角田光代「八日目の蟬」

翔DMWL @shoDMWL

醤油や、米や、そういうものを手に取り、買っていいものかどうか悩む。今気づいた。醤油だの米だのというものは、ただの商品ではなく、暮らしの保障なのだ。明日も明後日もそれを使うという、家で食事をすることができるという、穏やかな暮らしの保障。－角田光代「八日目の蟬」

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「ほら、あなたが言っているのは、美貌は目的ではなくて手段だということでしょ。美貌というものを使ってあなたが手に入れたいものは何?力?仕事?いい条件の結婚?それを答えなきゃ」－角田光代「八日目の蟬」

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こういうときにどうすればいいのか知っている。挑発に乗ってはいけない、声を荒げてはいけない、意思の疎通を図ってはいけない、丁寧に穏やかに感情を込めて、用意された言葉を機械的に繰り返せばいい。就職した会社の研修で、クレーム処理の電話応対をした一週間で私はそう学んだ。－角田光代「八日目

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でも、今ならわかる。もちろん全部はわからない。ただひとつだけ、嘘ばかりつく、女にだらしのない、何にも決められない人でも、好きになってしまうこともある、ということはわかる。わかる自分に心底嫌悪を覚えるとしても。－角田光代「八日目の蟬」

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両親がひとり暮らしに反対して、生活費を自分で稼いでいるという話を、あのとき岸田さんにしたのは、もっと言ってほしかったからだ。君は何にも悪くないのだと、あの家があんなふうなのも、家を出ることだけが私の希望だったことも、みんな忘れてしまっていいのだと、

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もう誰も君の過去を知らないんだから安心していいのだと、言ってほしかったからだ。－角田光代「八日目の蟬」

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島の人間は部外者には敏感だが、それは裏を返せば見知ったものには警戒を簡単に解いてしまう、ということでもある。－角田光代「八日目の蟬」

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そこで言葉を切り、大きく深呼吸して、千草はつぶやいた。「わたし、自分が持っていないものを数えて過ごすのはもう嫌なの」－角田光代「八日目の蟬」

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憎みたくなんか、なかったんだ。私は今初めてそう思う。本当に、私は、何をも憎みたくなんかなかったんだ。あの女も、父も母も、自分自身の過去も。憎むことは私を楽にはしたが、狭く窮屈な場所に閉じ込めた。憎めば憎むほど、その場所はどんどん私を圧迫した。－角田光代「八日目の蟬」

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八日目の蟬（角田光代）読了。周りが一週間で死んでしまって自分だけが八日目の世界に生きている。それはとても孤独なこと?いや、それはギュッと目をつぶっていないと耐えられないようなものではなく、そこに広がるのはどこか懐かしくもある景色。

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親が犯した過ちを永遠背負って生きていかなければならないわけではない。自分の生き方は自分で決める。それを教えてくれた本書。 #mybooklist