつ図画化という公序良俗に反する許容できない変容を加えている。仮に,一審原告の本件請求を認容すれば,裁判所が,このような著作権侵害行為及びわいせつ図画を容認し,違法な同人誌による金儲けを助長することになる。
 したがって,一審原告の得る利益に対して,裁判所が,適法な利益として保護を与えることは許されない。
イ 違法な著作物の著作権行使は信義則違反又は権利濫用に該当すること
 法の改正経緯などに照らして,違法な二次的著作物にも著作権があるとの考え方及び同旨の裁判例がある。他方で,ベルヌ条約2条や米国法103条のように,違法状態を作出した者を保護するべきではないとの価値判断から,違法な二次的著作物には著作権をそもそも発生させず,権利行使をさせないとの考え方もあり,我が国内でも同旨の学説がある。
 しかし,違法な二次的著作物にも著作権があるとの考え方に立っても,その著作権の行使が,信義則に反し権利の濫用となる場合がある。本件各漫画が原著作者の著作権を侵害するものであること,その創作的部分は公序良俗に反し不特定多数人への販売が禁じられるわいせつ図画であることに照らせば,本件各漫画に基づく著作権の行使は,信義則違反又は権利の濫用に当たり,認められない。

第4 当裁判所の判断

1(略)
2 争点5(信義則違反又は権利濫用)について
 一審被告らの主張は,次のとおり,採用することができない。

(1) 著作権侵害に関する主張について

ア 原著作物への依拠
 特徴⑦によれば,本件各漫画は,原著作権に依拠して作成されたものと認定できる。
イ 著作権侵害の有無
 一審被告らは,本件各漫画には原著作物のキャラクターが複製されている旨主張する。しかしながら,漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない(最高裁判所平成4年(オ)第1443号,同9年7月17日第一小法廷判決,民集51巻6号2714頁)。したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。
 また,原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(上記最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである(なお,一審被告らは,東京地裁昭和51年5月26日判決(判例タイムズ336号201頁)に基づいて,登場人物等に関しては,登場シーンを特定する必要はないという趣旨の主張をするが,上記最高裁判所判決に照らし,採用することはできない。)。
 この観点から検討すると,一審被告らの主張のほとんどは,原著作物のどのシーンに係る著作権が侵害されたのかを特定しない主張であって,主張として不十分であるといわざるを得ない。そして,原著作物の特定のシーンと本件各漫画のシーンとを対比させた乙10の1~7(もっとも,「アニメ版」として掲げられているシーンについて,第何回のどの部分という具体的特定までがされているわけではない。)の内容を検討してみても,原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず(なお,乙10の1~7の中で,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べているのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),また,基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。
 以上の次第で,一審被告らの著作権侵害の主張は,それ自体失当であるし,現在の証拠関係を前提とする限り,仮に原著作物のシーンが特定されたとしても,著作権侵害が問題となり得るのは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分(複製権侵害)に限られるものといわざるを得ない(なお,一審被告らは,本件各漫画で描かれた各シーン(ストーリー展開に関わる部分)は,原著作物の基本的設定に関わる部分の翻案に当たり,また,同一性保持権を侵害していると主張するかもしれないが,上記基本的設定に関わる部分は,主人公等の容姿や服装などの表現そのものにその本質的特徴があるというべきであって,ストーリー展開に本質的特徴があるということはできないから,本件各漫画に描かれたストーリー展開が,上記基本的設定に関わる部分の翻案に当たると解する余地はないし,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分に変更がない以上,同一性保持権侵害が問題になる余地もない。)。
ウ 権利行使の可否
 以上によれば,本件各漫画が,原著作物の著作権侵害に当たるとの主張は失当であるし,仮に著作権侵害の問題が生ずる余地があるとしても,それは,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分の複製権侵害に限られるものであって,その他の部分については,二次的著作権が成立し得るものというべきである(なお,本件各漫画の内容に照らしてみれば,主人公等の容姿や服装など基本的設定に関わる部分以外の部分について,オリジナリティを認めることは十分に可能というべきである。)。
 そうすると,原著作物に対する著作権侵害が認められない場合はもちろん,認められる場合であっても,一審原告が,オリジナリティがあり,二次的著作権が成立し得る部分に基づき,本件各漫画の著作権侵害を主張し,損害賠償等を求めることが権利の濫用に当たるということはできないものというべきである。

(2) わいせつ性の主張について

 一審被告らは,本件各漫画はわいせつ文書に当たるから,そのような文書に基づいて権利行使をすることは許されないと主張するところ,たしかに本件各漫画(本件漫画11を除く。)は特徴⑤⑥を有するものであることが認められる。しかしながら,本件各漫画全体を検討してみても,それらが甚だしいわいせつ文書であって,これに基づく著作権侵害を主張し,損害賠償を求めることが権利の濫用に当たるとか,そのような損害賠償請求を認めることが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。

参照判例

平成9年7月17日 最高裁第一小法廷判決 《ポパイネクタイ事件》

 一 漫画において一定の名称、容貌、役割等の特徴を有するものとして反復して描かれている登場人物のいわゆるキャラクターは、著作物に当たらない。
二 二次的著作物の著作権は、二次的著作物において新たに付与された創作物部分のみについて生じ、原著作物と共通し、その実質を同じくする部分には生じない。

c.f. 昭和51年5月26日 東京地裁判決《サザエさんバス事件》
 著作権侵害を主張するシーンの「特定」の程度について、一審被告側が援用し、知財高裁が前掲平成9年最高裁判決をもって否定した理路です。

被告は、前認定のとおり、観光バスの車体の両側に本件頭部画を作出した(本件行為)ものであるところ、被告の右本件行為は、話題ないしは筋とでもいうべきものを表現したものではないし、また本件行為の主たる目的にしても、「サザエさん観光」と称する観光バスの営業に供されるバスであることを表示すること、つまり被告の営業の施設ないしは活動を表示することにあるものと解される。しかし、本件頭部画は、成立に争いがない甲第五号証で認められるとおり、誰がこれを見てもそこに連載漫画「サザエさん」の登場人物であるサザエさん、カツオ、ワカメが表現されていると感得されるようなものである。つまり、そこには連載漫画「サザエさん」の登場人物のキヤラクターが表現されているものということができる。ところで、本件頭部画と同一又は類似のものを「漫画サザエさん」の特定の齣の中にあるいは見出し得るかも知れない。しかし、そのような対比をするまでもなく、本件においては、被告の本件行為は、原告が著作権を有する漫画「サザエさん」が長年月にわたつて新聞紙上に掲載されて構成された漫画サザエさんの前説明のキヤラクターを利用するものであつて、結局のところ原告の著作権を侵害するものというべきである。

 この後、知財高裁は一審原告が当初の請求通りの1000万円の支払いを求めた賠償額についても検討を加えています(本記事の関心から外れるので詳細には触れませんが、気になる人は判決文を読んでください)。
 その上で、

1 一審原告の控訴を棄却する。
2 一審被告らの控訴をいずれも棄却する。

と結論づけており、一審判決の内容が維持されています。

スドーこと平野敬 弁護士(@stdaux)のツイート

スドー🍞 @stdaux

電羊法律事務所 平野敬(第二東京弁護士会)/インターネッツとかシステム開発とか

elsh.jp

スドー氏(平野敬 弁護士)は一審原告(同人漫画家)側の代理人である点、念のため付記しておきます。

スドー🍞 @stdaux

知財高裁の判決が掲載されました。同人誌の法的位置づけについては以後これがリーディングケースになると思われます。 courts.go.jp/app/hanrei_jp/…

2020-10-07 15:29:20
スドー🍞 @stdaux

”漫画の「キャラクター」は,一般的には,漫画の具体的 表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって,具体的表現そのものではなく,それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものとはいえないから,著作物に当たらない…

2020-10-07 15:33:16
スドー🍞 @stdaux

したがって,本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって,これによって著作権侵害の問題が生じるものではない。”

2020-10-07 15:33:17
スドー🍞 @stdaux

”シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである”

2020-10-07 15:35:05
スドー🍞 @stdaux

担当事件については「弁論で主張したこと」「裁判所が判決で言ったこと」「判決を踏まえて言いたいこと」が混じってウワアアとなるので他の方に解説をお願いしたい派

2020-10-08 11:29:18
QB被害者対策弁護団団員ronnor✌︎('ω'✌︎ ) @ahowota

法アニクラスタ。 #BLJ #杉原千畝プロジェクト #経営アニメ法友会 #新人法務パーソンへ #オタク流勉強法 #明認方法 #二次元ツマー教 #リーガルリサーチ ブログ「アホヲタ元法学部生の日常」同人「これからの契約の話をしよう」商業『アニメキャラが行列を作る法律相談所』『Q&A若手弁護士からの相談203問/199問』

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QB被害者対策弁護団団員ronnor✌︎('ω'✌︎ ) @ahowota

同人誌と著作権に関する知財高判令和2年10月6日は、キャラクターそのものは著作権の対象にならない、原作者の許可のない2次創作でも著作権が認められる(ことがある)等、既に言われていたことの確認が比較的多い印象もあるものの、知財高裁レベルで明確に判断されたことに意義がある。 #著作権 #同人

2020-10-07 17:37:46
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