普通シンドローム

「普通」から外れることを極端に恐れる普通シンドローム。これが日本社会でいかに形成されてきたか、仮説を立ててみる。
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shinshinohara @ShinShinohara

今日もzoom飲み会(飲まないけど)に参加。その時、「普通シンドローム」という話題が。就職活動にはみんな真っ黒なリクルートスーツ。学校でも制服のスカートの丈にやかましい。親御さんも我が子が「普通」に収まらない恐怖が強い。これはもう「普通恐怖症」「普通シンドローム」と呼んでよいかも。

2021-03-26 23:20:21
shinshinohara @ShinShinohara

小学校から高校まで、先生たちは生徒に「普通」を求め、枠から外れることを嫌う。一つには、「普通」でない子は扱いにくく、授業が成立しにくいからかもしれない。「普通」の子ばかりならスムーズに授業が進められる。便宜的な理由もあるかもしれない。

2021-03-26 23:22:00
shinshinohara @ShinShinohara

では、いつから学校は「普通」を求めるようになったのだろうか?「ドカベン」では、いわきなど不良がケンカばかりしているシーンが現れる。面白いことに、当時の教師はケンカをあまり咎める様子はない。これは父の証言を聞いてもどうやらそうだったらしい。生徒に「普通」を求めていなかった。

2021-03-26 23:25:14
shinshinohara @ShinShinohara

「ドカベン」の連載は1972年から。この漫画を読んでいると、今でいう「普通」のイメージが見当たらない。いわきもトンマも山田太郎もみんな個性的で、「普通」の登場人物が出てこない。この時代には「普通シンドローム」はなかったようだ。

2021-03-26 23:34:50
shinshinohara @ShinShinohara

「3年B組金八先生」は1979年放映開始。シリーズ1の間はまだ「普通」のイメージがまだ明確ではなく、ややおぼろげ。パート2(1980年放映開始)になると、校内暴力を描くことで逆説的に「普通」(問題を起こさない生徒)が形を現し始めている。

2021-03-26 23:42:25
shinshinohara @ShinShinohara

ちょうどそのころ、「3年奇面組」(1980年連載スタート)が始まる。この漫画は明確に没個性を描いていた。個性を消し、目立つことを恐怖する「普通」の子と、個性的な顔ゆえに「普通」を諦めている奇面組、という内容。

2021-03-26 23:44:41
shinshinohara @ShinShinohara

このころ、何が起きていたか。1979年、共通一次がスタート。それまでは、大学がそれぞれ準備する試験をいきなり受けて合否を決める試験スタイルだったのが、共通一次を受け、各大学が用意する二次試験を受ける、というスタイルに変わった。これと「普通」に大きな関係がある、というのが私の仮説。

2021-03-26 23:50:29
shinshinohara @ShinShinohara

河合塾の名物講師、牧野剛氏は、共通一次という制度がスタートする際に警告したという。「そんなこと始めたら、我々予備校はすべての大学を偏差値で序列化しますよ。それでいいですか?」そして実際、共通一次開始とともに、大学は偏差値でランク付けされた。

2021-03-26 23:54:17
shinshinohara @ShinShinohara

東大を最難関として、大学の難易度を偏差値でランク付けし、序列化することが受験では常識となった。やがてこのランク付けは高校に波及していく。この高校に入学するにはこれくらいの偏差値がないと、というように、高校も序列化が始まった。

2021-03-26 23:56:14
shinshinohara @ShinShinohara

高校の序列化が始まったあたりで「内申書」が重みを増してきたようだ。内申書は、中学校の教師が進学先の高校への申し送り書。しかしそれに何を書かれるかで進学できる高校が決まってしまうかも、という恐怖。教師から目をつけられないで済む「普通」圧力がこのあたりからスタートしたのかも。

2021-03-26 23:59:34
shinshinohara @ShinShinohara

1983年から連載を開始した「ウイングマン」という漫画で「内申書に書いてやる!」と教師が叫ぶシーンが登場する。もうこのころにははっきり、内申書が中学生への脅しとして使える、強制力のあるものとして認識されていることを示している。

2021-03-27 00:01:06
shinshinohara @ShinShinohara

興味深いことに、校内暴力は1970年末期あたりから問題になり始めている。「3年B組金八先生」でも、1980年には校内暴力をテーマに取り上げている。共通一次がスタートしたことと、私は関係があるのではないか、と疑っている。

2021-03-27 00:05:50
shinshinohara @ShinShinohara

「ドカベン」ではケンカのシーンがよく描かれている。他校の不良と抗争するというような派手なケンカもあったりしたようだが、学校の教師はこの当時、あまり気にしていない感じ。共通一次が始まる前は「ケンカ」は多かったがその後の「校内暴力」とは質が違うらしい。

2021-03-27 00:09:17
shinshinohara @ShinShinohara

「3年B組金八先生」シリーズ2では、生徒同士、あるいは他校の生徒同士の「ケンカ」ではなく、先生という「支配者」に逆らい、反抗する「校内暴力」がはっきりと描かれている。「普通」でない不良を「腐ったミカン」と表現する場面も出てくる。

2021-03-27 00:10:56
shinshinohara @ShinShinohara

ここからは私の仮説だが、共通一次がスタートしたことで、偏差値による大学の序列化が始まり、それに伴って高校も偏差値でランク付けされ、中学校では偏差値と内申書で子供をランク付けするようになった。これに対する強烈な反発が校内暴力だったのでは。

2021-03-27 00:12:34
shinshinohara @ShinShinohara

校内暴力は、成績による序列化への反発だったのだが、結局は鎮圧され、序列化に素直に従う子どもたちが「普通」となった。「3年奇面組」は、内申書でマイナスのことを書かれるのを恐れ、成績による序列化を受け入れた子供たちの「普通」を背景にした漫画として成立している。

2021-03-27 00:14:37
shinshinohara @ShinShinohara

つまり、「普通」は、共通一次が行われるようになったことで、子どもの世界が学校の成績で序列化されるようになり、異質なことをして先生に目をつけられることを恐れるようになったことから誕生したものではないか、という仮説。

2021-03-27 00:16:24
shinshinohara @ShinShinohara

もう一つ、「普通」を強化したのかもしれない、と考えているのが、大店法の廃止(2000年)。2000年になるまで、日本は、今でいうイーオンなどの、敷地面積の広大な大きなお店の出店は規制されていた。これにより、商店街の小規模店舗は結構健在だった。

2021-03-27 00:24:01
shinshinohara @ShinShinohara

「3年B組金八先生」でも「ハイスクール!奇面組」(「3年奇面組」の続編、1982~1987年)でも、町工場で働いたり、家業の酒屋を継ぐなどのシーンが描かれている。中小の独立した自営業の働き方が数多く残っていた時代だった。「就職」と同じくらい、「家業を継ぐ」のはごく普通だった。

2021-03-27 00:28:05
shinshinohara @ShinShinohara

ところが大店法廃止で大型スーパーが全国に立ち並ぶようになると、商店街は次々とシャッター街に変化していった。モータリゼーション(自家用車で乗り回す社会)もあり、歩いて買い物しなければならない商店街は嫌われ、品ぞろえもよい大規模店舗にこぞって行くようになったからだ。

2021-03-27 00:29:50
shinshinohara @ShinShinohara

ほぼ同時期、2000年代に入ると、中小の工場まで姿を消し始めた。産業の空洞化。超円高が始まり、国内で製造していては採算が合わない、アジアに工場を移すよう、大企業からも要請され、多くの工場が海外に移転した。

2021-03-27 00:32:42
shinshinohara @ShinShinohara

大店法廃止→大型店舗乱立→商店街の崩壊 超円高→工場の海外移転→産業空洞化→中小工場の大幅減 これにより、若者は「家業を継ぐ」という働き方を選ぶことが困難になった。働く≒就職する、という図式が2000年代に入ってから強固になり出した。

2021-03-27 00:34:53
shinshinohara @ShinShinohara

興味深いことに、1990年代と2000年代で、リクルートスーツに違いがみられる。1990年代までは、就職活動のスーツは比較的カラフルだった。ところが2000年代に入ると、黒一択になる。「普通シンドローム」の完成を見る思いがする。 togetter.com/li/303211

2021-03-27 00:36:58
shinshinohara @ShinShinohara

以上、私の仮説をまとめると、「普通シンドローム」の形成は、「共通一次」と「就職」が原因ではないか、とみている。 共通一次は大学の、そして高校の、ついには中学での偏差値での序列化を生み、それへの反発としての校内暴力も鎮圧され、序列を容認した「普通」の子どもになる圧力が決定的に。

2021-03-27 00:40:27
shinshinohara @ShinShinohara

そして、2000年代に入り、大店法が廃止されて商店街が消滅していき、超円高で中小工場が海外に移転し、「家業を継ぐ」という働き方が選択できなくなり、なるべく大きな企業に「就職する」という道しか選べなくなった。

2021-03-27 00:41:46