鳥畑与一氏のMMTスライドを批判的に検討する

ゆえあって取り上げます。
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

『コロナ収束後の金融財政政策を考える~MMTの問題点を一視角に~』 金融・労働研究ネットワーク  2020年9月27日13時~16時 鳥畑与一(静岡大学) leaf-line.jp/~iflj/wp-conte… ゆえあって、このスライドを取り上げ、批評してみようと思う。 これが日本の「非主流派のセンセイ」の平均値なのだろうか?

2021-02-05 15:20:52
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

まずこれ。 マネー・マネージャー資本主義を通じて、格差拡大+長期停滞が出現してきた、という問題意識は割とMMTともシナジーがあって筋が良いように思える。 しかし、「財政ファイナンスでの需要創出」というのは、歳出伸び率が明らかに抑制されてきた現代日本の史実に反する認識と思われる。 pic.twitter.com/hiSTXO2UG8

2021-02-05 15:24:20
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

「財政出動に関する誤解を嘘」 togetter.com/li/1182052 でもまとめたが、歳入減少型の財政赤字積み上げは、(基本的な均衡財政乗数の議論を敷衍することにより)総需要拡大にあたって不十分となる。 『財政出動は十分されたが効かなかった』という俗説は、明らかに虚偽であることに注意したい。

2021-02-05 15:27:42
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

ここらへんも割とテンプレな認識だと思うが、 ・国債GDP比の拡大は単に長期停滞の結果で、先述の通り歳出は抑制されすぎているくらいなので、財政単体を責めるのは無理筋。 ・日銀のETF買いが問題なのは、キャピタルゲインを資本家層に与える構図になっていることであって、「コスト」の問題ではない。 pic.twitter.com/CbxFshwLhX

2021-02-05 15:37:57
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

『徳永潤二氏 "Monetizing Public Debt in Japan: An Empirical Critique of Modern Money Theory" を批判する』 note.com/motidukinoyoru… で詳しく論じたが、資産価格の変動によって仮に日銀が債務超過になったとして、日銀単体のB/Sを見ても意味がない。 統合政府部門全体で見る必要があるからだ。

2021-02-05 15:41:07
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

基本的に、統合政府部門(政府+中央銀行)の総負債および純負債の水準を大部分決定するのは財政政策であって、金融政策は基本的にその内訳を弄る(例えば、国債を準備預金に置き換える)に過ぎない。もちろん、ETF購入と資産価格変動が影響を与える側面もあるが、それはあくまで部分的影響として。

2021-02-05 15:43:54
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

そもそも日銀が国債オペを通じて短期金利を操作すること自体に妥当性が乏しいというのがMMTerの見解となろうが、それでも仮に金利政策の意義と有効性を百歩譲って認めたとして、やはり中央銀行が債務超過になることそれ自体は問題にならない……ボンドコンバージョンや国債提供で対応可能だからだ。

2021-02-05 15:55:39
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

順番が前後するがこちらの2スライド。 もちろん、富の偏在、累進的課税制度の不十分さという問題意識には同意するが、ポストケインジアン的なマークアップのメカニズムを考慮すると、単なる増税(特に法人増税)は、労働者や消費者への転嫁を通じて一層経済を苦境に陥れ得ることには注意したいし、→ pic.twitter.com/dTCHIvKbKT

2021-02-05 16:13:59
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

→ 税制によって事後的に補正する前に、労働所得を通じた初期分配の構造に(例えば、JGを通じて)手を加えないと、資本主義による格差拡大のサイクルを抑えるのが難しくなる。 単純に考えても、「支出が先で税が後」、および「基本的に支出>税」である以上、支出を第一に考えることは避けられない。

2021-02-05 16:17:17
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

全体を通じてそうなのだが、鳥畑氏は、実際に積み上がった不平等な富の水準を見て、単にそこに課税するべきと短絡的に結論付けている。 この思考回路は富裕層課税論者に共通しそうだが、もっと”トリクルアップ”の構造を精緻に解剖しなければ、先述したように負担転嫁の餌食になるしかない。 pic.twitter.com/JCgQ08Mttg

2021-02-05 16:25:04
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

富裕層課税において(100%でなくとも)一定以上の転嫁が遂行されてしまうと、富裕層増税論者の思惑とは全く裏腹に、格差縮小を達成できない上に、一層長期停滞による不況を深刻化させてしまうことになる。 MMTerがJG等を通じた直接的な分配構造への介入を第一にするのは、この問題意識のためだ。

2021-02-05 16:28:30
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

「統合政府としては民間に対してマネタリーベースという債務を負っている」という認識は、MMT(における表券主義)的貨幣観と合致するが、貨幣乗数については、ビル・ミッチェルが執拗に否定しているように、MMTをはじめとする信用貨幣論・内生的貨幣供給論において誤った概念とされている。 pic.twitter.com/mUMFbA6vRm

2021-02-05 20:37:12
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

主流派の一部では、内生的貨幣供給論を部分的に受け入れながら、ヴィクセリアン的な枠組みを用いて、中央銀行が総需要ならびにMSをコントロール可能とする考えもあるが、準備付利政策によってBM量と政策金利の関係は断たれているし、政策金利→総需要→MSの関係についても、不安定ないし非線形である。

2021-02-05 20:39:22
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

最後の、「MSを含めた通貨価値は、日銀信用(通貨価値の安定)に依拠する」という主張に至っては、その理路が一切分からない。 単純な需給原理であれ、そこにマークアップ原理を組み合わせるのであれ、通貨価値を位置づけるのは実際の全体の経済の条件であって、”日銀信用”単体には依拠しない。

2021-02-05 20:41:32
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

翻って、このスライドは割と当を得ている。 それだけに、前後との論理的な繋がりの無さが一層際立つのであるが……。 もちろん、MMTerは、自然利子率に議論を収束させる通俗的な長期停滞理論については了解し得ないであろうが、需給を大きく不均衡たらしめる長期不況の構造には理解を示すだろう。 pic.twitter.com/HIq9jKYTQu

2021-02-05 20:45:16
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

富の偏在については理解するが、そこから基礎となる分配構造に踏み込まず、税制だけに議論をフォーカスさせようとしていまうのが残念に感じる。 ただ、長期停滞と企業高収益が並行している構造は、拙noteにおける村瀬論文批判 note.com/motidukinoyoru… の文脈にも通じてくる重要な論点ではあるのだ。 pic.twitter.com/wwScabPKsY

2021-02-05 20:49:41
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

言わんとするところは分からないでもないが、俗流の統合政府論とMMTを特に留保なく併置するのは勘弁願いたいところである。(後に引用するように、鳥畑氏自身は一応区別はされているように見受けられるのだが、ならなおのこと、留保なく同列に並べるのは誤解の元となる) pic.twitter.com/IX5r5AYqcP

2021-02-12 11:20:40
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

俗流の統合政府論が、MMTとは根本的に異なることについては、拙記事 ameblo.jp/nakedcds/entry… でまとめた。 「ベースマネーは本質的に統合政府負債であると認め、買いオペが財政再建に繋がらないことを認めるべき」 「そもそも、『政府の財政改善が良いことである」というドグマから離れるべきだ」

2021-02-12 11:22:23
望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

別に悪いこととも思わないが、MMT関連の日本語文献の引用のつもりで、松尾氏と朴氏の著作が前面プッシュされるのは、一言で言えばやや不思議に思う。 彼ら自身は特に自分たちをMMT派と位置付けていないと思うので、こうした引用はねじれの元になろう。 pic.twitter.com/Om8UdQLwRE

2021-02-12 11:26:53
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

詳細に突っ込むと、この「金融緩和を利用する」という点については、MMTはむしろ批判的なので、かなり重大な誤解がなされていると思う。 MMTがOMF econ101.jp/%E3%83%93%E3%8… を主張するのは、むしろ金融政策スキームを批判する文脈においてであるからである。 pic.twitter.com/0CftkEAain

2021-02-12 11:28:47
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

拙著 shuwasystem.co.jp/book/978479806… で論じたように、MMTerは一般に、金利政策を「不確実性」、「不安定性」、「不平等性」から批判しており、当然量的緩和政策にも批判的である。 金融緩和のためにOMFが主張されているわけではない(むしろ逆)なのだが、多くの紹介者に留保されないのでねじれが生ずる。 pic.twitter.com/iH5yeGnN4X

2021-02-12 11:31:02
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

細かいツッコミになるが、「完全雇用まで財政支出を拡大すべき」はちょっと違う。むしろ、総支出の単純な追加が完全雇用を達成しえないということがMMT/PKの重大な問題意識で、だからこそジョブ・ギャランティという提案が出てくる。 間接的な民間投資誘発ではなく、政府の直接雇用が志向される。 pic.twitter.com/atUyIypDLV

2021-02-12 11:33:54
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

このことについても、拙著 shuwasystem.co.jp/book/978479806… で以下のようにまとめた。 端的に求めれば、資本主義経済における不安定性と分配の不公平性に基づく。 ただ、この点は確かに多くのMMT紹介者において踏まえられないことが多いので、鳥畑氏において意識されないのも無理はないかもしれない。 pic.twitter.com/Sstx0R1K1t

2021-02-12 11:40:31
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

このスライドで鳥畑氏は、MMTではマルクス的な価値増殖過程(剰余価値の創造)が理解できない、と批判しているが、ミッチェル&レイ&ワッツがMacroeconomicsのChapter 26でマルクス主義的な危機の理論を包摂して論じているように、むしろMMTと親和的である。 以下に端的にまとめると → pic.twitter.com/SDX1XrMZdi

2021-02-12 11:50:10
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望月慎(望月夜) @motidukinoyoru

→ M-C-P-C'-M'という資本主義の生産様式と、MMT的な「民間部門が全体で利潤を生み出すことは出来ない」という命題が整合されると、資本主義経済が多幸症的な投資増幅か、公共部門による補填か、あるいは不況(過少消費、過剰蓄積)を経験する、というマルクス主義的命題が自然に導かれるからである。

2021-02-12 11:55:27