- knowledge002
- 531
- 2
- 0
- 0
前回までのあらすじ。 「せっかく助かった命、大事にしましょう」 小狡くて皮肉屋な下っ端竜殺騎士ウェルは先輩たちの策によって殺されかけるも偉いやつの娘リーシャによって命を救われる。 感動したウェルは心を入れ替え、
2021-02-15 17:46:02全力で人生を愉しむことにした。 だって元々悪いことしてないし。 仕事には真面目だったし殺人もあくまで正当防衛の範囲内で、犯罪らしい犯罪と言えばまあ死人から多少金品をくすねたことがないとは言えないが敵討ち料と迷惑料なのでノーカンだし煙草は吸ってるけど禁煙の場所じゃ吸わないし
2021-02-15 17:51:24逆を言えば禁煙の札さえなければどこでも吸うけど歩き煙草はしないという信念があってなおかつ鎧はぴかぴかの栄えある白銀ではなく漆黒のいかついやつを人や竜の血で汚してはきちんとぴかぴかに磨いているしもっと言えば悪い騎士がある程度こなれたら始めがちな副業こと竜の横流しはやったこともない。
2021-02-15 18:02:12やろうとしていた先輩方を騙くらかして金だけ少しばかりいただきもう少し上の真面目な上司にこっそり告発したことはあった。 後になって考えるとこの件で何人か連座食らってるので殺されかけたのはこれが原因で恨まれたからだとウェルは思っている。
2021-02-15 18:06:44「どうせいずれバレるだろうに、人のせいにするのは良くねぇよなぁ」 「?ウェル、何か言ったか?」 「いえ、何も。それよりリーシャ様、ク・ヴァラ連隊の連中が名有りを仕留め損なったとか。話を聞いてきます」 「えっ…ウェルが行くのか?」
2021-02-15 18:21:20「ご安心を。この後の鍛錬までには戻ります。…約束しましたからね」 「ウェル…!」 かわいい女だな、と思う。 白いし、素直だし、清潔だし、背が低いし、胸と尻は丸いし、唇は薄いし、ぱっちりした目を燃えるように輝かせながらこちらを見上げる時の顔は特にかわいらしい。
2021-02-15 18:28:47ド底辺生まれ施設育ちの自分が高貴な女を食い散らかす。 そそる。 とてもいい。 以前は地を這いつつ細々と小銭を稼いでいこうなどと小癪な生き方をしていたが、どうせ一度失いかけた命とウェルは開き直った。
2021-02-15 18:34:22リーシャは何故かウェルを気に入っている。リーシャが気にかけているというそれだけで同僚殺しの重罪人ウェルが命を拾ったほどの影響力を持つお偉いさんの娘が。 ウェルを。 リーシャは自ら結成した悪竜討滅隊に副官としてウェルを起用し、ウェルはその立場を利用して警戒する隊員をおちょくる。
2021-02-15 19:15:37楽しい。 とても楽しい。 真面目に生きていてよかった、と彼は思う。彼女に一歩近づくたびに殺意を向けてくる先輩方のなんと滑稽なことか。わざと俺を楽しませようとしてないか?
2021-02-15 19:17:03上手く生きるのではなく楽しく生きる愉悦。 どんなに崇高な理想を掲げようとどんなに卑小な生き方をしようと人は所詮欲に皮を被せた獣でしかない。 自覚していくのが、心地よかった。
2021-02-15 20:16:36ライフスタイルが変わり心身共に充実すれば成果にも変化が表れるもの。 悪竜討滅隊入隊後、ウェルは飛竜の単独討伐を成功させる。
2021-02-16 00:52:08人に仇なす竜はざっくり分けて三種類。 尖兵にして最多、数の脅威たる劣竜。 羽の生えた蜥蜴、とは言うが竜だけあって割としぶといので死ぬにしても被害を出しがち。
2021-02-16 00:56:10その上が飛竜。このあたりから竜殺に成功すれば評価してもらえるようになる。 まず細っこい劣竜とは違い単純に大きい。小さくても人の大きさを下回ることはないし、どんな攻撃も一撃で必殺になりうる明確な脅威。鱗も硬い。 あと火を吹く。これは種類によって水を吐いたり風の刃を放ったりする。
2021-02-16 01:03:02基本複数人で向き合う相手だが、故に単独で討ち果たせば大きな名誉たりうる。 重い鎧と戦鎚を抱えたまま巧みにブレスを避け続け、焦れて飛びかかってくる飛竜の腹をしたたかに打ち抜き、地に墜ちた竜の頭を寸分違わず正確にかち割った様子はもはや熟練の竜殺騎士のそれ。 何より、以前とは全く違う。
2021-02-16 06:12:24逃げ、隠れ、同僚を囮にしてでも安全に小物を狩っていた男が突然飛竜に挑みかかっていったのだから彼の悪評を知る人間は驚いた。 すごいすごいとめちゃくちゃ褒めてくれたのはリーシャだけで、他の隊員からは不気味がられたが。
2021-02-16 06:27:38正直、誰より本人が驚いている。 心境の変化がここまで戦闘能力に影響するとは思わなかったのだ。 リーシャだけが当然だという顔をしていた。
2021-02-16 06:40:15「元よりウェルは非凡な才覚の持ち主だ。協調や謙虚のため無意識に抑止してきたそれが花開けば誰よりも強くなる」 実のところ的外れではあったが。
2021-02-16 07:17:05ではあったが、生存への執着とそれ以外への欲が逆転した結果生まれた単独での各個撃破戦法は確かに彼の身体に力をつけていった。 でもやっぱり口元に散った竜の血をべろりと舐め取りにたにたと笑う様は、どうあっても不気味。
2021-02-16 07:33:17強くなって孤立が深まったわけではない。仲間もできた。 同じ戦場で同じように飛竜を単独で斃す、白銀の槍騎士。 ワルティエ・モーデン。 若手騎士の最先鋒。討滅隊におけるトップエース。副隊長でもある。 黒騎士ウェルの真逆のような男だ。
2021-02-16 08:38:34飛竜のつがいを中心とした小規模な群れを根絶やしにした戦の終わり。 初の飛竜単独討伐でそれなりに疲労していたが、それでもウェルは副官なので真面目に報告へ向かう。 できれば一番に。 そうするとみんな嫌そうな顔をするから。
2021-02-16 08:43:12だが一番にリーシャの前に立っていたのは違う人間だった。 すらりと背は高く、竜の顎を模した頭冑の奥に覗くのは女すら黙らせる怜悧の美貌。 報告を終え振り返ったところに到着したウェルを見る目は、 「……」 底無しに冷たく、また、厳しい。
2021-02-16 08:52:11「先を越されたな。このたびもお見事ないくさでした、モーデン卿」 ウェルはひとまず柔和な笑みと慇懃な挨拶をもって視線に応じ、改めてリーシャの前に進み出ようとする。 「待て」 かけられた声も冷たかった。
2021-02-16 08:56:31「浴びた血を拭い身を清めて来い。穢れたままリーシャ様の前に立つつもりか」 「ああ…これは失礼。報告を終えたらすぐにでも」 「今行けと言った」 「初めて飛竜を一人で討って逸る気持ち、わかってはもらえませんか?」 「貴様の胸の内は見え透いている」
2021-02-16 09:05:55