【電信 19世紀のグローバル情報ネットワーク】

1840年代に実用化された電信は、瞬く間に欧米諸国に普及しました。19世紀後半には大陸間を連結する海底ケーブルも建設され、電信網は世界を覆います。 この結果、社会や経済、軍事の在り方は大きく変容。人類史上初の近代的情報革命が生起したのです。
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HIROKI HONJO @sdkfz01

そして戦時においては、ケーブルは防衛手段そのものであった。第一次世界大戦において、電信で結ばれていたイギリス帝国は、本国に軍隊、食糧、および原料を供給したのであった。そしてドイツ帝国は…世界が交信していたのはイギリスの許容のもとであったということを認めざるを得なかった。」 pic.twitter.com/eUWWKtQVjF

2020-12-12 18:40:37
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最後のドイツ云々の下りは、開戦直後にドイツに繋がる英国の回線が遮断されたことを指します。これによってドイツ帝国は海外の自国植民地との連絡に多大な支障を来したのです。 pic.twitter.com/vH3UgKS2Dd

2020-12-12 18:42:14
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実際、世界に先駈けて地球上を覆った英国の海底ケーブル網は、情報の幹線道路となり、他の列国の電信線はこれに寄生する形で敷設されていきました。例えば仏印の電信網は香港で、蘭印はシンガポールで、英国のネットワークに接続しています。この構造は、英国に巨額の通信収入をもたらしました。 pic.twitter.com/QoI1Kl8bZJ

2020-12-12 18:44:27
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それだけではありません。英国は今や国際通信の支配者となったのです。第二次ボーア戦争(1899-1902)では、フランス政府の強硬な抗議にも拘わらず、英国は自国のケーブルを用いた暗号通信を全面的に禁止。フランスの公用電信は英国側に筒抜けとなったのです。 pic.twitter.com/r57uNsbVLE

2020-12-12 18:45:09
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1900年、世界に存在した30万キロの海底ケーブルの内、英国が所有するものは72%の22万キロ。圧倒的なシェアです。画像は英国の国策会社イースタン・テレグラフ社の通信網(1901年現在)。この星の隅々まで行き渡っていることが分かります。 pic.twitter.com/WrADUw5HeY

2020-12-12 18:47:09
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海底ケーブルの建設事業は当時のハイテク産業で、その独占は英国の経財的地位を象徴していました。1896年の世界に存在した30隻のケーブル敷設船の内、24隻が英国所有で、次点のフランスは3隻。しかもその全てが英国製の小型船でした。方や、英国の敷設船フーパー号は世界第2の巨船だったのです。 pic.twitter.com/s13s95TkaT

2020-12-12 18:47:44
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ケーブルの生産は1880年まで英国の手に握られており、フランスが国産化に着手したのは1881年、ドイツは1890年代、アメリカに至っては1920年代まで英国からの供給に頼っていました。これは、設備と技術に対する膨大な投資が必要になるため、先行者(英国)の優位性を崩すことが困難だったからです。 pic.twitter.com/PSLILv0UmJ

2020-12-12 18:50:23
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他国が国産化を試みたのは政治的動機によるもので、大量に生産した英国とは異なり利益度外視で行われました。また、石油化学工業が未発達だったこの時代、ケーブルを覆う絶縁体にはガタパーチャとよばれる天然ゴムの一種が用いられましたが、これは英領マレーでのみ産出されました。 pic.twitter.com/fxNwYj677j

2020-12-12 18:50:59
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海底ケーブルがもたらした情報革命により、ロンドンは情報の都となりました。ニューヨークとの片道の通信にかかる時間は①1820年代(帆船)は32日、②1860年代(蒸気船)は13日、③1890年代(電信)は15分。香港は①141日、②54日、③80分。ブエノスアイレスは①97日、②41日、③60分。 pic.twitter.com/9AP7hFsBKj

2020-12-12 18:51:37
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ロンドンにあるイースタン・テレグラフ社のハブセンター(画像)は、世界の電信網の半分と繋がり、地球上の一地点から別の一地点へ数分で電報を届けることが出来ました。世紀の転換期には、このセンターは全世界の国際ニュース、商業情報、外交文書の半数以上を伝達したのです。 pic.twitter.com/EHlWOWm6H2

2020-12-12 18:54:04
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HIROKI HONJO @sdkfz01

1895年9月、フランス軍がマダガスカルのタナナリブを占領し同島の支配を確立した時、英国政府はパリの仏政府よりも三日も早くその情報を摑んでいました。 pic.twitter.com/jFaPRRRdlu

2020-12-12 18:54:40
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ドイツ人の歴史家、トマス・レンシャウはこう述べています。 「商業及び政治に関するあらゆる重要な情報は、英国では大陸より数時間早く得られる。国際貿易におけるイングランド企業の競争相手に対する計り知れない優位を理解するためには、この一事を指摘するだけで足りる」 pic.twitter.com/1aTMU96WqH

2020-12-12 18:55:19
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またあるフランス人は次のように記します。 「ロンドンが巨大な国際市場の地位を維持しているのは、海外からの情報が最初にロンドンに到達するからである。ロンドン市場の価格が各国市場で共有される唯一の価格であり、…ケーブルによって伝達される唯一無二の相場である」 pic.twitter.com/hBCp2iYigp

2020-12-12 18:58:48
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通信上の優位性は、通商のみならず、金融における英国の支配力を確固たるものにしました。19世紀末に電信決裁が発達すると、ロンドンのシティは国際金融の心臓部としての地位を不動のものにするのです。 (画像は王立証券取引所) pic.twitter.com/bIBuWa7LUx

2020-12-12 18:59:28
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20世紀初頭に、英国の工業生産力は米独に抜き去られます。それでも英国が覇権国家の地位に留まったのは、貿易赤字を補って余りある所得収支とサービス収支の黒字があったからです。それは金融と海運、通信における支配的地位の賜物であり、その有力な源は海底ケーブルに他なりません。 pic.twitter.com/RZv7uPAcYp

2020-12-12 19:00:18
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HIROKI HONJO @sdkfz01

海底電信網は、それ自体巨額の利用料金を稼ぎ出すだけでなく、英国の金融や海運の競争力を飛躍的に高め、膨大な富をもたらしたのです。それこそは、パクス・ブリタニカの不可欠な礎石でありました。 pic.twitter.com/3DFdGajPAN

2020-12-12 19:02:09
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HIROKI HONJO @sdkfz01

ハイ、長すぎますね。この他、海底電信を用いて英国のロイター通信が覇権を築いた話や、電信員は女性の花形職業の一つで、社会進出に一役買った話にも触れたかったのですが、それを記すには余白が無い。 pic.twitter.com/EkDpjLxvMk

2020-12-12 19:02:45
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HIROKI HONJO @sdkfz01

最後に、英国凋落の要因としてWW1での国力の疲弊と米国の台頭が良く挙げられますが、同時期に電話や無線などの新技術が飛躍的に発達し、有線電信は陳腐化したことで英国の情報支配が破られたことを指摘して、本稿を終えたいと思います。 pic.twitter.com/9n4sla0Yv1

2020-12-12 19:03:19
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【CM】 WW1の最中、ブリテン上空で死闘を演じたドイツのツェッペリン飛行船団を描いた拙著、好評発売中です。「世界の艦船」5月号に書評掲載! amazon.co.jp/dp/4908862680/ リウマチ、肌荒れなど、万病に効きます。 (個人差あります)

2020-12-12 19:05:50
HIROKI HONJO @sdkfz01

これまでに書いた駄文はこちらをご覧ください。それでは良い週末を~! togetter.com/id/sdkfz01

2020-12-12 19:06:22
HIROKI HONJO @sdkfz01

セルフまとめ作りました。画像等見やすいので、宜しければご覧ください。。。 togetter.com/li/1635534

2020-12-12 19:20:05
HIROKI HONJO @sdkfz01

趣味は社会科学と酒。猫好き。 自動車メーカーの窓際社員。 「戦う飛行船」(共著 イカロス出版 2022年)、「ツェッペリン飛行船団の英国本土戦略爆撃」(2020年) 論文:「三代広重が描いたフランス蒸気軍艦『ブルターニュ』」(「浮世絵芸術」187号) NHK BS 「ヒンデンブルク号の悲劇」(2021年)スタジオ出演

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