終の戦2(#えるどれ)

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前回の話

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以下本編

帽子男 @alkali_acid

この物語はエルフの女騎士が奴隷となり失ったものを取り戻すファンタジー 略して #えるどれ 過去のエピソード一覧はこちらからどうぞ wikiwiki.jp/elf-dr/

2020-10-16 19:41:14
帽子男 @alkali_acid

いっさいは夢。 泡沫(うたかた)に消えゆく幻に過ぎない。 不死の民の心とて時の塵に還り、忘却のかなたに散り隠れゆく。 さればこそひととき歌い踊り、飲み食らい、剣を交え、拳を打ち合う。 妖精と神々の降り立った戦場に、また魔法の宴が開かれた。

2020-10-16 19:44:15
帽子男 @alkali_acid

闇の女王は、暗くみずみずしい膚に火焔とも蔓草ともつかない紋様を燃え立たせると、汗のかわりに美酒を散らし、たわわな乳房と双臀を揺らしながら、胸や股を貫く飾り輪を連ねる細鎖を煌めかせ、小鈴を響かせた。 腕環や足環の象嵌から香煙がたなびき、透き通った虹の薄絹は千変万化の耀(かがよ)う。

2020-10-16 19:47:15
帽子男 @alkali_acid

手に持つ剣の磁器の刃が虚空に閃き、周囲を巡る時の支配者をまた退かせる。 女神は昏々と眠りながら呪文を唱え続け、あらゆる時を滞りなく急がせず、ただ流れるがままにした。 全身が楽器であり料理であり細工である肢体はかぐわしい匂いをさせつつ、彼方から聞こえる黒の歌い手の音曲に共鳴りし、

2020-10-16 19:50:46
帽子男 @alkali_acid

冥府の魔法を寒し野にあまねく解き放った。 死者は生身を得て蘇り、凍てついた土は緩んで青草を萌えいずらせ、苗がすくすくと伸びて森をなす。 しかし一切この此岸(しがん)、狭の大地のものではない。彼岸、影の国のものであった。

2020-10-16 19:52:34
帽子男 @alkali_acid

さすらいの王アルメニカは、あちこちに伏した骸が起き上がり、亡者ではなく命あるものとして呆然とたたずむのを目に留めた。 双頭の鷲の帝国、戦斧の共和国、三日月の帝国の精鋭がことごとく復活を遂げつつあった。

2020-10-16 19:54:18
帽子男 @alkali_acid

「なんて夢だ…」 翼の冠と銀の王錫を持つ人間の将帥は、短くうそぶくと、やがて笑いを浮かべた。 「夢ならいっそ、酒と飯もつけてくれりゃいいが」

2020-10-16 19:56:02
帽子男 @alkali_acid

すると麺麭(パン)と葡萄酒が降った。燻製肉と小粒の辛い生の玉葱もついていた。乾無花果入りの甘い乾酪(チーズ)も。籠に入って、落下傘つきで。 「こいつは…」 空を見上げると、耳障りな笑い声があちこちから聞こえ、羽搏きがする。

2020-10-16 19:57:52
帽子男 @alkali_acid

翼ある恐るべき獣にまたがった小鬼(ゴブリン)の飛行隊が、けたたましく騒ぎながら、次から次へと慰問の品を撒き散らしていたのだった。 「できた夢じゃねえか」 「メニカ。こいつは食っていいもんなのか」 そばについた副官がうさんくさげに問いかける。 「さあな。試してみようぜ」

2020-10-16 20:00:30
帽子男 @alkali_acid

とりあえず、万を越える将兵すべての腹を満たすだけの糧は天から降って来た。 唯一にして大いなるものの御子が、そう望んだかのように。

2020-10-16 20:01:33
帽子男 @alkali_acid

◆◆◆◆ "うははは!味見さしすぎてちょこっと減ってしまったな!残りさしかと料理すで勘弁してほしいだども" 四首の暗黒竜、大喰(おおぐい)は四重の咆哮を響かせながら、生きた鉱脈たる鉱蛆の残骸に呼び掛けた。 "地底に帰りたい…帰りたい…" 遥か大地の底を蚕食する力あるものは泣いていた。

2020-10-16 20:04:21
帽子男 @alkali_acid

"んだか!んではそうすっだな" 大食、あるいは黒の料り手は特にこだわらず、残り五柱の海獣と向き合った。 青みがかった透き通った翼と虹色の臓腑を持つ海魔、甲殻におおわれた生きた艀(はしけ)こと雷怪、同族たる黒翼の火竜、さらに双頭の蛇を肩に生やした乙女、

2020-10-16 20:06:25
帽子男 @alkali_acid

もつれあう根と縦横に伸ばし、花鞠を戴いた動く森のごとき神参。 だが無尽の活力を備えるかの如き四頭の長虫は、それらをすべてを一度に相手どってなお余裕があった。 "もおやだあああ!ごわいよおおお!ぅああ…" 海魔は氷山より大きな体をのたうたせて嗚咽する。

2020-10-16 20:08:36
帽子男 @alkali_acid

"スズ…ユキ…まもる…" 雷怪が盾になろうと動くが、宙(そら)の旅にも耐えるはずの強靭な装甲はあちこち傷だらけになり、噛み破られた痕も多かった。 "このような苗床に向かぬやつは初めてじゃ。はよう温泉に漬かりたい…" 鉱蛆に次いで大量の「味見」をされた神参も根を縮こまらせている。

2020-10-16 20:10:57
帽子男 @alkali_acid

「あらん…若い子はもうちょっとだめねん。あたしはまだちょっと黒の料り手と遊びたいけどん…でも無理ねん」 双蛇は諦めたようすで、微光を発しながらゆっくり地上に降りてゆく。 “ダウバ。もう十分だ。私はラヴェインのところへ行く”

2020-10-16 20:12:48
帽子男 @alkali_acid

最後に火竜が述べると、大食は四つの首を退かせた。 “んだか!では腹減(べ)らしはしまいにすっだな” 黒鱗の雄竜は巨躯をみるみるうちに縮めて、華奢な少年の容姿になった。 「んでは飯さ作っだな。スズユキさ、何食いてえ?」 “ぶぇえ…ぇっ…えぐ…ごはん?” 「んだ」

2020-10-16 20:15:17
帽子男 @alkali_acid

海魔が不安そうに雷怪の後ろから、放射状の顎(あぎと)を閉じたり開いたりしている。 幾度か極寒の光条を放って黒の料り手を凍てつかせようとしたが、業火に押し返され、もはや攻撃するそぶりもない。 大食は笑って、腕を掲げると、巨釜を招き寄せ、側面を軽く叩いた。

2020-10-16 20:17:58
帽子男 @alkali_acid

たちまち釜から佳肴が噴き出した。 赤身の大魚を生のまま凍らせて身を切り出し、それらを寄せ集めて、さらに大きな魚のかたちに作り、ところどころに豆の醤(ひしお)を飾り玉のようにまといつかせたまま、魔法で宙を泳がせている。

2020-10-16 20:22:32
帽子男 @alkali_acid

「卵さ産んで尽きた命だども、おらさうめこと脂(あぶら)さ工夫して挿して凍魚(るいべ)に作ったで、どんだか」 “おなか…へった…たべる” 海魔は貪食という種族の本能に突き動かされ、放射状の顎を開いたまま、空を泳ぐ巨大な凍魚に襲い掛かった。

2020-10-16 20:25:28
帽子男 @alkali_acid

“おいし!おいしいいいいいいいい!!!!” 「んだか。ほかは何がええだ。薄焼菓子ちゃんの作るようなのがええだか」 “んんん?” 「ほれ」 黒の料り手がくるくると巨釜を回すと、見事な細工を施した食卓や椅子などが次々に飛び出す。いずれも黒の鍛え手の細工。上にかかる卓布は黒の繰り手の。

2020-10-16 20:28:14
帽子男 @alkali_acid

“あああ!ダリューテのおうちのとおんなじいい!!” 「んだども」 “いいなああ!!” 海魔もするすると縮んで透き通った少女のかたちになると、たったと駆けていって、椅子の一つに透き通った尻を落ちつけた。 「ごはん!ごはん!」

2020-10-16 20:29:21
帽子男 @alkali_acid

「いいわねん。みんなでごはん。お腹減ったわねん」 戦いのさなかもずっと間食を続けていた双蛇は、しかしそれとこれとは別というようすで別の椅子に座る。 「テケリも!テケリも来て!私の隣!」 海魔が呼ぶと、雷怪も甲殻を帯びた大柄な女の格好になり、おどおどと席につく。 「ひかりのかぜ…」

2020-10-16 20:31:30
帽子男 @alkali_acid

“妾も苗床が所望じゃ!” 神参は花鞠の髪と根の衣を持つ痩せた女の格好になって、繊毛のように伸びた繊維を無数の足のように動かしながら追いつく。

2020-10-16 20:33:05
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