大発生の記憶

生物の大発生は興味深い現象だ。最近、ある論文がキシャヤスデ大発生の遠い記憶を呼び覚ましてくれたので、思い出すままに、これまでに経験した大発生について簡単に記しておく。
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8年周期で大発生するキシャヤスデの1世代の所要期間は8年で、成体は毎年出現するが、出現年ごとに8つのBrood(血縁集団?)に分かれ、そのうちの1つが8年ごとに大発生するという興味深い論文を読んだ。
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsos.201399

8つのBroodは分布地域を違えているようだが、分布境界付近で1世代が7年や9年の個体が混在してBrood間に遺伝子交換があり、メタ個体群を形成しているのかどうかも興味深い。

それを読んで、1968年秋に鈴鹿山系永源寺川水系源流域付近でキシャヤスデ(オビババヤスデ)の大群に遭遇していたことを思い出した。

アマゴ釣りにでかけたのだが、地下足袋姿で階段状の小渓流を釣り上り、一段上の水域に竿をかざすと、アマゴが棲んでさえすれば入れ食い状態だった。さらに登ると傾斜がやや緩やかになり、小さな淵と瀬が連続して交互に現れる場所に入った。ヤスデに気づいたのは、その小さな淵の底が一面に黄色く見えた時だ。夥しい数のヤスデの溺死体だった。

あたりは湿ったスギ林でシダ類など下層植生が繁茂し、そこにも多数のヤスデが蠢いていた。1平方メートルに50個体ほどいたように思う。このときは後にマツノザイセンチュウ研究で名をはせ、京大教授になったF君も一緒だった。

冒頭で紹介した論文は中部地方の調査結果で、その中の Brood VI が1968年に大発生している。キシャヤスデとオビババヤスデは別亜種とする説もあるようだが、いずれにせよ、鈴鹿山系でも同じ1968年に大発生していたのは、面白い。

大発生を規定する明確な基準はない。空間的にも時間的にも多様な大発生があるだろう。ここでは、僕が経験した大小さまざまな「大発生」を恣意的に紹介する。

今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(1) モンシロチョウ キシャヤスデの大発生に遭遇したのを思い出したのがきっかけで、これまでに遭遇した事例を思い出すまま記すことにした。モンシロチョウは子供のころキャベツ畑に群れ飛んでいた。当時は普通のこと。

2021-01-15 21:51:44
今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(2) ウスバキトンボ 子供のころ、北山通は中央部だけの舗装で、車も少なく、道に座って山の絵を描いていると、暇そうなおじさんが覗き込み、たわいもないことを話しかけてくる。夏には、道幅いっぱいにウスバキトンボが群れ飛び、狙ってバットを振るとたまに撃ち落とせることがあった。 pic.twitter.com/PO9OhNYFZW

2021-01-17 14:16:04
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(3) カトリヤンマ 子供のころ、近所の空き地に御座や廃木材で小さな基地を作り、ヒメムカシヨモギやオオアレチノギクの茎を武器に戦争ごっこをやっていた。空き地の一隅に小さな雑木林もあり、夕暮れ時になると、無数のカトリヤンマが飛び交っていた。餌の小昆虫も多かったのだろう。

2021-01-17 14:20:37
今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(4) ヘイケボタル 小学4年の夏の夜、初めて一人で西賀茂へカブクワ採りに行った。道路から山側には雑木林、道路の谷側に沿って小さな流れと田んぼがあり、流れのそばには無数のヘイケボタルが光を点滅させながら飛んでいた。

2021-01-17 14:22:26
今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(5) イエバエ 大阪市立環境科学研究所へ就職して2年目、廃棄物処分場のイエバエ対策を任された。当時の処分場には生ごみから発生するイエバエが無数に飛んでいた。イエバエの個体群密度の制御は研究開始3年目、殺虫剤抵抗性の制御は6年目に達成した。 pic.twitter.com/OjcSEQA3jA

2021-01-17 14:37:39
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(6) イチモンジセセリ 1977年10月午前、ハエ対策で処分場に向かう船上で、無数のイチモンジセセリが淡路島の方向へ船を追い越して移動するのを見た。その日は、船着き場周辺の夾竹桃に訪花する個体がやけに多かった。同期の同僚で、のちに岐阜大学教授になったT君と一緒だった。 pic.twitter.com/GuKnOs8Wlx

2021-01-17 15:47:24
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(7) ケナガコナダニ イエバエ幼虫飼育に粉末飼料を大量に使用していたころのこと。久しぶりに日曜日に休んだ翌日の月曜日の朝、実験室の黒い机一面に白い粉がふき、それが動いていた。油断してケナガコナダニの局地的大発生とそれに続く密度依存的移出を許してしまった。 pic.twitter.com/IqEjMCntNp

2021-01-17 15:50:04
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(7-2) サトウダニ 1970年代、市販の味噌へのダニ混入が問題視された。大阪市内では日本酒醸造用の樽を転用し、伝統的な手法で味噌が製造されていた。現場では、サトウダニが樽の外側までびっしりと付くほどに大発生していた。スマトラへ行く前の3年間で対策を確立した。 pic.twitter.com/CrrASzyrX9

2021-01-18 21:37:11
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(8) ドブネズミ 処分場のハエ対策を終え、ドブネズミの調査を始めた。そのころ、腎症候性出血熱HFRSのヒト感染例が少数ながら報告され、原因ウイルス保有動物としてドブネズミが知られていた。1983年には、面積40haに200個の罠を5日間仕掛け、326個体を捕獲した。大発生だったのだろう。 pic.twitter.com/qmeGzdHisQ

2021-01-17 15:56:23
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(9) ユスリカ インドネシアでトバ湖畔の民家に泊めてもらったことがある。翌朝、地元の船を出してもらい、キリスト教宣教師殉難の地、ムアラに向かった。その途中、湖面に無数のユスリカを見た。湖面での一斉羽化に遭遇したようだ。午後、同じコースを戻った時には、大群は消滅していた。 pic.twitter.com/2MmgcZVUyT

2021-01-17 16:00:33
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(10) カメムシ マラッカ海峡から少し内陸部の村で蚊の調査をしていた夜、近くの白壁の2m×5mほどの部分にカメムシ科またはクチブトカメムシ科と思われる小型種の成虫がびっしりと止まり、すごい臭いを発しているのに遭遇した。白壁に反射した月明りに誘引されていたのだろうか。 pic.twitter.com/C3cF5eWEIi

2021-01-18 21:41:48
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(11) ホタル 蚊の夜間調査で、マングローブの特定の中木にホタルが集合して発光しているのを見た。数は数十だったから、大発生とはいえないが、一本の木に集合したホタルの光が点滅していた光景は忘れがたい。

2021-01-18 21:45:56
今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(12) ウスキシロチョウ 中部ジャワのボロブドゥールで、ウスキシロチョウの白色型で水色がかった個体群の大移動に遭遇した。その日は遺跡への道でも姿が目立ち、遺跡について暫くして大群の西から東への移動が始まった。移動は視界に入っただけでも50m幅・5m高で30分ほど続いた。 pic.twitter.com/dGc1c2PVjU

2021-01-18 21:48:54
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(13) ルリマダラ マレーシアのキャメロンハイランドを訪れたとき、ブリンチャンの丘にある紅茶畑で、ルリマダラ類数種の大群に出会った。10個体ほど採集したが、あとは茫然と眺めていた。大群は10分ほどで消滅したので、移動の途中だったようだ。 pic.twitter.com/U4qQ2WnLzT

2021-01-18 21:52:15
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(14) シオユスリカ 海面埋め立て式の廃棄物処分場でユスリカが大発生した。対岸ではUSJ建設が始まる直前で、対応に追われた。ユスリカの専門家Yさんに依頼したところ、シオユスリカと同定していただいた。発生源は波のない海の底泥だ。いくつかの提言をし、USJは開園された。

2021-01-18 21:54:08
今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(15) チャドクガ 都市緑地機能の総合的研究の一環で上町台地斜面緑地を調査したとき、林内のヤブツバキがほぼ完全に食害されている光景に遭遇した。以前に食害を確認していたチャドクガ幼虫の大発生の結果だったと思う。成虫まで発育したのは、そのうちの何割くらいだったのだろう。 pic.twitter.com/YcoVQ8rhli

2021-01-18 22:05:53
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(16) チョウトンボ ハエ対策に従事した処分場の跡地は舞洲緑道となり、生物調査を任された。あるとき、チョウトンボの千個体くらいの群れに出会った。次の日、同じ研究室のY君が出かけると、少数しかいなかったという。付近に発生源は少なく、移動中の集団に遭遇したものと思われる。 pic.twitter.com/o4SYAsNaaD

2021-01-18 22:08:10
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今井長兵衛 @medanjin

大発生の記憶(17) ワモンゴキブリ 大阪京橋で若者がマンホールに殺虫剤をまき、ワモンゴキブリが多数出てくるという事件があり、下水道局から視察と対策伝授の依頼があった。マンホールを開けてもらうと、温かく強烈な臭いの中に無数のゴキブリがいた。ワモンは下水管を好むようだ。

2021-01-18 22:11:24