リキシャー・ディセント・アルゴリズム #7
(あらすじ:ヨロシサン製薬とザイバツの陰謀を収めたフロッピーを偶然入手した、リキシャードライバーのアナカ。ザイバツの放った2人の残忍なニンジャは、ギャング団のアジトである袋小路にアナカを追い詰めた。もはやこれまでか?だがそこへニンジャスレイヤーが現れ、ニンジャは爆発四散したのだ)
2011-07-23 11:31:02ニンジャスレイヤーは黒焦げになったブラックドラゴンの死体を片足で踏みつけながら、自らの手足を覆う不吉なナラクの炎を見つめていた。フジキドの意識はもはや、完全にチャノマから現実世界に引き戻されている。渦巻いていた黒い炎は、見る間に勢いを弱めていった。両眼がフジキドのそれへと変わる。
2011-07-23 11:34:23「ナラク……」ニンジャスレイヤーは鋼鉄メンポの奥から、表情を押し殺した声を吐いた。右手を目の前で握り、開き、また握り、僅かに残ったナラク・ニンジャのソウルの気配を確かめる。だがそれも、黒い煤のように消えていってしまった。ナラク・ニンジャは、再び休眠状態へと戻ってしまったのである。
2011-07-23 11:36:55逃走したもう一人のザイバツ・ニンジャ、シャドウウィーヴを追う事は、もはや不可能だろう。距離が離れすぎている。ニンジャスレイヤーは舌打ちした。ニンジャソウルの遠隔感知は、ナラクが休眠状態ではほぼ不可能だからだ。無理を承知で追うか?そう考えた矢先、背後から声が聞こえた。「俺を……」
2011-07-23 11:44:00声の主はガレキの上で仰向けに倒れるアナカ・マコトであった。「俺を……ニンジャに……してください……」アナカは一縷の望みをかけて、自らを覗き込むニンジャスレイヤーにそう懇願した。「俺にはもう……何も無いんです……学も力も根性も無い……ニンジャになるくらいしか……妻を幸せには……」
2011-07-23 11:47:45「悪い夢から早く醒めることだな」ニンジャスレイヤーは冷たく言い放った「オヌシがニンジャになれば、私はオヌシを殺すだろう。あのザイバツどもと同じように。容赦なく」。「アイエエエエ…」アナカは力無く嘆息した。絶望して眼を閉じ、妻の姿をニューロンに思い浮かべていると、不意に体が浮いた。
2011-07-23 11:52:11疲弊したアナカの体は、タジモトが所有していた改造リキシャーの豪華なシルクフートン地座席の上に横たえられていた。アナカは驚き、目を開く。体はまだ覚束ない。ギャングから奪ったジュー・ウェアと編笠をまとうイチロー・モリタが、熟練のドライバーめいた姿勢で鋼鉄バーを握っていた。
2011-07-23 11:57:40「お客さん、家まで運びますよ」リキシャー・ドライバーは静かに言った「案内してください。私はキョート・ニュービーなんです」。「ドーモ……ドーモ……」アナカは座席に身を横たえ、嗚咽を洩らしながら謝意を伝えた「このL字路を抜けたら、まっすぐチョンチョンジ・ジャンクションまで……」。
2011-07-23 12:02:11「急いで……妻が……アブナイ…」悲痛な叫びを聞き、フジキドは満身創痍の体に鞭を入れた。リキシャーはアンダー・ガイオンを風のように駆け抜ける。戦闘時にシャーシが傷んだのか、キイキイという頼りない音を発しながら。アナカの人生のごとく、いつ空中分解してもおかしくない危うさを感じさせた。
2011-07-23 12:13:07ボンボリに照らされた薄暗い広間。壁には古代エジプトのアブシンベル神殿を思わせる荘厳なレリーフが刻まれ、その上には神々しい光を放つ隻眼を戴いた、巨大な黄金浮遊ピラミッドが描かれている。「ニューワールドオダー」と横書きされたショドーが漆塗りの額に飾られ、ザイバツの思想を暗示していた。
2011-07-23 14:48:14賢明なる読者諸氏は知っているだろうが、このレリーフに彫られるべきモチーフは玉座に座すファラオたちだ。しかし、謁見の間にしつらえられた彫像たちは、その全員が不吉なニンジャ装束に身を包み、エジプト的な武器や杖のようなものを握っているのだった。見る者の正気を奪いかねない邪悪さである。
2011-07-23 14:55:35巨大なニンジャファラオ彫像たちの中心には、荘厳なるロード・オブ・ザイバツの玉座がある。ロードの体は上等な黒いスーツに包まれ、手は絹製の白い手袋によって覆われていた。その表情は、紫色の神秘的なノレンによって隠され、いささかも窺い知ることはできない。
2011-07-23 15:01:14「閣下、シャドウウィーヴがディスクを携え帰還いたしましたぞ」ロード・オブ・ザイバツの側近ニンジャ、パラゴンが、重苦しいワインレッド色のカーテンの奥から姿を現した。「フォーフォーフォーフォー……」ロードは満足そうな声とともに、膝の上に乗せた金魚のように美しい毛並みの三毛猫を撫でる。
2011-07-23 15:12:18「これに」シャドウウィーヴは漆塗りのオボンに載せたフロッピーディスクを掲げながら、うやうやしく謁見の間に入場してきた。タタミ敷きの床では、先程からヨロシサン製薬の重役と営業がドゲザの姿勢を続けている。その横を通りながら、シャドウウィーヴはこの人間たちに対して強い侮蔑の念を抱いた。
2011-07-23 15:15:20シャドウウィーヴはロードの玉座の横で立膝の姿勢を取り、オボンを高く掲げる。「フォーフォーフォー…良い働きであった」ロードはディスクを手に取り、書込み禁止タブやディスク本体部などを一瞥すると、それをオボンに戻し、ヨロシサン製薬に渡すよう促す。「……して、ブラックドラゴンは何処へ?」
2011-07-23 15:18:46「マスターは、死にました」シャドウウィーヴが感情を抑制した声で答える「ニンジャスレイヤー=サンの手にかかって」。「何だと?」ロードの声に僅かな怒気がこもる。バイオ三毛猫が恐怖を感じ、膝の上から飛び降りて丸まった。ロードは両手を合わせ、静かに呟く「シテンノすらも殺すとは……」。
2011-07-23 15:22:51「このたびは大変お世話になりました」ヨロシサンの重役は、フロシキに包まれた重箱を献上する。パラゴンがこれを回収し、ロードのもとへと携えていった。ずっしりと重い。中身はかなりの数のコーベイン、すなわち加工ゴールド・インゴットである。
2011-07-23 15:26:16コーベインを1枚手に取ったロードは、等級を確かめてから、玉座の下に投げ捨てた。魅惑的な黄金の輝きに惹かれ、三毛猫がじゃれつく。ザイバツ随一の博学者であり古典コトワザにも造詣の深いパラゴンは、すぐさま主君の意図を読み取った。ネコにコーベイン!進物を捧げてきた者に対する最上級の嘲笑!
2011-07-23 15:32:11「ザッケンナコラー!」パラゴンはコーベイン重箱を床に叩きつけながら、ヤクザスラングを叫んだ!コワイ!片腕をケジメした営業は、ドゲザの姿勢のまま祈るような気持ちで失禁する。「この程度で済むか!ナマッコラー!貴様らのせいでニンジャが1人死んだんだぞ!どれだけの損失だ!スッゾコラー!」
2011-07-23 15:39:55「アイエエエ……大変シツレイ致しました」ヨロシサン製薬キョート支部の課長が、さらに深くドゲザする。失禁は無い。さすがは万魔殿ヨロシサン製薬で重役の地位にまで上りつめた男である「これ以外に、最新のクローンヤクザ12ダースを無料進呈させていただきます」。「アッコラー!?」とパラゴン。
2011-07-23 15:44:32「フォーフォーフォー……まあよい、パラゴンよ。余はヨロシサン製薬の真摯さに胸を打たれた」ロードが玉座から威厳に満ちた声を放つ「これで手を打つとしよう」。「「ハイヨロコンデー!」」ヨロシサン製薬の重役と営業は、トリュフを嗅ぎ当てた豚のように、額をしきりにタタミにこすりつけた。
2011-07-23 15:50:40「……だが、貴様は余の神聖なる謁見の間を汚したがゆえ、生かしてはおかん」ロードは玉座に備わった秘密のボタンを押す!「アバーッ!?」突然、営業のドゲザしていたタタミがくるりと90度回転した!ナムアミダブツ!ヨロシサンの営業はドゲザの姿勢のまま、10メートル下のヤクザピットへと落下!
2011-07-23 16:00:20