飯間浩明さんの「紅白歌合戦ことば解説」が興味深すぎる

112
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

2020年も今日で最後になりました。今年もNHK「紅白歌合戦」を見ながら、興味深いことばがないか、リアルタイムで用例を採集しつつ、ツイッターでご紹介したいと思います。よくも悪くも凝り性な私ですが、番組を楽しむことを第一に、あくまでゆるくことば集めをするつもりです。

2020-12-31 12:04:39
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

1曲目のKing & Prince「I promise」は今月出た新曲とのこと。〈震えてる画面越しの〉というフレーズから、遠くの恋人とSkypeやZoomでコミュニケーションしている様子が浮かびます。コロナ禍とは関係ないのかもしれませんが、しっくり来る歌詞です。ポップスにもコロナが影響して不思議はありません。

2020-12-31 19:37:28
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

Foorin「パプリカ」は子どもの歌のようですが、歌詞が比喩に満ちていて難しい。たとえば、〈夏が来る 影が立つ〉はどういう状況でしょうか。人影が立っているわけではなさそう。この直後に一番星を見つける描写があるので、夕方で長く伸びた影が、塀などに映って立ったように見えたのでしょう。

2020-12-31 19:40:52
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

山内惠介「恋する街角」の〈惚れたね ほの字だね〉の「ほの字」は「惚れた」ということですが、こういう言い方はけっこう古く、江戸時代からあります。ほかには、たとえば「すの字」で「好き者」を、「との字」で遊郭に「泊まる」ことを表しました。

2020-12-31 19:43:03
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

milet「inside you」。〈ただ広がるspace 青いままのflames〉のように句の最後に英語を交ぜるのは、類音を繰り返して一種の韻を踏むためなのでしょうね。昨年の紅白で言えば、GENERATIONS from EXILE TRIBEの〈君のExperience/志すGreatness〉などがこのパターンです。

2020-12-31 19:47:33
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

日向坂46「アザトカワイイ」で〈カーディガンの袖口を 少しだけ長めにして〉というのは、いわゆる「萌え袖」のスタイルでしょうか。「萌え」ということばは今世紀になってから広まり、やや使用頻度が落ち着いたように思いますが、「萌え袖」などの派生形を生んでいるようです。

2020-12-31 19:50:15
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

櫻坂46「Nobody's fault」は厳しい調子の歌詞。〈この世界を変えようなんて/自惚れてんじゃねえよ〉。「世界」は、最近のポップスでよくモチーフになることばのひとつです。懐メロの「世界は二人のために」のような、リアル世界だけでなく、変革すべき世界、もうひとつの世界などの意味で使われます。

2020-12-31 19:53:23
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

Hey! Say! JUMP「明日へのYELL」で〈今はまだ見えなくても 必ず辿り着く〉。「辿」は常用漢字にない字だけれど、ルビなしで使っていますね。歌詞の字幕では、こんなふうにときどき難しい字が出てきます。しんにょうの点は、1点でも2点でもかまいません。

2020-12-31 19:59:13
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

Little Glee Monster「足跡」は過去の自分を振り返りつつ歩んでいくという歌ですが、一人称が「僕」なのが印象的。昔、浜崎あゆみさんが使った頃は「へえー」と思いましたが、今や違和感なく、性別にかかわらず歌える歌になっています。この歌も〈辿った道に 続く足跡〉と「辿」が使われていますね。

2020-12-31 20:03:31
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

SixTONES「Imitation Rain」は英語の多い歌詞ですが、〈時代(とき)を振り返る〉というルビが拾えました。この歌では〈いつかはたどり着くよ〉と、「たどる」はひらがな書きになっています。直前の2曲と表記が違うわけです。

2020-12-31 20:07:23
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

水森かおり「瀬戸内 小豆島」は、香川県出身の私にとって親近感のある歌です。瀬戸内を歌った歌は、小柳ルミ子「瀬戸の花嫁」もありますが、少ないのではないでしょうか。〈思慕(おも)い引きずる 身が辛い〉というルビは珍しい。〈希望(のぞみ)を胸に〉はわりあいよく見ますね。

2020-12-31 20:09:52
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

GENERATIONS「You & I」の〈変わりゆく世界で/これからもふたりStay together〉というのは、コロナ時代におけるステイホーム(?)を連想させますが、何となく今の状況を踏まえているのでしょうか。全体としては、君の手を離さず、一緒に世界を駆け巡りたいという歌ですね。

2020-12-31 20:14:57
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

純烈「愛をください」の〈Don't you cry〉。中学時代の授業では、命令文でDon'tの後にyouを入れる構文を習った記憶がありません。ウェブサイトの説明を見ると、〈Don'tの直後のyouは、命令文の調子をきつくする働きを持つ〉(英辞郎)とのこと。「泣かないで」ではなく「泣くなよ」という感じかな。

2020-12-31 20:17:52
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

坂本冬美さんの歌のイントロで〈《口上》桑田佳祐〉とテロップ。演歌の曲紹介のことを「口上」と言うとは初めて知りました。歌舞伎やなんかの興行で行う挨拶のことだけじゃないんですね。

2020-12-31 20:25:10
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

坂本冬美「ブッダのように私は死んだ」は、どういう状況を歌った歌だろうと思いましたが、〈この世から出て行くわ/魂が悟ったよ〉とあるように、歌の主人公は、文字どおり亡くなった(殺められた?)模様。「骨までしゃぶる」「イカせる」「捨てる」に二重の意味が込められているのでしょう。

2020-12-31 20:25:56
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

Kis-My-Ft2「We never give up!」は〈転んだだけ強くなれる!〉と、失敗を恐れずに幸せをつかみに行くという歌。失敗も逆境も無駄にならない、というメッセージを込めた歌としては、Hey!Say!JUMPの「Your Song」〈失敗は足掻(あが)いた証〉などがありますね。

2020-12-31 20:30:09
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

天童よしみ「あんたの花道」にある〈女房なりゃこそ 掛け声ひとつ〉の「なりゃこそ」(=なればこそ)は以前に掲示板「ことば会議室」で議論したことがあります。その時は音丸「船頭可愛や」の〈独りなりゃこそ/枕もぬれる〉など、類例のフレーズがいろいろあることが分かりました。

2020-12-31 20:33:16
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

さだまさし「奇跡」に〈僕は神様でないから 本当の愛は多分知らない〉と、愛を知らないようなことを歌うのは一種の反語法ですね。その直後に〈けれどあなたを想う心なら 神様に負けない〉と、最初に言ったことよりむしろ強いメッセージを投げかける。さだまさしさんのことばの魔術です。

2020-12-31 20:36:05
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

乃木坂46「Route 246」は、この先悔いのないように、今をしっかり生きようという歌。先ほどの「We never give up!」が失敗を恐れるなというのと基本的に同じ考え方のポジティブな応援歌。このジャンルの歌、この後も出てくるでしょうか。表記は〈他人(ひと)〉〈明日(あす)〉などオーソドックス。

2020-12-31 20:42:55
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

鈴木雅之「夢で逢えたら」は、ロマンチックな曲調で酔わせますが、あなたに会う方法が夢を見るしかないというのだから、とても悲しい歌とも言えます。〈あなたに逢えるまで 眠り続けたい〉なんて、絶望的な状態かもしれない。それを絶望的に捉えず、美しい曲にしたのが大瀧詠一さんの魔法です。

2020-12-31 20:45:34
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

五木ひろし「山河」では、故郷の山河に恥じない生き方をしているかと自問する。〈足跡を山に 残したろうか〉〈河に浮かべたろうか〉は、今の若い人なら「残しただろうか」「浮かべただろうか」と「だ」を入れて言うのではないかな。小椋佳さんは、あえて古風なことばを使っているのだろうと思います。

2020-12-31 20:55:05
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

NiziU「Make you happy」の〈完全Sweetなメロディー〉は面白い例です。「完全にSweet」でなく「に」が落ちている。「現状では難しい」を「現状難しい」のように助詞を省いて副詞的に使うようになることばは時々現れますが、「完全」もそのひとつなのでしょうか。

2020-12-31 21:06:04
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

瑛人「香水」に〈横にいられると思い出す〉とありますが、この「られる」は、「君の横にいることができる」の意味ではなく、「そこに立たれると困る」のような迷惑の受け身なのでしょうね。「求めてないのに、昔の恋人の君に横にいられてしまう」という困惑、複雑な気持ちを表現しているのでしょう。

2020-12-31 21:08:55
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

Perfume「Time Warp」で〈全てがほら ショーウィンドウにある〉という歌詞に注目しました。show sindowは、カタカナではいろいろに書かれます。新聞なら「ショーウインドー」です。ほかの歌では「ショウウィンドウ」もあって、一定しません。辞書の見出しを決めるときに悩むことばのひとつです。

2020-12-31 21:14:19
飯間浩明 @IIMA_Hiroaki

BABYMETAL「イジメ、ダメ、ゼッタイ」はイジメを傍観するのをやめ、〈君を守る〉ことを決めた、友人と思われる人の歌。内容は真剣だけど、イジメとキツネでリズムを揃えたりして、リズムの上では遊び心があります。タイトルも薬物乱用防止の標語を踏まえていますね。

2020-12-31 21:17:31