食べると不死身になれる、って伝説がついてるレアなファンタジー生物を探す男の話。10

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江口フクロウ@眠み @knowledge002

かくして神を守る四柱の守護聖は敗れ、不死を得たはずの全ての人間が抹殺されていく。 「……ふむ」 この状況を神の王となったガームレスは驚きと感嘆を以て受け止めた。 「最悪の展開だな」

2021-01-06 20:14:59
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「困ったものだ。これは…それぞれの資料から読み取り得る最悪の展開そのものだな。おそらく妖精…いや、各地で活動していたのは幻体ではなく本来の姿か。してやられた。魔法の祖たるエルフなら魔力を隠す程度お手の物というわけだ。…我が友よ、君はもしかして、全てを予見していたのか?」

2021-01-06 20:20:28
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「いや、それはないか。君はむしろ彼女らの存在を隠そうとしていた。君たちの隠れ家とやらに逃げ込まれていたなら間違いなく手遅れだったろう。…ふふ、まるで今の状況が手遅れでないような口振りだと?」

2021-01-06 20:24:56
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「その通りだ。私は全く焦っていないよ。最悪ではあるが、対処はできる。そういう訳で、だ」

2021-01-06 20:25:41
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「我が友の友たる君たちに告ぐ。神を守護する新たな四柱となってはくれないか?」 ガームレスは、己を取り囲む四つの災害に向けて何の忌憚なく言い放って見せた。

2021-01-06 20:28:17
江口フクロウ@眠み @knowledge002

既に王都は災害に蹂躙され、今も民は焼かれ裂かれ溺れ絞められ殺されゆく最中で。 自らも壁と天井を吹き飛ばされた玉座だけの間に、しかし悠然と玉座に腰掛け頬杖を突いたままに。 最も多くの肉を食み、今尚傍らに置いた肉塊へ声をかけながら。 ナイフで削いで、また一口。

2021-01-06 20:39:50
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「…んむ。恩寵の味とはかくも美味なものか。全く飽きが来ないとは…はぐ。これは我が祖先をあまり強く否定できんな。君たちは知っているか?かつてこの国は今と同じように神の祝福を受けたことがあるのだ。二柱の天使が降臨し、善良なる民を導いてくださった。あぐ」

2021-01-06 20:49:04
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「そう。天使たちはその力と、血肉でもって奇蹟を起こした。いや、血肉までも用いたのは片方、女の天使だったがね。慈悲深き天使は地面に血を垂らして生み出した黄金を配り、自らの身体から削いだ肉を渡して死の悲しみを癒したのだ。ただ、当時の祖先は今より少しばかり愚かでね」

2021-01-06 20:53:51
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「食べきってしまったのだよ。天使を」

2021-01-06 20:54:14
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「血を搾り尽くし骨まで噛み砕き、ついに不死であった天使は喪われた。そのことに呆れ果てたもう片方の天使はこの地を去ってしまい、神の祝福は断たれたわけだ」

2021-01-06 20:55:53
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「故に、私は先に管理することを選んだ。祝福と、愚かな民を。そのために君たちにも少し乱暴な目に遭わせてしまったことは本当に済まない。いくらでも頭を下げよう。殺してくれても構わない。君たちの力が私を殺し切るまで保つのなら、だが」

2021-01-06 20:58:22
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「その力の原理は一応知っているよ。祝福を魔力と変えて君たちはここまでの力を得た。だが、肉の一切れでは元の存在が如何に強大であれ限度もあるだろう。一方私は元が矮小な人間だが、多くの肉を得た今間違いなく神に近付いている。限りなく純粋な力だ。君たちであっても」

2021-01-06 21:23:53
江口フクロウ@眠み @knowledge002

すとん、と。 どこからか飛んできた木矢が、まるで「ご高説を垂れる割には中身のなさそうな音ね」、と言わんばかりにあっけなくこめかみを撃ち抜いた。 水分を吸った矢から根が伸び肉へ伸ばしていた手を絡め取る。

2021-01-07 08:01:29
江口フクロウ@眠み @knowledge002

身動きを封じられた一瞬の隙を突くようにふわりと通りすがったような小さな泡がガームレスの手に当たり弾けると、途端に身体全体を包みそのまま浮かせてしまう。おまけにどこからか泡の中に水が湧き、あっという間にその肉体の隅々にまで満ちていく。

2021-01-07 08:08:51
江口フクロウ@眠み @knowledge002

浮いた水球はそのまま空中で霧に変わった。霧に溶けた鉱毒が身体の外と言わず中と言わず存分に全身を犯すと飽きたようにぱっと消え失せ。 放り出された男を火球が地に落ちる前に灰の一粒まで焼き尽くした。

2021-01-07 08:13:40
江口フクロウ@眠み @knowledge002

後には、何も起きない。 やれやれと余裕綽々に復活するでもなければ身代わりであると種明かしをしながら現れるでもなく。 神を目指した男は死んだ。

2021-01-07 08:20:07
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「これは…どうしましょう…」 「うたいましょうかー」 「血、飲んでいい?」 「ダメ。はぁ…面倒なことになってるわね」 さて。 首魁は死んでも騒動は終わらない。そのまま四匹の災厄は不死を得た人間を殺し尽くした。

2021-01-07 08:23:51
江口フクロウ@眠み @knowledge002

その後それぞれが一様に目指したのは城の地下だ。 そこには、肉塊があった。 ガームレスが摘んでいたようなものではない。人と同じ肌の色をした巨大な肉の塊がこれまた小山のような黄金の杯に安置され、滝のように血を溢れさせその下に置かれた石くれを黄金に変えていた。

2021-01-07 08:33:54
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「る、ルフさん…どうしたら」 「集めた遺物を利用されたのね。培養に培養を重ねた結果原型も残らないとか…人間ってどうしてこう…」 「いいしゅみですー」 「ほんとに飲んじゃダメ?ちょっとでいいんだけど」 「ダメ。アンタも金になっちゃうわよ」

2021-01-07 08:38:20
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「ねぇ我が子孫、アンタはどう思う?」 「…やめろよその呼び方。げほ」 人の形を取り直した災厄たちは肉塊に辿り着く前に、一人の人間を牢から連れ出していた。 外道研究者、イルラ。

2021-01-07 08:43:59
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「くそ、おかしいと思ったんだ…知ってる妖精の情報とちょくちょく食い違ってたのはそういうことかよ…」 「まあね。こっちにも色々事情があったわけ。で、これどうにかなるの?我が子孫」 「直系じゃねぇくせに祖先ヅラすんな…ああくそ頭が回らん、たらふく肉と薬をぶち込まれた俺をもっと労われ」

2021-01-07 08:47:54
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「あー…そもそもあいつと俺たちの縁は神話の時代に遡る。片割れを失ったあいつは、不死を得た連中をぶっ殺し直した後、世界中を歩き回ってた。相方を生き返らせたかったんだと。天上から長く、そりゃもう長く地上を眺め続けて自分の神とは違う信仰や奇跡を知ってたからな」

2021-01-07 08:53:37
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「その過程で最初の俺があいつと出会った。旅人を装ってる割にあまりに無用心なあいつが心配になったのも確かだが結局は好奇心だよな。何度も後悔したけど。俺が俺を受け継ぐのもあいつが人間の区別ができないからで…そう、こういう風に隙を突かれてとっ捕まらないように俺は次の代へ俺を継いでった」

2021-01-07 08:59:18
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「その過程でエルフの血を入れたり、あいつの旅に付き合うために色々やったが。おえ…今回みたいな無茶な実験台にされるのは二度と御免だ。くそ」 「……それで?」 「一度殺せ。暴走させられてる再生を正常に戻すのに無駄な部分が多すぎる」 「えっ…大丈夫なんですか…?」

2021-01-07 14:37:36
江口フクロウ@眠み @knowledge002

「わからん。でもやれ」 「えぇ…」

2021-01-07 14:38:28