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不死を求めるもの、ジンロウと道外れしエルフの末裔、イルラ。 彼と彼女は共同体。「ろくでもない」スポンサーの手先として不死への手がかりを求めている。 「求めちゃいたが…まさか幻想生物を二匹も連れて帰ってくるとは…褒めてねぇよ」
2020-10-21 20:21:56その血肉を食らえば不死を得られると言われる溶岩蜥蜴のネンジャと、その血肉を食らえば不死を得られると言われた妖精のルフ。 今二匹は、非道な研究者の下で微塵になりかねないほどの解剖や、生物の尊厳を踏み躙るような過酷な実験に従事…することはなく、都会観光に勤しんでいた。
2020-10-21 20:34:19二匹とは研究への協力を取り付けてあり、遊ばせている暇など本当はないのだが。 「ジンロウ。やっぱりどうしようもない」 あにはからんやその研究が大きな壁にぶつかっているのだった。
2020-10-22 07:54:16「ネンジャの鱗は何故か取れた後も赤熱してやがるし血液なんて論外だ。ぐつぐつに煮えてやがるよ。本人の協力がなきゃ採取すらできないし、採ってもまともに器機にかけられん。ルフの魔法を使ってもなかなか冷ませない。別の手が要る。取ってこい」 こうして珍獣狩人ジンロウの第二の旅が始まった。
2020-10-22 08:06:19彼らは伝承を紐解きいくつもの伝説の実在を証明してきた。故に知っている。この世にはヒトの魔法や科学では及びのつかないものの存在を。 「今回目指すのは海の大宝玉。人魚たちの秘めたる宝…ってことでいいのよね?」 「わたし…海…初めてです…!」
2020-10-22 08:17:46都をエンジョイしていた二匹がついてきたのはひとえに「地方でなんかやらかす分にはごまかしようがあるし何よりやかましいから連れて行け」というイルラの切実な願いからである。 引きこもり同然の彼女を同じ女だからと引っ張り出して物見遊山に付き合わせる、何気ない拷問ツアーが博士を傷付けた。
2020-10-22 08:24:01「知ってる?海の中にも火山があるのよ」 「えっ…海って、水なんですよね?わたしのいた山には水なんてありませんでした…」 「でもまわりに雪は降ってたでしょ?まあ見ればわかるわ」 どうやらルフの中では既に深海まで進出することが決まっているらしかった。
2020-10-22 08:33:17「ん?なんだぁ兄さん?…船貸してくれって?おっ、そっちの女の子と釣り逢引たぁなかなかやるね。流されて漂着した無人島で子孫繁栄しないように気をつけるんだぜ」 気のいい漁師から小船とサービスで竿も借り、ジンロウたちは海へ漕ぎ出した。 「うーわー……!!」
2020-10-28 10:37:44「ネンジャ、落ちるわよ」 「わぁ…!水、ですね!すごく水です!」 「アンタが落ちたらその水が蒸発するわよ」 「匂いも違う…風もまとわりつくみたいで、わぁ…」 「聞いてないか…で、ジンロウ。アンタ人魚の知り合いでもいるの?海の大宝玉なんて、まともに探せやしないでしょ?」
2020-10-28 10:41:30海の大宝玉。 伝承ではその玉から止めどなく溢れ続ける水が海になったと言われる、人魚たちの至宝。 「こんな近海に小船ぷかぷかしてるだけで会える人魚なんているのかしら」 ならば人魚の協力を得ずして海のどこかにある宝玉探しなど到底不可能だとルフは考えたし、ジンロウもそう考えた。
2020-10-28 10:46:24「…まさか、ねぇちょっと。人魚、釣ろうって言うつもり?ちょっと待ちなさい!色々待ちなさいよ!アンタ、アンタねぇ!人魚が!釣れる!わけないでしょ!?それにこんな近海まで近付いて来ないわよ!昔ならいざ知らず!」 「ルフさん、にんぎょ?さんに会ったことがあるんですか?」 「あるわよ!」
2020-10-28 11:30:55「でもイルラさんは、「妖精は森で生まれ森で暮らす。好奇心は強くてもその一線を超えたなんて記述はなかったんだが」って言ってました。…もしかして」 「もしかして…なによ」 「もしかして、わたしみたいに旅をしたにんぎょさんがいたんですか?」 「…まあそんなところ。ええ、変なやつだった」
2020-10-28 11:35:45「ともかく!人魚は魚じゃないんだから釣れないの。なんか他の手段考えなさい。…え?人魚の好きなもの?会ったなら聞いてないかって…覚えてるわ。歌よ。人魚は歌が好きなの。好きすぎて歌いまくってたら近くを通った船が転覆したって。これくらいの話は聞いたことあるでしょ?」 「どんな歌…!?」
2020-10-28 11:41:37ジンロウは竿を置き、座ったままで朗々と歌い始めた。 吟ずるのはこの国で信仰される神話の一編。遣わされしもの、天使の物語。 救いを求める人々のため、舞い降りたのは男女一対の翼ある御使い。 枯れた大地に見渡す限りの実りを。悪しきを討たんとするものに尽きせぬ力を。
2020-10-28 12:43:23そして、いずれ来たる別れを嘆く民に、病と死を知らぬ肉体を。 明らかな越権であった。 だが、人と共にあるうち使命ではなく情けで人を助けるようになった女の天使はついに禁忌に手を出した。 その、愚かしい天使の末路は。
2020-10-28 12:51:02「アンタ…なんでその歌を…」 「…え?」 「どきどき…」 「ジンロウ、アンタは…」 「あのルフさん」 「ちょっと待って、今大事な話を」 「そうですよー歌の続きは大事ですよー」
2020-10-28 12:58:55「…誰よアンタ!?」 「続きをーお願いしますー」 気がつけば。船の淵に何者かがしがみついていた。 しきりに歌の続きをねだる、一糸纏わぬ半透明の少女こそ。 探し求めていた、人魚であった。
2020-10-28 13:06:03「誰だこいつ!!!」 「人魚のーカナンですー」 「俺は宝玉持ってこいって言ったよな!?」 たっぷり海水の満ちた大瓶から顔を出す半透明の少女はカナンと名乗った。 人魚。その血肉を食べれば不死になると言われている。
2020-10-30 15:58:45イルラはジンロウが連れ帰った新たな幻想生物を前にまたしても頭を抱えることとなった。 「…お前ほんとに人魚か?」 「はいーくらげの人魚ですー」 「くらげ…」 「くらげですー」
2020-10-30 16:08:50「仲間が引っ越す時に身体が海流に耐えられないから、って穏やかな近海に残ったんだって。かわいそうよね」 「ずっと一人は…さみしいですよね…」 「やめろぉ…俺に同情させるなぁ…」 「ここではーたくさん歌が聞けるんですよねー?」 「そうよ。かつてアンタたちが愛した歌。人の歌がね」
2020-10-30 16:48:04「外出までする気なのか…」 「大丈夫よ。くるまいす、って言ったっけ?あんな感じに見えてるから」 「そういう話じゃない…」 イルラは今後自分に訪れるさらに忙しい日々を想像する。明晰な頭脳は「無理」という計算を弾き出し、顔が勝手にしわしわになるようだった。
2020-10-30 18:16:24「はぁ…それで?お前も考えなしにこいつを連れて帰ったわけじゃないだろう。とっとと説明しろジンロウ。…まさか、こいつ自身が宝玉ってことか!いや違うのかよ!!ぶっ殺すぞ!!」
2020-10-30 18:37:07「海の大宝玉はー仲間が持っていっちゃったのでないんですー」 「…んなことだろうと思ったよ。それでもジンロウは必要なら取ってくると思ってたんだ。必要なら、な」 「んー?」 「なんでもねぇよ。いいか、ここにいたきゃ俺のいうことを聞けよ」 「はいー」
2020-10-30 20:21:22こうして着実に不死の研究は進んでいく。 「…ほとんど水じゃん…」 「くらげなのでー」 「人魚の肉…ほぼ水だけど…食べたら不老不死に…?」 「ならないと思いますー」 「だよなぁ…」
2020-10-30 21:15:44「妖精も似たようなもんだな。ほとんど魔力だ。役に立たん」 「はぁ?アタシの魔法でいくらでも救ってあげてるのにその言い草はないわよねぇ?」 「脅すな!くそ、妖精はエルフを戴くってのは嘘だったのか…」 「…ふん」
2020-10-30 21:40:31