ハイヌ－ン・ニンジャ・ノーマッド ＃6

ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【今回のエピソード】 ・「ニンジャスレイヤーPLUS」に掲載の過去編エピソード ・時系列は戦国時代のどこか ・ニンジャスレイヤーはネオサイタマだけでなく、過去にもさまざまな時代、さまざまな場所に存在した ・ニンジャスレイヤーとなった主人公「キルジマ」は、薬師の「ユフコ」に命を救われた

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【これまでのあらすじ】 ・街道街オミノロシは、冷酷な代官の支配下にあった。 ・キルジマは代官の伝令が「トゥームストーン」という名のニンジャであると見抜いており、庄屋屋敷前でこれに挑み、殺した。 ・一方、密告を受けたユフコのもとには、もう一人のニンジャ「コッカトリス」が……。

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「や、奴を殺せ！　女も殺せ！」コッカトリスは叫び、連続側転を打ってトライアングル・リープを決め、足軽隊の中へと無様に逃げ込んだ。「「アイエエエエエエ！」」その猛毒の血飛沫を浴び、数名の足軽が悲鳴をあげた。ユフコは己の死を悟り、目を閉じ、南無阿弥陀仏と唱えた。 0

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キルジマは血に餓えた猟犬の如くコッカトリスを追おうとし、寸前で踏み留まった。側転を打ちユフコの磔台へと向かった。足軽の槍の穂先がユフコの腹を障子戸めいて突き破る寸前、キルジマの刀が背後から足軽の首を刎ねた。返す刀で、キルジマは彼女を拘束する荒縄と猿轡をもろともに断ち切った。　0

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ユフコは磔台の下に転がった。恐怖かあるいはジツによってか、ユフコの足腰は萎え、立ち上がることも出来ぬと見えた。だが未だ気丈であった。　1

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「お侍様、お逃げください！　私のことなど捨てて！　足手纏いになります！」ユフコは悲鳴の代わりにそう叫んだ。だがキルジマはそれを聞き終わる前にユフコの腕をぐいと引き、有無を云わさず彼女を背負った。「拙者もまた、ニンジャに候……！」 2

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数秒遅れて、足軽隊の槍の穂先が磔台の下の土をえぐった。「イヤッー！」キルジマは左手で背のユフコを支えながら憎悪の剣を振るい、蹴りを繰り出し、足軽隊を薙ぎ払った。看板と井戸を蹴って高く跳び、長屋の屋根へと着地。ユフコを背負ったまま、手負いのコッカトリスを追った。 3

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(((バカ！)))ナラクがキルジマを愚か者と罵った。(((儂が毒を焼き払ってやったとて、こうも軽々しく血を燃やせばお主の肉体は疲弊するのだぞ、キルジマよ！　彼奴をみすみす取り逃がすつもりか！)))　4

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「奴は街の外へ逃げる……！」キルジマは鬼めいた形相で駆けながら、押し殺した声でユフコに告げた。「お主を竹林で降ろし、奴を仕留める……！」「お侍様、ニンジャなのであれば、いっそ」ユフコが意を決し、囁いた。「そのあと、連れて行って下さいませぬか」 5

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後方から浴びせられた弓矢の一本が、ユフコの右膝裏に突き刺さり、大きく揺れた。だが彼女は悲鳴ひとつ上げず、痛みすらも感じぬようであった。彼女はキルジマに語り続けた。「……私は薬師です。何かの役に」(((いかん)))ナラクが異状を察知した。(((直ちにこの女子を放り捨てよ、キルジマ……！))) 6

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「黙れ、ナラク！」(((足手纏いと云うておるのではない……！　この女の体内から毒の匂いが……！)))ナラクの警告は正しかった。ほぼ同時にキルジマは、職人通りの端で振り返るコッカトリスの目に、残忍な笑みを見た。「掛かったり！　イヤーッ！」コッカトリスが印を結び、カラテシャウトを叫んだ。 7

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次の瞬間、ユフコの背に鶏の紋章と漢字が刺青めいて浮き上がり、禍々しく発光したかと思うと、彼女の体が内側から爆ぜた。それは先程ユフコの家の中でコッカトリスによって仕掛けられた、忌々しきドクボム・ジツの力であった。　8

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SPLAAASH！　風船の爆ぜるような音とともに、緑に変色した毒の血が背中側からキルジマに浴びせられた。キルジマは彼女を背負ったまま、看板を蹴り渡り損ね、足軽やヤクザや若者連中が待ち構える大通りへと墜落した。即座に立ち上がったが、全身が鉛めいて重くなり、関節が軋み始めた。 9

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体を伝い、ぼたぼたと血が垂れ落ちた。それはドク・ジツに穢されたユフコの血であった。生ける毒袋として用いられたユフコの体は内側から爆ぜて引き裂かれ、襤褸雑巾の如き無残であった。　10

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「あッ……」それでもユフコには、未だ意識があった。痛覚はモルヒネめいて麻痺していたが、辛うじて息をしていた。何が起こったのかも解らぬまま、血塗れの己の体とキルジマを呆然と見ていた。その視界も次第に薄れ、万華鏡めいて回転を始めていた。　11

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(((ドク・ジツの力によって引き伸ばされた、かりそめの命ぞ。この女子は死んだも同然。故に痛みを感じぬのだ……！)))だがキルジマは捨てなかった。代わりに獣じみて吠え、ナラクと重なり、コッカトリスに向かって突き進んだ。　12

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「殺す！」片腕で刀を振るい、足軽らを蹴散らし、弓矢を撃ち墜としながら。「殺す！」全身の関節が軋んでいた。「殺す！」　13

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ユフコは毒の血を吐きながら、うわ言めいてキルジマに詫びた。「すみませぬ、お侍様……。私が……」そして口惜しげに歯噛みした。キルジマは挑み掛かってくる足軽や相撲取り崩れを次々斬り伏せながら、歯を食いしばって云った。「お主に非はない……！」彼の頭髪は次第に白く変色を始めていた。　14

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「私ははなから監視されていたのです……。夫も……庄屋とツネオ＝サンに謀り殺され……そうとは知らず……」「そ奴らは皆殺した」「捨てて……ください」「捨てぬ」「なぜです……」　15

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「儂は復讐の悪鬼じゃ」ニンジャスレイヤーは包囲を打ち破りながら血の涙を流し、ジゴクめいた声で云った。ユフコの無念と憎悪が彼に力をもたらしていた。「ニンジャを、儂を憎み、儂を怨んでくれ」 16

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「貴方を……憎む道理などありませぬ」「ならば……」キルジマは周囲を包囲した足軽四人の腹を容赦なく斬り開きながら、歯を食いしばり、指差し、刀のように鋭い眼差しでコッカトリスを睨んだ。黒い炎がユフコの体をも包み始めた。ニンジャスレイヤーとユフコの視界が重なった。「あ奴を」 17

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「未だ戦い続けられるか、ニンジャスレイヤー＝サン！　賞賛に値するしぶとさよ！」コッカトリスは狡猾な戦いぶりを見せた。足軽や町民を差し向け、宿場町と街道を縦横無尽に行き来して敵を誘導し、毒スリケンで体力を削った。だが、それでもニンジャスレイヤーはコッカトリスを追い続けた。　18

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「まだか、まだ倒れぬか、ニンジャスレイヤー＝サン！」コッカトリスもいまや死に物狂いであった。立ち合いで負った刀傷が塞がらず、血が流れ続けている。またこのまま同じ戦法を続ければ、いずれ手勢が殺し尽くされる。その前に、この狂った赤黒の落武者ニンジャを仕留めねばならぬ。　19

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その時、宿屋から雨のように射掛けられた弓矢が、遂に凌ぎきれずユフコを貫き、キルジマの肩にまで突き刺さった。さらにもう二本、続けざまに別の矢が突き刺さった。キルジマはよろめき、苦痛に呻いた。痛みなど感じなかったが、ユフコもまた呻いた。ただ口惜しかった。せめて一矢報いたいと願った。20