『見えないほどの遠くの空を』名古屋シネマテーク上映前夜にごじつけてアンリ・ラングロアのことなど

0.明日から『見えないほどの遠くの空を』が名古屋シネマテークで上映されるので、これを記念して（？）映画よもやまばなしをやります。

2011-07-22 22:37:44

1.名古屋シネマテークというからには、東京シネマテーク、博多シネマテーク、札幌シネマテークがあるのかというと、ない。では他にはどこにあるのか？　パリにある。シネマテーク・フランセーズという。これは映画遺産の保存と修復を目的としている文化施設だ。

2011-07-22 22:38:32

2.いまは政府の管理下に置かれているが、もともとは純然たる個人のフィルム・アーカイブだった。これを始めたのはアンリ・ラングロアとジョルジュ・フランジュというカップルだ。設立したのは1936年（第二次大戦前だ）。最初は約10本のライブラリーから始めたらしい。

2011-07-22 22:38:59

3.当時はマニュキアの原材料として中古フィルムが蚤の市に出されていたらしく、そこで見つけたフィルムなんかも買ったりしてコツコツあつめていたらしい。中には盗んだものの多かったという。

2011-07-22 22:39:52

4.ナチス政権のドイツにフランスが占領された時、没収されかかったフィルムを乳母車に乗せて、ガールフレンドと夫婦を装い運び出し、フランス映画をナチの魔の手から救ったというエビソードは非常に有名である。

2011-07-22 22:40:51

5.そしてこの人はフィルムを保管するだけじゃなくて、ジャンジャン上映したわけである、傑作も駄作も。映画に芸術も娯楽もあるかというのがこの人の態度である。アンリ・ラングロアの言葉を二つ紹介しよう。

2011-07-22 22:41:15

6.（略）作品を取り巻くありとあらゆる虚飾をはぎ取って「映画」映画だけを見ること。極論すれば、映画を一つの作品として成立させているすべての文脈を剥ぎとってしまうこと――そのとき、映画は、作品としての存在価値を失い、ただ純粋に映画だけの存在になる。

2011-07-22 22:41:31

7.個々の作品と時代性に拘泥している限り、比較や評価が生まれてくるだけで、肝心の映画そのものがどこかに消えてなくなってしまう。映画そのものに陶酔するためには評価なんか捨ててしまうことだ。（「友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ誌」山田宏一著より引用）

2011-07-22 22:41:52

8.とにかく観ろ、虚心に観ろという訳だ。ルイ・デリュックのシネクラブもリッチオット・カニュードの第七芸術友の会もともに前衛芸術映画の上映会であった。が、アンリ・ラングロアのシネマテークは違う。芸術も大衆娯楽もない、映画は映画であるという運動だ。

2011-07-22 22:42:15

9.アンリ・ラングロアのシネマテークに多くの映画ファンが通った。シネマテークの常連、フランソワ・トリュフォー、ジャン＝リュック・ゴダール、クロード・シャブロル、アラン・レネ、エリック・ロメールらは批評家から映画作家になり、ヌーヴェル・ヴァーグを起こす。

2011-07-22 22:43:05

10.だから彼らは「シネマテークの子供たち」と呼ばれる。ジャン＝リュック・ゴダールはラングロアを「カメラではなく映写機を使って映画を撮っていた映画作家」だとまで言う。

2011-07-22 22:43:51

11.ところが、1968年2月、アンリ・ラングロアは更迭される。トリュフォーはこのニュースを『夜霧の恋人たち』の撮影初日に聞かされた。よって、『夜霧の恋人たち』は休館中のシネマテークのエントランスと「アンリ・ラングロアに捧ぐ」というタイトルから始まる。

2011-07-22 22:44:10

12.この後、国際的な映画人の大規模な署名運動が始まり、アンリ・ラングロアは復帰するが、現在のシネマテーク・フランセーズは国家の管理化に置かれている。管理するだけのフィルムアーカイブなど、死体置き場と同じだとアンリ・ラングロアは罵っていたらしいが。

2011-07-22 22:44:21

13.そのシネマテーク・フランセーズと同じ名前を持つ名古屋シネマテークで私の最初の監督作品『見えないほどの遠くの空を』が上映される。身が引き締まる思いである。名古屋の皆様、是非ご覧下さい。木曜日には私も伺います。

2011-07-22 22:44:36