寺生まれの毛利

種 一＠刀の筋肉勢美味しい @tanehajime

@now_fes ある殺人事件が起こった。被害者は五歳になる少女。兄と近くのスーパーに買い物に行き、兄がちょっと目を離した隙に姿が見えなくなった。警察や地元の住民達が総出で捜索した結果、近くにある山道で遺体となって見つかった。 #kaidan_bsr

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そこは地元民しか知らない旧道で、住民達も滅多に通らない所だった。警察は土地勘のある者の犯行と断定して捜査し、すぐに犯人は逮捕された。以前からマークされていた変質者だ。悪戯目的で連れ出したが泣かれたので首を絞めて殺害し、無造作に道の脇の茂みに遺棄したという。 #kaidan_bsr

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それからしばらくして、夜に現場を通りかかると女の子の泣き声を聞いたり、姿を見たという噂が立つようになった。そのうち、恐ろしい形相で飛びかかってきたり、車で走っていると後ろをすごいスピードで追いかけてくるなど、よくある都市伝説の様相を呈すようになった。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「――らしいんだ。今夜俺の車でそこへいって、確かめにいかねぇか？」大学の学食で一緒に昼飯を食っていた同級生の政宗が言い始めた。「本当かぁ？胡散臭ぇだろ」俺が言うと、「Ah？お前、怖いのか？」政宗がからかうような口調でニヤリと笑う。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「別にんな訳じゃ」「じゃ、行こうぜ。どうせ暇だろ。真田と猿飛も誘ってある」名前が上がったのは彼女がいない野郎共ばかりだ。仕込みでもして何かやらかす気なのかもしれない。 #kaidan_bsr

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@now_fes レジャーにでも行くかのようなテンションの政宗に半ば呆れながら、俺は仕方なく参加を了解した。どうせ霊の話は眉唾ものだろうが、少しでも涼めるならそれはそれでいいかと無理矢理自分を納得させる。 #kaidan_bsr

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@now_fes その時、少し離れた席に座っている一人の人物が目に入った。旨くなさそうにラーメンを啜っている毛利だ。 #kaidan_bsr

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@now_fes 奴は寺生まれで霊感が強く、不思議な力を持っていた。以前、俺は毛利に救ってもらったことがある。 #kaidan_bsr

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@now_fes ビルの屋上から飛び降り自殺し、その後他の者を道連れにしようとする悪霊に襲われた時の話だ。そのビルの屋上でビアガーデンでバイトをしていた俺は、もう少しで殺されるところだった。 #kaidan_bsr

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@now_fes 休憩時間に事務所で一息入れていると、なぜか今すぐ飛び降りようという気分に陥った。勝手に身体が動き、人のいない事務所の裏口を出てフェンスをよじ登り始めた。 #kaidan_bsr

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@now_fes ――俺はいったい何をやってんだ？自分の行動を不思議に思いつつも、飛び降りることに関しては何の恐怖も感じなかった。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「そこまでよ」フェンスを登る俺の襟首を掴んで引き戻す者がいた。投げ飛ばされるように俺は尻餅をついた。痛む尻を撫でながら見上げると、そこには同年代の男が立っている。どこかで見たことがある顔だ、と思った。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「貴様が如何様に死のうと構わぬが、関係ない者まで巻き込むでない」臨とした迷いのない声で奴は言った。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「姿を見せよ」奴は双眸をすっと細めると、なにか小さく呟き始めた。お経のようだったが、はっきりとはわからない。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「貴様ぁ！邪魔立てするな！」突然俺の背後から声が聞こえた。振り返ると血みどろの太った大男が立っていた。頭は砕け、右目が半分飛び出し、口や鼻や耳からも血を流し、手足は信じられない角度で折れ曲がり……凄惨な自殺者の姿だった。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「借金まみれになって飛ばざるを得なくなったのは、考えも無しに金をばら撒いた貴様の責であろう。自業自得であろうに将来のある若造を道連れにするでないわ」「うるさい！貴様も殺してくれる！」 #kaidan_bsr

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@now_fes 俺は恐怖のあまり動けずにいた。驚くほどの跳躍力で、血みどろの男は毛利に襲いかかろうとする。危ねぇ！俺は叫んだ。 #kaidan_bsr

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@now_fes だが奴は全く動じずに、両手をすっと上に上げた。「照」静かな声とともに頭上から白色の光が降り注ぐ。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「うぎゃああああああああ！！」強烈な光に包まれた男は跡形もなく消え去った。 #kaidan_bsr

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@now_fes 茫然としている俺に向かって「全て終わったぞ。いつまで腰を抜かしているつもりか」ニコリともせずに奴はそう言った。それが同じ大学の同学年であり、寺生まれの毛利との出会いだった。 #kaidan_bsr

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@now_fes 携帯に向かって肝試しの計画を楽しそうに話している政宗から離れて、俺は毛利の向かいの席に着いた。「久しぶりだな」「……誰ぞ」毛利はチュルンと麺を啜り、吊り上った切れ長の瞳でジロリと俺を睨む。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「貴様か。今年はあそこのバイトに行かんのか？」「悪ぃが今年は本屋でバイトしてんだ。たかりにきても何もできねぇぞ」「チッ……せめてファミレスにせよ」「相変わらずだなぁ」 #kaidan_bsr

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@now_fes あの出来事の後、毛利はしょっちゅうビアガーデンへ来て飲み食いするようになった。もちろん俺の奢りで。それはひと夏続き、ビアガーデンの季節が終わるとひどく残念そうな顔をしていたのだ。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「それより話があるんだけどよぉ……」俺は今夜のことを話すと、毛利はつまらなさそうに、「くだらん。貴様、あんな目にあってまだ懲りておらんのか」と、とりつく島もない口調で言う。 #kaidan_bsr

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@now_fes 「俺だって信じちゃいねぇけどな。でももし少女が悪霊になって人を襲い始めたら……」「ありえぬ、そんなことは。馬鹿共が面白半分で流した噂であろう。あまり面白がっておるとひどい目に遭うぞ」毛利は不味そうに残ったスープを飲み干す。 #kaidan_bsr