はぎわ落語「川流れ」

新作です、年に一本は披露できるよう頑張ります。
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ガテ歩(46) @teamanahori

-出囃子調にアレンジされたAllrightに乗せ、羽織姿で登場- #はぎわ落語

2020-12-31 20:03:06
ガテ歩(46) @teamanahori

-高座に上がり、深々と頭を下げる- #はぎわ落語

2020-12-31 20:03:43
ガテ歩(46) @teamanahori

押し迫って参りましたが、しばしお付き合い下さい。 今年ももう少しですけど、皆様に取って、どんな一年でしたでしょうか? まあね、右も左もコロナコロナでね、あまり明るい話もありませんでしたね。 あたしゃてっきり、ストーブがよく売れる年だと思ったんですけどね。 …東北ギャグでございます。

2020-12-31 20:06:18
ガテ歩(46) @teamanahori

まま、今年は色々ありましたが、おそらく底でしょうね。来年は上がる年、平らかな年になると期待しておりますよ。令和、って元号に負けないようなものにね、なるといいですね。

2020-12-31 20:08:18
ガテ歩(46) @teamanahori

元号と言いますと、今年も色々な方の訃報を聞きましてね。若い方は存じないかも知れない大御所のあれやこれや…昭和は遠くなりにけり、でさぁねぇ。 ところで、死ぬってなぁ、どんなことなんでしょうかねぇ。あたしらがどうこう勘ぐるだけで、案外あっさりしたものかもしれません。

2020-12-31 20:11:13
ガテ歩(46) @teamanahori

「ん、んー…ああ、よく寝たな…寝過ぎたかもしんねぇな、あちこちむくんでら」 「あいたた…酒が残ってら、ゆんべもよく飲んだな」 「あー…酔って川に落ちたとこまでは覚えてっけど、おらぁよく帰ってきたなぁ」

2020-12-31 20:14:39
ガテ歩(46) @teamanahori

「輝の字、いるかい?」 「あぁ、ご隠居!いやぁ今日もいい天気で…」 「なぁに言ってんだ、あんなにぐでんぐでんで帰ってきてねぇ。それはさておいて、今月の賃料なんだが…」 「あ、まあまあまあ…今日の稼ぎで、払いますから」

2020-12-31 20:17:45
ガテ歩(46) @teamanahori

「おいおい、お前さん昨日もそう言ってたねぇ。今日は耳揃えてもらわないとね、やりたかないけど、商売道具、預かにゃあいけなくなるよ」 「おっと、それこそ堪忍堪忍…稼いできまさぁ、なんならご隠居も来ますかい?」 「馬鹿言いなさんな、この歳じゃ、合わせて歩けやしないよ、待っててやらぁ」

2020-12-31 20:20:43
ガテ歩(46) @teamanahori

「へへ、すいやせん…じゃあ、行ってきまさぁ」 さてこの輝の字と言われる男、鋳掛を生業としておりまして…若い人にはぴんと来ませんかね、穴の空いた鍋やら釜を直す商売をしております。 腕前は武家屋敷に通される程のものでしたが、何せ酒に目がない。今日も稼いだ銭から賃料を納め、町に出ます

2020-12-31 20:25:03
ガテ歩(46) @teamanahori

「毎度ぉ、いつものつけてくんな」 「あいよ、アオヤギに冷や」 馴染みの寿司屋台、今日も煮貝を肴にやり始めたようです。 「ん、んっ…あぁ~、沁みる なぁ、おい」 「これのために、おらぁ稼いでるようなもんさな、おう、もう一本」 「大げさだねぇ、ほら。それと今日は鱚のいいのがあるよ」

2020-12-31 20:30:55
ガテ歩(46) @teamanahori

「おう、そんな季節かぁ…はふっ、ほふ…んんっ…あぁ、酒が進むな、止まらねぇや」 「そんくらいにしときなよ、また落ちちまうよ」 「へへ、そいつぁいけねぇ、これくらいでお愛想しとくか、ついでに何か包んでくんな」 「ああ、いい玉子があるよ、塩でも振りな。全部で20文」

2020-12-31 20:35:04
ガテ歩(46) @teamanahori

「おう、悪ぃな、置いとくぜ、じゃあな」 「さて、土産も買ったし…ん?誰にだ?」 「ま、いいや、帰って食うとするか」 さて、そんなこともありましたが、働いて飲んで、働いて飲んで、あっという間に年の瀬です

2020-12-31 20:40:28
ガテ歩(46) @teamanahori

晦日とはいえ煮炊があるわけで、鋳掛も呼ばれます。さっさと飲み納めたい輝の字、そりゃあもうぱぱぱーっと仕事を片付けます。 「ふぃー、もういいだろ。まだ明るいが、仕舞だ仕舞だ」 「飲み納めはあれだな、馴染みの店に限らぁな」

2020-12-31 21:39:56
ガテ歩(46) @teamanahori

「おう、寒ぃな、熱々で頼むぜ」 「はいよ、大根も煮えてるよ」 「そいつぁありがてぇ、けどよ、ここは何屋だい?」 「けったいなこと訊くねぇ、寿司屋だよ、つまの大根が余って仕方ないんだ」 「もうちょっと商い考えたらどうだい、まあいいや。…旨ぇなぁ、あったまらぁ」

2020-12-31 21:44:15
ガテ歩(46) @teamanahori

「にしてもよ、もう暮れっちまうんだな、本当に早ぇや、もうじき除夜の鐘が鳴り始めらぁ、ごーーん…ってな」 「はぁ、ごーんとね…輝、もう今日は止めな」 「あ?まだ一本だぜ、宵の口じゃねぇか、除夜の鐘を聞きながら飲む酒が旨ぇんだよ」 「ほらそれだ、さっきからなんだい、その除夜の鐘ってな」

2020-12-31 21:47:39
ガテ歩(46) @teamanahori

「おめぇこそ何言ってやがる、除夜の鐘だぞ、毎年暮れともなると、お寺さんの鐘をこう、108つ、ごーーんとよ」 「…やっぱり止めときな、そもそも、寺ってなぁ何だい?ほら、茶漬け。」 「なんでぇなんでぇ、さっきから訳のわからねぇこと抜かすわ、茶漬けは出るわ…本当に何屋だよ」

2020-12-31 21:52:59
ガテ歩(46) @teamanahori

「ああ、なんだか酔いが覚めちまった。おう、また何か包んでくんな、かかぁへの土産に……?」 「はいよ、小柱のかき揚げだよ。…どしたんだい、小難しい顔してさ」 「…親父、おらぁ今、なんつった?」 「ああ、かかぁへの土産に」 「それだ!おれにかかぁなんぞ、いた覚えがねぇんだ……なんでだ?」

2020-12-31 21:57:55
ガテ歩(46) @teamanahori

「ああいけねぇ、やっぱりもう一本くんな、すぐだ、すぐ!」 「冷やしか出せないよ、ほら…なんだよ、徳利で飲む奴がどこにあるよ、枡じゃあるまいし」 店主の声も最早聞こえません、飲みながら輝の算盤はちゃかちゃかと動きます、動きますが何一つ弾き出されません

2020-12-31 22:02:27
ガテ歩(46) @teamanahori

「ああもう訳がわかんねぇぞ、どうなってやがる…」 「おうおう、どこ行くんだよ、そんな千鳥足で…危ねぇ!そっちは…」 徳利を空にした輝、立ち上がります。急に立ち上がるもんだから、酒がぐーっと回って、ふらふらーっとなってこけつまろびつ、そばにあった川にばっしゃーん!!!

2020-12-31 22:06:19
ガテ歩(46) @teamanahori

幸い川は膝ぐらいの深さ、溺れはしませんが冬の川のまぁ冷たいこと、お酒も手伝って、輝の頭がびしーーーっと痛みます。 …痛んだ拍子に… 「違ぇねぇ、居たんだ、かかぁは」

2020-12-31 22:09:26
ガテ歩(46) @teamanahori

輝の字、何もかも思い出します、自分には妻がいたこと、あの晩、酒に酔って落ちた川が、相当深かったこと、もがきながら水の底から見上げた、暗い空… 「だとしたら、おらぁ…おらぁ…待てよ?」 さぁまた算盤が動き始めます、ちゃかちゃかちゃかちゃか…

2020-12-31 22:12:26
ガテ歩(46) @teamanahori

「ああ、上がってきたかい、ほら、そばが煮えたよ」 「本当に何屋だよ、全く…んなこたいい、帰ぇる、勘定だ!」 「毎度、五十文だよ。どうしたよ、慌てて…」 「俺にもわかんねぇ、だけど、わからなきゃいけねぇんだよ」 「何言ってんだ、まあいい、よいお年を」 「うるせぇ、越せるかわかんねぇよ」

2020-12-31 22:16:02
ガテ歩(46) @teamanahori

言うが早いか、輝の字住み処へ走り出します、だっだっだっだっ… 「そうだ、ご隠居はとうの昔に亡くなってたんだ、おらぁ葬式行ったんだよ」 「だったら、かかぁがいないのも、いつぞやのむくみもまあわからぁ」 「でもよ、そうすると、ここはどこだ?死ぬ前と大して変わらねぇじゃねぇか」

2020-12-31 22:19:50
ガテ歩(46) @teamanahori

「ご隠居なら、ご隠居なら何か知ってるかもしれねぇ…」 などと考えながら走ります。だっだっだっだっ…さあ長屋が見えて参りました、輝の字ご隠居の部屋に向かいまして、戸をばーーーん! 「ご隠居ーっ!………ありゃ?」

2020-12-31 22:22:28
ガテ歩(46) @teamanahori

……………そこはまさに、蛻の殻。 確かにそこはご隠居の居た部屋なのですが、一切の家財がありません。輝が呆気に取られておりますと 「なんだいなんだい、輝さんじゃないか、五月蝿くて寝れやしないよ」 「おう、お咲か、そんなことより、ここにご隠居が…」 「ご隠居?ああ、昼間にお迎えが来たよ」

2020-12-31 22:27:25