疑惑と推定無罪

20年ほど前までは呼び捨てだった
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カルヴァドス @cornelius0321

①横溝作品は原作でも映画でも、時々猛烈に再読したり再鑑賞してみたくなる。これと同じように、松本清張原作の映画『疑惑』(1982年、野村芳太郎監督)も、時々見てみたくなる。

2011-06-05 04:21:09
カルヴァドス @cornelius0321

②この映画、夫を殺害した容疑で逮捕された前科持ちの鬼塚球磨子(桃井かおり)と弁護士佐原律子(岩下志麻)の主役二人の演技がとにかく凄い。桃井かおり演じる球磨子はほんとに「イヤな女」にしか見えないし、そのように演じる桃井かおりが最高なのだ。

2011-06-05 04:21:00
カルヴァドス @cornelius0321

③『疑惑』は、名セリフと名演技の宝庫だ。球磨子が昔の恋人(鹿賀丈史)に「懲役太郎」と叫んだり、律子に「アタシ、あんたみたいな女、大っ嫌い」と噛みついたり、バーのママ(山田五十鈴)が証言台で裁判長に「年齢は」と聞かれて咳払いしかしなかったり…。

2011-06-05 04:20:48
カルヴァドス @cornelius0321

④球磨子は前科持ちであり、態度も非常に悪いため、マスコミの格好の餌食にされる。「球磨子が夫を殺したに決まっている」と。

2011-06-05 04:20:37
カルヴァドス @cornelius0321

⑤「推定無罪」という言葉がある。どんな人間であれ、裁判で有罪が確定しない限り、無罪とみなすという刑法上の大原則だ。逮捕されただけではまだ「容疑者(被疑者)」にすぎない。

2011-06-05 04:20:26
カルヴァドス @cornelius0321

⑥今でこそ、新聞やニュースでは「○○容疑者」と表現するが、マスコミの世界では、民放や新聞各社は何と1989年まで、逮捕された人物を「呼び捨て」で報道していた。この法治国家の日本で、である。

2011-06-05 04:20:16
カルヴァドス @cornelius0321

⑦ある程度の年齢の人なら、「そういえば子供のころは、逮捕された人は呼び捨てだったよな」という記憶があるはずだが、今の大学生くらいの人はそんな時代があったことを多分知らないと思う。

2011-06-05 04:20:06
カルヴァドス @cornelius0321

⑧「呼び捨て」時代の報道は、逮捕された人物に対して容赦がなかった。マスコミが報道することはすべて正しいとでも言わんばかりに。

2011-06-05 04:19:57
カルヴァドス @cornelius0321

⑨しかし、これをお読みの方はすでにお気づきだろうが、「無罪判決」が出た場合や、後から「冤罪」であることが判明した場合、「呼び捨て」報道は、容疑者とされた人物の名誉や尊厳に関して、取り返しのつかないことをしたことになる。

2011-06-05 04:19:48
カルヴァドス @cornelius0321

⑩もちろん現在のように「容疑者」という呼称を付けたからといって、犯人に違いないという予断や憶測に基づく報道であれば、「呼び捨て」時代と結果は同じことになる。

2011-06-05 04:19:34
カルヴァドス @cornelius0321

⑪球磨子は裁判の結果、「無罪」だった。球磨子という人物の生き方や態度に同情する人は少ないだろうが、それと「推定無罪」は別物である。球磨子は筆誅を加えた気になっている新聞記者(柄本明)を「ペン乞食」と罵る。

2011-06-05 04:19:23
カルヴァドス @cornelius0321

⑫マスコミを批判するのにこれほど痛烈な言葉はないだろうが、皮肉なことに「乞食」は現在の基準では放送禁止用語である。マスコミを批判する言葉自体が放送禁止であるという逆説。

2011-06-05 04:19:09
カルヴァドス @cornelius0321

⑬だから地上波で放送される場合、おそらくこのセリフは「ペン××」という感じで音声を消されるだろう。まるで、マスコミを批判する言葉を口に出してはいけないとでもいうかのようだ。

2011-06-05 04:18:55
カルヴァドス @cornelius0321

⑭日本のマスメディアには、つい最近まで「推定無罪を尊重しようという姿勢がまったくと言っていいほどなかった」ことが、この映画を題材にしてわかるのである。<この話題終わり>

2011-06-05 04:18:44