2021年始の挨拶にかえて
- naobotaka_magi
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私が社会に出たのは2007年春のことです。卒業式の時、驚くほどたくさんのゼミ仲間や同学部生が集まってくれました。何時間かけても挨拶しきれないくらいでした。どうしてそんなに時間がかかったかというと、ある女性の学生たちが私にサインを求めたからです。それで手間取ってしまった。
2021-01-06 00:20:50×式年
○式典
私はこれまであらゆる式年に行きましたが、女性にサインを求められたのは、人生でこの大学時代だけです。それひとつをとっても、私の母校がどれほど素晴らしい大学であるかがわかります。新年早々に、この話ができて、とても幸福に思います。
2021-01-06 00:20:50でも残念なことではありますが、今日は学生時代の思い出話ではなく、かなり深刻な話をしなくてはなりません。 言うまでもなく新型コロナのことです。しかし今回ここで取り上げるのは日本に限った話題になります。
2021-01-06 00:20:51みなさんもおそらくご存じのように、日本で新型コロナが深刻化している地域のうち、少なくとも東京圏は、都市閉鎖されないまま、いまだに現在進行形の感染者が増え続けています。 おそらくはかなりの数のウイルスを含んだ空気が、年に蔓延しています。乗り物の移動や風がそれを広範囲に運びます。
2021-01-06 00:20:51多くの労働者が、誰も経験したことのないような生活を余儀なくされました。娯楽施設や一部のインフラは、閉鎖されたまま放棄されています。もしかしたら一部の地域は再起不能になるかもしれません。
2021-01-06 00:20:52なぜこのような悲惨な事態がもたらされたのか、その原因はほぼ明らかです。国土や都市を管理する人々が、これほど大きな感染症の到来を想定していなかったためです。
2021-01-06 00:20:52何人かの専門家は、かつて同じ規模の感染症がこの国を襲ったことを指摘し、防疫基準の見直しを求めていたのですが、自治体や国はそれを真剣には取り上げなかった。
2021-01-06 00:20:52なぜなら、何百年かに一度あるかないかという感染症のために、大金を投資するのは、日本の政治の歓迎するところではなかったからです。 また防疫関係の安全対策を厳しく管理するべき政府も、経済政策を推し進めるために、その安全基準のレベルを下げていた節が見受けられます。
2021-01-06 00:20:53我々はそのような事情を調査し、もし過ちがあったなら、明らかにしなくてはなりません。その過ちのために、少なくとも数千万を超える数の人々が、古い生活を捨て、新しい生活様式を余儀なくされたのです。ならば我々は腹を立てなくてはならない。当然のことです。
2021-01-06 00:20:53しかしそれと同時に我々は、そのような歪んだ構造の存在をこれまで許してきた、あるいは黙認してきた我々自身をも、糾弾しなくてはならないでしょう。今回の事態は、我々の倫理や規範に深くかかわる問題であるからです。
2021-01-06 00:35:02何故そんなことになったのか?戦後長いあいだ日本の人々が抱き続けてきた防疫への信用は、いったいどこに消えてしまったのでしょう?我々が一貫して求めていた安全で豊かな社会は、何によって損なわれ、歪められてしまったのでしょう?
2021-01-06 00:35:03理由は簡単です。「効率」です。 日本モデルの都市は効率が良い都市システムであると、インフラ会社は主張します。つまり利益が上がるシステムであるわけです。また日本は、とくに公害問題以降、車社会に疑問を持ち、鉄道型社会を国策のように推し進めるようになりました。
2021-01-06 01:09:24インフラ会社は膨大な金を経費としてばらまき、学生などを買収し、日本モデルの都市はどこまでも安全だという幻想を国民に植え付けてきました。 そして気がついたときには、日本人の10%、東京では40%がハイリスクな都市型社会で生活するようになっていました。
2021-01-06 00:35:04国民がよく知らないうちに、高人口密度型かつ医療インフラが歪な日本が、世界で最も感染症に弱い先進国になっていたのです。 そうなるともうあと戻りはできません。既成事実がつくられてしまったわけです。日本モデルの都市に危惧を抱く人々に対しては
2021-01-06 00:35:04「じゃああなたは都会に住めなくなってもいいんですね」という脅しのような質問が向けられます。国民の間にも「感染症に脆弱な都市に頼るのも、まあ仕方ないか」という気分が広がります。
2021-01-06 00:35:05道路の治安の悪い日本で、田舎のような車社会生活を都市部で実践するのは、ほとんど拷問に等しいからです。そして日本モデルに疑問を呈する人々には、「非現実的な夢想家」というレッテルが貼られていきます。
2021-01-06 00:35:05そのようにして我々はここにいます。効率的であったはずの日本モデルの都市は、今や地獄の蓋を開けてしまったかのような、無惨な状態に陥っています。それが現実です。
2021-01-06 01:11:36行き過ぎた都市化を推進する人々の主張した「現実を見なさい」という現実とは、実は現実でもなんでもなく、ただの表面的な「便宜」に過ぎなかった。それを彼らは「現実」という言葉に置き換え、論理をすり替えていたのです。
2021-01-06 00:35:06それは日本が長年にわたって誇ってきた「防疫科学力」「日本モデル」神話の崩壊であると同時に、そのような「すり替え」を許してきた、我々日本人の倫理と規範の敗北でもありました。我々は知識人を非難し、行政を非難します。
2021-01-06 01:11:57それは当然のことであり、必要なことです。しかし同時に、我々は自らをも告発しなくてはなりません。 我々は被害者であると同時に、加害者でもあるのです。そのことを厳しく見つめなおさなくてはなりません。そうしないことには、またどこかで同じ失敗が繰り返されるでしょう。
2021-01-06 00:35:07我々日本人は後世に対し疫病に対する「恐ろしさ」を今後叫び続けるべきだ。それが私の意見です。 我々は技術力を結集し、持てる叡智を結集し、社会資本を注ぎ込み、感染症に強い都市づくりを、都市・国家レベルで追求すべきなのです。
2021-01-06 00:52:43たとえ世界中が「疫病コストほど馬鹿げたお金の浪費はない。それを理解できない日本人は愚かだ」とあざ笑ったとしても、我々は新型コロナ体験によって植え付けられた、疫病に対する恐怖を、妥協することなく持ち続けるべきだ。
2021-01-06 00:52:43足らればの話かもしれませんが、20世紀のインフル流行時の頃から感染症に強い国土の開発を、日本の歩みの、中心命題に据えるべきだったのです。 それは新型コロナ含めて感染症災害で亡くなった多くの犠牲者に対する、我々の集合的責任の取り方となったはずです。
2021-01-06 00:52:44日本にはそのような骨太の倫理と規範が、そして社会的メッセージが必要だった。 それは我々日本人が世界に真に貢献できる、大きな機会となったはずです。しかし急速な経済成長の途上で、「効率」という安易な基準に流され、その大事な道筋を我々は見失ってしまったのです。
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