シー・ノー・イーヴル・ニンジャ #3

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

黄金のイロリで火にかけられた黄金チャガマを挟んで、差し向かいに正座する二人のニンジャあり。

2011-07-28 18:10:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

赤熱する炭を思わせる赤橙色の装束を着たニンジャは煮えたぎる緑の液体を黄金のヒシャクで掬い上げ、茶器に注ぐ。茶器は金ではない。ナスめいた艶やかな黒である。ゼンのアート観はショッギョ・ムッジョを内包したストイックなもので、極めて注意深い洗練の上に存在する。華美なだけではダメなのだ。

2011-07-28 18:16:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

赤橙のニンジャは熟練の手つきでチャ・ミキサーを用い、チャを泡立てると、奥ゆかしく向かいのニンジャに差し出す。「つまらないものですが」「いえ、結構です、悪いです」暗銀色の装束を着たニンジャは一度断る。ここですぐに受け取る愚者は蛮人と見なされ、ムラハチだ。「そう仰らずに」「それでは」

2011-07-28 18:21:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一度断った事で十分な奥ゆかしさがこの暗銀のニンジャに生まれ、儀式めいて手元で茶器を二度廻した後、いよいよその茶器を口元に運ぶ事が許される。一息に飲み干せば、もちろん「ヨクバリ」扱いで即時にムラハチである。三度茶器を傾け、茶器の底にわずかにチャの緑を残すのが正当なワビチャとされる。

2011-07-28 18:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この黄金茶室の黄金タタミに上がる事を許される彼らのギルド位階は共にグランドマスターであるから、複雑怪奇なムラハチ・トラップが幾重にも仕込まれたワビチャの作法は細胞レベルで正しく理解している。彼らは驚くべき事に、ある程度のくつろぎすら見せていた。

2011-07-28 18:30:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ここで一度、皆さんに、「格差社会」を掲げるザイバツ・シャドーギルドの厳格な位階制度について説明しておくとしよう。最下級はアプレンティス(徒弟)。これはニュービー、あるいはそれに準ずるニンジャである。その上に位置するのがアデプト(達者)。最も数の多い下級ニンジャだ。

2011-07-28 18:44:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アデプトの中で特に成果を収め、カラテを極めた者達がマスター位階を授かる。ブラックドラゴンらシテンノは皆、このマスター位階にある。この位階の上にグランドマスター位階は存在し、特にロードのおぼえ目出度い幹部級のニンジャだけが入門を許される。ピラミッドの頂点は無論、ロードその人だ……。

2011-07-28 18:52:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼は実際いかがか?スローハンド=サン」赤橙のニンジャ、イグゾーションが切り出した。「……」暗銀のニンジャは言葉を探した。「そうよな」スローハンドの目の周りの皺は熟年者のそれであり、声も低い。だが彼の実年齢は若い、ずっと若い……その老化は、彼のジツの副作用なのだ。

2011-07-28 19:14:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「カラテのワザマエ、状況判断、奥ゆかしさ。申し分無し」スローハンドは言った。「ギルドをより高次の組織へと導く存在たりうるやも知れぬ」「……絶賛だな。スローハンド=サン」イグゾーションは含みを持たせた。スローハンドは目を細める。「何か引っかかる事があるか、イグゾーション=サン」

2011-07-28 19:18:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イグゾーションはしばし沈黙し、答えた。「そこよ。その申し分の無さ、完璧さ。それがかえって、彼の真意を隠しておるように」「……」「彼の来歴も、実際コウモリめいている事だ」「ふむ」スローハンドは沈思黙考した。イグゾーションは扇子を取り出し、己を扇いだ。スローハンドは茶菓子を取る。

2011-07-28 19:32:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カコーン。茶室の黄金ショウジ戸の向こうで、控えめなシシオドシが鳴った。これはイグゾーションへの何らかの報せの合図である。外には配下のアデプトないしマスター位階のニンジャが膝まづいているはずだ。しかし当然、「用ができた」などと言ってこの場をすぐに中座するような行為は厳禁である。

2011-07-28 20:00:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おや、何か聞こえましたな」スローハンドが水を向けた。彼も勿論シシオドシ音がイグゾーションへのメッセージ合図である事を知っている。イグゾーションは頷き、「私が見てきましょう」と答えて腰を浮かせた。「こちらはお任せください」とスローハンド。「申し訳ありません」とイグゾーション。

2011-07-28 20:06:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人のやり取りはアートめいて滑らかに完成されていた。ワビチャに精通しない者がこういった場に紛れ込んだ場合、まず間違いなく、恥辱のあまり自らセプクするはめになる。こういった官僚的儀礼の数々は長い年月をかけて形成された無言の障壁であり、格差社会を強固に維持するシステムなのだ……。

2011-07-28 20:20:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ、クラミドサウルス=サン」茶室を離れたイグゾーションは廊下で傅く茶色のニンジャに目配せした。「ハハーッ!」クラミドサウルスは両手を顔の前で組み合わせアイサツした。「君の姿を見られるという事は、首尾があったと考えて良いのかな」「その通りでして!」クラミドサウルスは頷いた。

2011-07-28 20:59:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見つけましてございます。ウミノ・スド。存命です。まぁ、見つからなかったのは、偽名で獄中にいたからでして。ちったあ考えたんでしょうなぁ、しかしまぁ、考えが浅いといいますか、こうなると袋の中のネズミですわ」「でかした!素晴らしいぞクラミドサウルス=サン」イグゾーションは褒め称えた。

2011-07-28 21:17:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ありがたき幸せで!」クラミドサウルスは額を床に擦りつけた。イグゾーションは彼を促して先を歩かせ、廊下を進んでゆく。ここはキョート城の高い階で、廊下はバルコニー状、朱塗りの手摺の向こうにはキョートの夜景が広がる。夜空には汚染大気を透かして満月が出ている。「風流なものだ」「へへえ」

2011-07-28 21:44:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今回の任務は君ひとりの極秘任務だよ。ウミノの居場所を知るのは、私と……君だけだ」「へえ。ありがたき幸せで!口が固いのが取り柄でして」クラミドサウルスは頭を掻いて照れ、ノソノソ歩いて行く。「私自身がプリズンへ直々に向かわねばならん。ウミノが抱えるのは、それほどまでに重大な秘密だ」

2011-07-28 21:55:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イグゾーションはクラミドサウルスから受け取ったマキモノを懐へしまい、繰り返す。「重大な秘密なのだ。……すまんな……」「へえ?」イグゾーションの謝罪をクラミドサウルスは訝しんだ。「そりゃもう、お安い御用です……?」「君の忠誠を疑った事はない」イグゾーションは彼の肩に手を置いた。

2011-07-28 22:04:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ありがたき幸……え……え?え……アバッ!?」クラミドサウルスは己の身体に異変を感じ、肩に手を置くイグゾーションを見た。「アバッ……アバババッ……アバババッ……!?」驚愕に見開かれたクラミドサウルスの目が内側から光を放ち、白色高輝度LEDめいて激しく輝き出す!「アバババッ!?」

2011-07-28 22:12:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「君の忠誠は素晴らしいものだ……だから私は悲しい。こうしなければならない事はほんとうに悲しいし、すまないと思う」眉間に皺を寄せ、イグゾーションが言う。「ア、アッ!?アバッ?アバババッ!?」クラミドサウルスはせわしなく顔を左右に振ってもがくが、イグゾーションの手は肩から離れない。

2011-07-28 22:16:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「『充填』に時間がかかるね……さすがだ。誇りに思っていいのだよ。ハイクを詠む時間もあるやも知れん、実際詠めはしないが……なにしろ脳がね……しかし君をこんな目に合わせねばならんとは、本当に残念だ」「アバババッ!?アバババッ!?アバババッ!?」

2011-07-28 22:23:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

懐中電灯めいた白光が、両目から、そしてズキンを透かして両耳から、そしてメンポの呼吸孔から迸り出る!「アッバーッ!?」クラミドサウルスは弾かれたように突如バンザイした!「アバババーッ!」そしてバンザイしたまま廊下を走り出す!アブナイ!手摺だ!それをハードル競走めいてジャンプ!

2011-07-28 22:28:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アバーッ!」ナムアミダブツ!突然の自殺衝動に駆られたが如く、クラミドサウルスは手摺を超えて空中へ飛び出した!「アバーッ!」全身が発光!そして爆発!カブーン!跡形も無く塵と化し、はるか下、城を囲む堀に潜むバイオリュウグウノツカイの餌と化して散らばり落ちる……!ナムアミダブツ!

2011-07-28 22:38:25