ライオット・オブ・シンティレイション #3

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

プレシーズン4 【ライオット・オブ・シンティレイション】#3 pic.twitter.com/EmwGOYUPxB

2020-11-27 21:07:07
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「ウーン、進捗はどうかね?」サペウチCEOは社長室に設置した箱庭でパットゴルフをしながら、呼びつけた本部長に尋ねた。呼んでおきながら、直視しない。それなりの仕打ちであった。本部長は90度でオジギ姿勢を保ちながら報告した。「善処を重ねております」「いつ治る?いつ捕まえる?」「最速です」1

2020-11-27 21:09:44
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「ウーン最速ねェ……100年後が君の最速なのかもね」サペウチCEOは手を止め、髭の剃り跡を擦りながら言った。「僕が怒髪天を衝くまで、最速でどれくらいかな?」「必ずや!必ず……!」本部長はドゲザにスライドした。その時、彼の携帯端末が鳴った。彼はドゲザしながら応答した。「モシモシッ!」 2

2020-11-27 21:12:41
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『ククク……見つけたぞ』「何ッ!本当か!」『プロはこういう時無駄な嘘はつかない』「そうか!よし、どこのイディオットが……」『嘘はつかない……そして、楽しむ。獲物の恐怖をな』「何……?」ギュルルル!パット球がドライブ回転し、見事にホールインした。 3

2020-11-27 21:15:52
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『まあ見ておけ。私はニンジャであり……プロフェッショナルだ。しっかりと追い詰め……個人的に愉しみ……貴社の望みも果たす。見せしめと恐怖が必要だろう?私はそう思うね……』「待て。犯人の処遇は我が社で決める。コンプライアンスに違反した残虐行為はダメだ。株価が」「……」CEOの横目線。 4

2020-11-27 21:17:52
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「と、とにかく、犯人は見つけたのだな!それはデカシタ!」本部長はCEOに大声でアピールした。『クク、その通り。あんたは知らんだろうがネオサイタマのグラフィティ連中は自分自身の紋章となるモチーフを繰り返す。モチーフはIPアドレスに似ている……そう思うね……もう尻尾は掴んだ。熟れた桃を』5

2020-11-27 21:21:06
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「た……頼んだぞ。とにかく頼んだ。ASAPだ」『アサルト……スラッシュ……アブノーマル……ペイン……!ハイ、ヨロコンデー!』「モシモシ!」通話は終わった。本部長は顔を床につけ、満面の笑みを作ってから顔をあげた。「私が手配したエージェントが、きっちりとケリをつけます」 6

2020-11-27 21:23:52
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ドッ、チチチチ、ドッ、チチチ、ドッ、チチチチチーチチチ。大音量のトラップミュージックに客が身体を揺らす中、マグナカルタはクルーとの複雑なハンドシェイク儀式を終え、あらためてザナドゥに向き直った。「あ……」ザナドゥはやや焦りながら立ち上がり、アイサツした。「ドーモ。ザナドゥです」 8

2020-11-27 21:28:12
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「ドーモ、ザナドゥ=サン。マグナカルタです」ハンドシェイクは無い。他所者だからだ。体格は決して大きくないが、底知れぬアトモスフィアは、ザナドゥにもすぐに感じられた。大歓楽街レイド・チョウのストリートをシメているギャング・クランのボスを、彼は前にしているのだ。「……ニンジャな」 9

2020-11-27 21:32:50
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「ああ、俺はニンジャだ。何か不都合あるかい」ザナドゥは胸を張った。ここでダサい立ち回りは見せられない。彼は腹を決めたのだ。「俺はマナウス出身。ネオサイタマは浅いけどよ。自分が恥じない行いをしたいと思って生きてきた」「マナウス。遠いところから来たンだな」「ハードな街だぜ」 10

2020-11-27 21:37:26
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クルーが目配せする。マグナカルタはザナドゥを値踏みするように睨んだ。「ネオサイタマにカマシに来たッて話?」「バカにはさせねえッて事だよ」「そりゃ当然。マナウス・シティには俺もマイメンがいる」「マジか?」「フッド背負って来てンだな、お前?」「……!」ザナドゥは唸った。「そうだ」11

2020-11-27 21:42:25
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ザナドゥの目は気迫と不眠で血走っていた。あれから一睡もしていない。ストリートを逃げるように這い回り、顔役と言える人間の存在を口伝てに辿った。四二円茶の存在は、日が浅いザナドゥでも知っていた。とにかく、深く食い込み、このクソのような流れを変えなければならないのだ。 12

2020-11-27 21:45:52
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前のめりにマグナカルタの問いに答えながら、ザナドゥは己の来し方を振り返らずにはいられない。どこまでやれるか。あの「タツジン」の背中を追えるのか。己の力を試すために、希望に満ちてネオサイタマに腕試しに来たのではなかったか。それを、少しおかしな事があったくらいで、この有様。クソだ。13

2020-11-27 21:48:59
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「……秘密の……桃」ザナドゥは言葉を絞り出した。「マナウス・シティの入り組んだ谷間に、光が刺す場所がある。高いビルの角度が、偶然つくったスポットライトだ。スポットライトの下に、桃の木が生えていた。実をつけていた。俺の前で。……それを俺のタグにした」「大層じゃねえか」 14

2020-11-27 21:56:17
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「マグナカルタくん、コイツどれ程なンスかね?」ティーンエイジャーだが異様に目つきの鋭いクルーが、下からザナドゥを睨みあげた。「ウチに乗り込んできて、要は手ェ貸してくれッて話でしょ?」「シャタファカ(黙れ)。お前、丸腰の独りで、他所のフッド来られンのか?コイツの覚悟は認めろや」 15

2020-11-27 22:05:27
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「アース……」少年クルーはザナドゥを睨みながら頷き、引き下がった。マグナカルタは鼻を鳴らした。「シバキは血の気多いクソガキ、俺も時々辟易してドン引きもするが根は腐っちゃいねえ、シツレイ許してやってくんね?」「アア……」「話は多少、事前に訊いてる。トラブってんだな?」 16

2020-11-27 22:11:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「クソみてェな落書きで、桃が使われた」「タグがカブってんの?それがどうした?」「同じじゃねえ……」ザナドゥは我知らず、自分の胸のあたりを掴んだ。「同じじゃねえけど……」どう「同じじゃねえのか」、心の中がモヤついて、はっきり言い切る事ができない。それが今も彼を苦しめている。 17

2020-11-27 22:17:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ラチがあかね」マグナカルタは言葉に詰まったザナドゥに呆れて見せた。バーテンダーに向かって手振りで指示すると、テキーラの瓶が飛んできた。彼はテキーラでショットグラスを満たし、ザナドゥに差し出した。ザナドゥは受け取った。二人はテーブルにグラスを打ちつけ、飲み干した。 18

2020-11-27 22:20:24
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「ラチがあかねえのは要するに手ェ動いてねえからだ。グダる前に身体動かせッて話。ヨー、そこの壁丁度いいだろ」マグナカルタはDJブースの横のあたりを指差した。クルーが首を傾げた。「補修したばっかりッスけど……」「な?キレイ過ぎて落ち着かないッて話」「……」クルーがザナドゥを見た。 19

2020-11-27 22:27:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「な……」ザナドゥは気圧される。そしてシバキも不満そうだ。「いいンスか?こんな他所者に描かすンスか?不満ッスけど!」「ア?外で描かせろ?俺にわざわざ今からコイツと外出しろって?」「アース……ナマ言いました」「道具はあんのかよ、ザナドゥ=サン」「……ある……」ツバを飲む。 20

2020-11-27 22:34:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「コイツがウチのハコに下手クソなもの描くなら、日が変わる前に他の奴が上書きするだけだ。上手いやつが塗り替える。だろ」マグナカルタはザナドゥを見た。「ライター名乗るなら作品で語れッて話。俺は今、そういう話をしてる。ナーミーン(わかるか)?」「……」ザナドゥはスプレーを掴んだ。 21

2020-11-27 22:37:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

テキーラのせいで胸が焼けるようだ。肩を怒らせ、深く呼吸しながら、ザナドゥは壁に向かう。気負いすぎて、段差につまずいた。誰かが笑い、口笛を吹いた。ザナドゥは振り返り、指を立てて振った。クルー達が見返した。ザナドゥは……壁に向き直り、跳んだ。「イヤーッ!」落下しながら噴きつける! 22

2020-11-27 22:43:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

パルクールとニンジャ脚力の融合。天井に至るほどの跳躍だ。落ちながらザナドゥは身体を捻じり、思い切り、落ちる稲妻じみたジグザグを描いた。鮮やかな動きにフロアが沸いた。照明の色が変わった。DJが気を利かせ、曲は誰もが知るクラシック、「煎餅39」に。イントロのトランペットが鳴り響く。 23

2020-11-27 22:49:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

夜もたけなわ、いつの間にか「内吐露」は客で溢れ返っており、フロア中央では強烈なビートの中でブレイク・ダンスが始まった。その音が、熱気がザナドゥの全身をビリビリと打ち据えた。負けじとザナドゥはスプレーを動かした。稲妻は枝に変わり、根に変わり、大地に花が芽吹いた。 24

2020-11-27 22:54:17